たがか夢【どこかで起きていたらしい話】

中編5
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たがか夢【どこかで起きていたらしい話】

拝啓 仲秋の候 爽やかな季節を満喫なさっているのではないのでしょうか。

 あなたからいただいた手紙がとどいた日は奇しくも“鶺鴒鳴”。

 鶺鴒の別称は恋数え鳥。イザナギとイザナミを結んだ鳥らしく、この鳥のおかげで恋が成就する事例があったりなかったり…。

 鳥でどうカップル成立するのでしょうね?

 強烈な笑いに襲われましたが、しっかり拝読しました。

 なるほど、夢の中で本当に意中のあの子と二人きりになれたのですね。この前の手紙に方法を書いてくれましたが、嘘八百のおまじないと侮っていました。あなたの本気、見させてもらいました。

 ところが災難でしたね。まさか悪夢を見ることになろうとは。夢だと分かっても精神的にきますよね。

 ちなみに、彼女に首を絞められる理由について心当たりはありますか?

 日頃から無意識のうちに目で追っているせいで彼女の方は嫌悪感がつのっていたりして。

 …ごめんなんさい。落ち込んでいる相手に向ける言葉ではありませんね。

 あくまで知識に基づいた推測ですが、慰めを用意しました。

 夢の中で鏡を見てはいけない。その理由はいくつかあるのですが、「夢の中の自分が必ずしも自分の姿をしていないので、現実の自分と異なる姿を目撃することで自我が崩壊してしまう」説があります。

 夢のあなた、そして彼女が現実と同じ姿をしていたのでしょうか?

 本当に、首を絞めていたのは彼女で、あなたを殺すつもりだったのでしょうか?

 あなたは臆病故に現実の彼女と接触していないのでしょう。きっと人違いですよ。

 ただの夢で気を落とさないでください。

 私なんて現実で首を絞められますからね。心当たりがありすぎて困っちゃいますよ。

 …なんて、私の事情はどうでもいいこでした。

 

 さて、ここから朗読の件について返事をかきます。

 ぜひ、使ってください。

 どうせあなたには「どこかで起きていた“らしい”」ネタとしか扱われていないんだろうなと諦めていたのですが、ついに怪談ラヂヲに出演されるなんて!光栄です。

 それにしても、エアコンの話を選びましたか…。夢と現実が繋がっているような繋がっていないような、なんとも奇妙な話ですね。

 しかしあれはハチャメチャですよ。未解決のまま、どれが正解なのか分からないままの中途半端な出来事ですが、いいのですか?

 答え合わせ?できませんよ!暴力沙汰起こしたせいであの場所には近づけませんって!私ついて行っただけなのに、止められなかっただけで同罪だそうです…。

 だからあの出来事は謎のままお終いです。

 気になる点はたくさんあると思いますが、詳しいことはお伝えできません。

 お詫びになるのか怪しいのですが、夢に悩むお客さんのお話を書きたいと思います。(許可をとっていないので、私がこうして記述していることはご内密にしていただけるとありがたい)

 蝋燭を買いに来たおばあちゃんの付き添いの子供から聞いた話です。とても奇妙な夢を毎晩見ているという愚痴から始まりました。

 夢の中でお客さんは、共同住宅の住人の一人でした。一人暮らしを始めて最初の夏、エアコンがたまにつかなくなる事態が発生しました。不定期なのですが、一週間に一日の割合でエアコンが動かなくなるのです。

 近所の人に相談した結果、十数年前に体を解体されてエアコンに詰められた女の霊が原因だと判明しました。しかし原因は分かったけれど肝心の解決策は見つかっていません。同じ建物に住む住民に協力を求めるもののうまくいかない、という内容の夢を一週間前からみているそうです。

「建物のすべてのエアコンに入れられていたんだ。だから全部の部屋が、エアコンのつかない事態が発生してるはずなんだ」

「すべてのエアコンに体の一部を入れるのか。現実ではありえない話だな」

 事件が起きてからエアコンが不調になってしまったはずなのに、お客さん以外の住人は何もしなかったのでしょうか?尋ねると、お客さんは怪訝な顔つきで夢の続きを語ってくれました。

 一度の夢で一人だけ、住人と対話が可能だそうです。

 唯一施錠されていない扉の先に、住人が待っているのです。

 部屋の中は蒸し暑いのに、住人は涼しい顔を崩さず正坐をしています。夢によって性別は変わりますが、全員中年で、柔和な笑みが共通しています。初めて見る顔なのに再会を果たしたような気分でいると、相手は必ずこう言うのです。

「あなたはマザーの仇をとってくれますか?」

「マザー?実母のことか?」

「違うと思う。マザーはあいつらの崇拝対象。マザーのおかげで自分は生きていると言っていた」

 お客さんはお腹を撫でる仕草をしてから「そういえば」と手をうった。

「みんな、体のどこかを擦っていた。お腹や胸やみぞおちに手を当てていたんだ」

「会話中にじっとしていられないだけでは?」

 特に意味はないと思うのですが。 

「とにかく、みんなマザーの仇をとってくれとしか言わないわけ。もしかしてエアコンに詰められた人なのかと思って質問しても答えてくれない。自力で謎を解決しないと変な夢を見続けそうなんだ」

「なんだか、謎が広がるばかりで収集がつかない夢だな」

 ごちゃごちゃした夢を見て続けていれば疲れてしまいます。お客さんはかなり思い詰めているようで「幽霊に憑かれているから悪夢を見ている」と呟いていました。

 本人はうんざりしていますが、私は少しその夢に興味がありました。夢を見るきっかけに心当たりはないかと訊くと、お客さんは首を傾げていました。

 お客さんが見た夢の前半部分に既視感を抱いたのです。何故でしょうか。

 怪談では、最後まで見てはいけない夢があります。お客さんが災厄な夢のせいで最悪な事態にならないことを祈ります。

 嫌な夢、または不気味な夢を見ても「たかが夢」だと割り切りましょう。私たちは現実を生きているのだから。

 あなたも気持ちを切り替えて、怪談集めを勤しんでください。朗読ラヂヲ、楽しみにしています。

×月Θ日

                               ファン一号

 はじまってすらいないのにおわっているあなた

 追記

 あなたが見た夢のことなのですが。

 もし彼女の姿は一致しており、あなたの姿が、《彼女が憎む相手》だとしたら、首を絞めてしまうほど恨めしい人は誰なのか気になりませんか?

 反対にあなただけ姿が一致していた場合、あなたを殺したいほど恨んでいる《そいつ》が誰なのか考えるのも楽しそうですね。

Concrete
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