あおいくま〜悪友シリーズ〜

中編4
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あおいくま〜悪友シリーズ〜

 小学生最後の年の夏ーーー『学校の七不思議』の最後の検証を私と悪友は実行しようとしていました。

 なぜ、最初と最後しか話がないのかといえば、他の5つがうまく行かなかったからです。

 『独りでに開いて閉まる防火扉の謎』も『逆サマの謎』はやってみたもののなにも起こらず大ハズレ。

 残りの3つは5年生の終わり頃に起きたとある騒動により学校側が『怪談禁止令』なるものを出して実行不能に……。

 それではやりきれない、と悪友はせめて最後の七不思議だけは解きたいと駄々をこねたため私も巻き込まれました。

 

 『あおいくま』───。

 それは私達の学校のグランドに隣接している遊具が建ち並ぶスペースの端にある青い色をした熊の像のことです。

 いつからそこにあるのか、なんでそこにあるのか、なぜ『熊』なのか、なぜ青色なのか? すべて謎でした。

 当然、この『謎』にも噂が立ちます。

 ───『夜にあおいくまを訪れるとそこで自殺した女の霊が出る』。

 実にありきたりな噂でしたが、私達には確証に近い予感がありました。

 そこに女性の霊が現れるかどうかは不確かですが、そこでは確かに人が死んでいます。

 ……私たちの同級生が。

 原因は定かではありませんが、件の騒動の最中にその子はその『あおいくま』にもたれ掛かるようにして死んでいました。

 外傷が見当たらないことから『心臓麻痺』ということで片付けられたそうですが、小学生だったため詳しいことは分かりませんでした。

 その子の死を皮切りにあれだけ学年を騒がせていた怪談ブームはパタリと止み、学校側から異例の怪談禁止令が出たのでした。

 そのこともあり、怪談好きの私も今回だけは悪友の駄々には賛同できませんでした。

 怖いとか以前に、同級生が亡くなったところに遊び半分に行くことが小学生ながら不謹慎極まりないことだと思っていました。

 

 ───やっぱり止めたほうがいい

 そう思っても私は悪友の事がどうしても気になってしまい、家を抜け出して集合場所の夜の校門前に来てしまいました。

 しかし、約束の時間になっても悪友は現れません。

 

 「おっそいなぁ……」

 私が悪態を吐いたその時、悪友がなんの悪びれもない様子で遅刻して来ました。

 彼の手にはなぜか花束と『たけのこの里』が握られていました。

 「遅いんだけど!」

 「いやー、悪い悪い」

 「はぁ……」

 

 ヘラヘラと笑う悪友に一旦は怒りが沸き起こりましたが、彼の笑顔にはどうにも毒気を抜かれてしまいます。

 

 「行こうぜ」

 「うん」

 

 夜の校門を登り不法侵入する悪友の後を後ろを気にしながら私も追いました。

 夜の校庭はどこか寂しくそして異常に広く感じました。

 遠くで電車の走る音が聞こえる───。

 私は悪友の背中を負いながら遊具のある区画へ向かいます。

 「……」

 悪友は校庭を歩いている間、私に一言として話しかけてはくれませんでした。

 無言で歩くこと5分、私達は遊具のある区画へ到着しました。

 その隅に妙な存在感を放ちながら『あおいくま』が佇んでいました。

 

 「よし、行くか」

  

 悪友は何かを決したように『あおいくま』に向かって歩き出しました。

 私はやっぱり止めよう! と彼を止めようとしましたがそれが一歩遅く、先行く彼の背中を見つめるしかありませんでした。

 すると、彼は『あおいくま』の前まで行くとそこに花束と菓子を置いて跪いたのです。

 何事!? と思った私は慌てて悪友の真後ろまで行きました。

 「ちょっと、大丈夫!?」

 「…………」

 悪友は答えません。

 ずっと跪いて黙ったきりなんです。

 私は怖くなって彼の背中をなぜか擦っていました。

 彼の背中を5分くらい擦っていると、彼がようやく口を開いたのです。

 「───ごめん……」

 掠れるような声で悪友はそう呟いたのです。

 その瞬間、私は全てを悟りました。

 彼はまだ、悔やんでいたのです。

 あの子を救えなかったことを───。

〜後日談〜

 その後、私達は校門を抜けて家路に着きました。

 帰り道、悪友はふとこんなことを聞いてきました。

 「あいつはオレを許してくれたかな……?」

 オレには聞こえなかった、そう言って彼は私に尋ねてきたのです。

 アンタに聞こえないのに私に聞こえるか! とツッコミたかったのですがそこをなんとか抑えて私はこう答えました。

 「うん、『いいよ』って言ってた……」

 それを聞いた悪友は安堵を浮かべて「そっか……」と笑いました。

 たとえ、嘘だとしても最後に彼に何かを返せて良かったと思いました。

 

 ───数日後、悪友は私に別れも告げず家の事情で転校していきました。  

 

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