長編12
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偽物と本物

開発地、そして刑務所内で発生した連続失踪事件。

刑務所内で起きた事件については、秘密裏に処理されようとしていたが、そこはネット社会。

匿名者からの投稿により、その話題は一気に拡散し、その影響は国を動かすには十分な物となった。

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「この国でこんな事があってたまるか!」

「その通りだ!

すぐに事態の収拾に当たれ!

特別調査チ―ムを組み、すぐに現地へ派遣しろ!」

「かしこまりました。

すぐに手配致します。」

大きな部屋に十数名の男達が集まり、今回の事件について議論している。

「しかし、どの様な者を現地へ向かわせればいいのか…。」

「誰でも構わん!

専門家と名の付く者は手当たり次第送り込め!

こじつけでも何でもいいから、理由を付けて事態が収拾したように見せるんだ!」

「わ、分かりました。

早急に手配致します。」

我が身の保身のみを考える中核が出した指令は何ともお粗末な物であった。

一方、書物にて過去の事件との関連性を強く疑った男は、独自に動き始めていた。

男は少し前まで、大学で民俗学を教えており、その繋がりでオカルトに詳しい知人も沢山持っていた。

その中でも、特に親しかった友人の一人に連絡をとり、可能な限り霊能力者の類いを集めて欲しいと依頼した。

男は友人からの連絡を待つ間、今回の失踪者について調べあげた。

「これも…これも…。

やはりか…。」

男が調べていた物は失踪者の出身地である。

そして、失踪した捜索隊員、刑務所内で消えた受刑者、そのどれもがあの村と繋がった。

各々、生活の場は違えど、元を辿って行くと最後はあの村に辿り着く。

この頃には男の疑いは確信に変わっていた。

「やはりそうか…。

だとすると…私もいずれ…。」

男はソファーに腰掛け、静かに目を閉じる。

「…。

ん?何故だ?

あの村に関係のある人間が今回の被害者…。

だとすると…?」

男はソファーから飛び起き、もう一度資料に目を通す。

「やっぱりだ!

今回の事件の引き金となったあの兄弟は、あの村とは何の関連性もない。

それにあの二人は今回で唯一の生存者…。

この事件とは全く無関係なのか…?」

男は頭を抱えて悩みこんでいる。

♪♪♪〜。

不意に男の携帯が鳴り響いた。

依頼をしていた友人からだ。

男は慌てて電話に出る。

「もしもし。

あぁ、そうかありがとう。

明日?そんなに早く手配してくれたのか?!

本当にありがとう。」

男は電話を切り、窓の外を眺めた。

次の日。

男の家の応接室には、38名もの霊能力者達が集まっていた。

その中には、テレビや雑誌で見掛ける者や、巷で良く当たると評判の占い師まで、様々な霊能力者達が集まっていた。

男は皆の前に立ち、ここまで出向いてくれた事への礼を述べ、本題に入った。

「気を悪く為さらないで聞いて下さい。

今回、皆様にご足労をお願いしたのは他でも無い、今世間を騒がせている事件の発端となるモノを鎮める為です。」

この男の発言に皆がざわめく。

「私は皆様の様に特別な能力を持ち合わせてはおり

ませんので、はっきりとした事は分かりませんが、

本当に力を持った方で無いと、その命の保証は致し

かねます。

よって今からテストをさせて頂きます。

その合格者のみ、今回お力をお借り致します。」

男はそう説明すると、隣の部屋へと続く扉を開けた。

「それではテストを始めますので、一人ずつ中へお入り下さい。」

そして男は集まった霊能力者達を順に呼んでいった。

男の言うテストとはたった一つの質問をするだけ。

本物かどうかを見極めるにはそれだけで十分であった。

「今回の事件の犯人は?」

男がする質問はこれだけである。

書物にあった通り、陰陽師や鬼と答えた者を合格とする。

「白蛇のたたりじゃ!」

「昔に戦争で犠牲になった者達の姿が見える」

「はっきりと見えます!これはその昔、この辺りを襲った大ナマズの仕業です!」

集まった霊能力者達が、残り半数程になった時には、男は落胆の色を隠せ無くなっていた。

テレビに出ている者も、有名な占い師も、その解答は正解とは程遠く、男の失望が更に加速していった。

やはり本物には出会えないのか…。

次の者を呼ぶ男の声に、もはや力は無い。

それでも男は同じ質問を繰り返す。

「今回の事件の犯人は?」

「何?テストとはこれの事か?」

次に入って来たのは袈裟を纏った老僧。

何故か男の質問に苛立ちを感じている様子だ。

「これがテストだと?

馬鹿にするにも程があるぞ貴様!」

老僧は声を荒げ怒りを露にする。

「そ、そう仰らずにどうかお答え下さい。」

男は老僧を何とか宥め、質問の答えを求めた。

「ふん!

こんな物がテストとはの!

鬼じゃ!」

?!

男は驚いた。

「い、今なんと?」

「聞こえんかったのか?!

鬼じゃと言うたんじゃ!

こんな物は誰にでも分かるわ!

テレビ越しでもヤツラの匂いが鼻につきよる!」

「やっと…。

やっと本物に出会えました!」

男は声を震わせ喜んだ。

「なに?!

まさか儂が初めての正解者じゃあるまいな?」

男は既にテストを終え、失格となった霊能力者達の解答を老僧に伝えた。

「なんと?!

こんな事すら分からん輩が霊能力者を名乗るとは…。」

「あなた様の様な本物の霊能力者をお待ちしておりました。

どうぞこちらでもう少しお待ち下さい。」

男はそう言うと、違う部屋へ老僧を案内した。

案内が終わり、部屋に戻った男は再びテストを再開する。

相変わらずの的外れが続き、残る霊能力者は後、五名。

この時点で、三十三名がテストを終えて、合格者は僅か一名。

この数字を多いと取るか、少ないと取るか男には分からなかったが、少なくとも一名は本物の霊能力者に出会えた事で、男は少し安堵していた。

「次の方、どうぞお入り下さい。」

男に呼ばれ、ジャラジャラと身に付けたアクセサリーを鳴らしながら部屋へと入って来た男性。

男性は部屋へ入るなり、男に言う。

「おっさんさぁ。

テストなんて止めにしてさっさと行かね?

鬼退治によぉ。」

「おっ鬼退治?!」

男は、質問する前に男性の口から鬼と言う言葉が飛び出た事に驚いた。

「あぁ。

前から一度やって見たかったんだよなぁ。

鬼退治(笑)

おっさん?

この依頼、高くつくぜ?(笑)」

「も、勿論です。

報酬の方はご心配無く。

あなた様も合格ですのでこちらへどうぞ。」

「え?俺、合格?

ラッキー!

テストなんて言うから小難しい問題か何かだと思ってたよ。

なんだよ超楽勝じゃん!」

男性は老僧の待つ部屋へと案内される。

これで二名…か。

そして残すところ後一名になった時、男は天井を見上げ考えていた。

「果たして二名で何とかなる物か…。」

男は気を取り直し、最後の一名を招き入れた。

「はぁ〜…」

男は思わず溜め息を漏らしてしまう。

それもその筈。

最後に入って来た霊能力者は、今回の参加者の中でも飛び抜けて若く、まだ幼さの残る顔立ちをした青年だった。

そんな青年を前にし、とても力になるとは思えなかった。

やはり二名で何とかしなければ…。

男はそう思ったが、テストをしない訳にも行かず青年に質問をした。

「今回の事件の犯人は?」

男が質問をすると、それまで少し俯き加減であった青年がゆっくりと顔をあげ、男の目を真っ直ぐに見据えた。

?!

その瞬間、男は妙な感覚に陥った。

それはまるで、目の前にいる青年に自分の心臓を鷲掴みにされている様な感覚。

闘う前から自分の敗北が決まっている様な、圧倒的強者の持つ威圧感。

そんな青年を前にし、自然と男の呼吸が荒くなる。

青年はじっと男を見つめる。

そして青年が口を開く。

「貴方も命を狙われている身。

あそこへ行けばご自身の死期を早める事になりますよ?

それでも尚、鬼を仕止め、ソレらを従える者を鎮めると仰るのなら、私はどの様な尽力も惜しみません。」

青年は静かに、穏やかな口調でそう言った。

鬼の事だけでは無く、ソレらを従える者の存在、そして男性自らが狙われている事。

全てを見透かすこの青年に、男は完全に心を奪われた。

「わ、私は何と言う事を…。

大変申し訳ございませんでした!

あなた様の容姿のみで判断し、失礼な態度を…。

本当に申し訳ございません!」

男は先程の無礼を詫び、深々と頭を下げた。

そんな男の肩に手を置き、青年は頭を上げる様に促した。

男性がこの青年に、完全なる敗北を認めた瞬間であった。

それ程までに青年は大きく、安らぎに満ちていた。

男は青年を先の二人が待つ部屋へと案内し、彼等に書物を見せながら過去の愚かな惨劇を説明した。

「おいおい…。

そんな話し俺らじゃなきゃ誰もまともに相手してくれねぇぞ?」

「確かにそうじゃな…。

鬼と言うだけでも嘘か誠か怪しい所じゃと言うのに、ソレらを従える者が、晴明の末裔じゃと?」

男の話しに老僧と男性は少し疑いを感じている様だ。

「やはりあなた様達でも疑ってしまう程、有り得ない事なのでしょうか?」

男が二人に訪ねた。

「別に疑っておる訳じゃない。

じゃが、まず鬼が三体おる時点で有り得ない程の大事じゃ。

そしてその主が晴明の末裔となると…。

少しのぉ。」

「いや、でもよ?

もし本当に三体もの鬼を従えるヤツがいるとするなら、それこそ並の術者じゃ話しになんねぇよな?

だとするなら…。」

二人に緊張が走る。

「ど、どうでしょう…。

私の依頼を受けて頂けますか?」

男は三名の霊能力者に対し、最後の問いかけをする。

「無論!」

「報酬はしっかり頼むぜ?(笑)」

「…………。」

青年は何も言わず静かに頷いた。

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その頃、ある民家で夕食を報せに、奥の座敷にいる祖母を呼びに行った男性が悲鳴を上げた。

家中の者が何事かと、座敷へと駆け付けた。

そしてその場にいた皆が絶句する。

祖母の部屋は返り血により真っ赤に染まっていた。

そこに居るはずの祖母の姿も無かった。

新たな犠牲者である。

その一報は瞬く間に報じられ、国民は恐怖に震え上がる。

「各自配置につけ!

絶対に気を抜くな!

怪しい者を見つけたら迷わず射殺しろ!

いいな!」

山を囲む様に各隊が配置につく。

国が派遣した特別チ―ムである。

初めは捜索隊であったが、今や各部隊から選りすぐりの隊員を集めた討伐隊に姿を変えていた。

その中には、要請のかかった専門家達の姿もある。

彼等はタブレットや、特殊な装置を身に付け、隊員に着いていく。

小高い山はその周りを高いバリケードで囲われ、外からは様子を伺えない様になっている。

「全ての配置が整いました。」

中継により、別の場所でそれらを見ている国の中核達。

「何としてもここで、手懸かりを見つけるのだ!」

中核達は椅子にふんぞり返り、現場の指揮官に伝える。

今、事件は各地で発生している。

今から突入する小高い山。

刑務所内の独房。

そして遂に一般市民の住む民家でも。

だが、中核達は隊員の大半をこの山へ投じていた。

その理由は愚かで安直な物。

この山で一番犠牲者が出た為…。

自らの保身しか頭に無い中核達は、一番被害のあったこの山で、それなりの手懸かりを見つければ…否、捏造すればこの過熱した報道も収まるだろうと考えたのだ。

だが、現場の隊員達はそんな考えを知らされてはいない。

「よし!

各班!一斉に山へ入れ!」

指揮官の合図と共に、配置された部隊がその歩を進める。

隊列を組み、その先頭者が山へ足を踏み入れる瞬間。

ゴゴゴゴ!

地鳴りと共に周りの巨木が倒れた。

これには精鋭部隊と云えど人間でしか無い彼等には為す術は無かった。

「各班撤収!

撤収だ―!!」

まるで部隊の侵入を拒むかの様に、侵入経路を塞ぐ巨木。

これには中核達も言葉を失った。

元が保身の為の作戦。

次なる良い手が浮かぶ筈もなく、中核達は苦し紛れの指示を出す。

「そこはもういい!

全隊員を刑務所と民家へ向かわせろ!」

これには指揮官も驚いた。

「し、しかしそれではこちらが…」

「黙れ!貴様、何様の積もりだ?

黙って指示に従わんか!!」

「り…了解致しました。」

これにより、山へ集結していた全隊員は他の二件へと回され、山には誰一人居なくなった。

山は全面立ち入り禁止とされ、撤収して行く隊員達。

そして中核達はこの日の内に、マスコミを集め会見を開いた。

勿論、都合の良いように理由を付けただけの保身の為の会見だ。

「今回の事件の真相は、極端に緩んだ地盤により、地割れが発生したものと思われます。」

金で雇われた専門家がそう発表する。

「地割れ?それが今回の失踪事件の全貌だと仰るのですか??」

その場にいたマスコミは、勿論、納得出来ない様子だ。

「仮にあの山で起こった事件が地割れによる物だとして、他の二件はどう説明なさるおつもりですか?」

「山で起こった「事故」と他の二件は全くの無関係だと考えております。」

会場がどよめく。

「こちらから報告する事は以上ですので、これで会見を終了とさせて頂きます。」

中核側は一方的に経緯を説明し、強引に会見を終わらせた。

このあまりにも強引なやり方にマスコミからは野次が飛んでいた。

会見の一部始終はテレビでも放映され、それを見ていた男はすぐに三名の霊能力者を呼び寄せた。

山での任務が失敗に終わり、今は誰もいない。

おまけにバリケードが目隠しとなり、外からは中を見られる心配が無い。

男達にとってはまたとないチャンスであった。

「突然ですが、今からあの山へ向かおうと考えてます。」

集まった三名に対し、男はそう切り出した。

それに対し、既に覚悟は出来ていると言わんばかりの表情で三名は頷いた。

そして…。

遂に霊能力者達が山へ向かう。

道中、誰も口を開かない。

そして男達は山の入り口へと到着する。

男の前を歩く三名は、何の躊躇も無く、そのまま山へと足を踏み入れた。

山に踏み込んで数分後、突然、強烈な匂いが男性の鼻をついた。

「こ、この匂いは…。」

獣の匂いだろうか?

余りの悪臭に男はその場に嘔吐してしまう。

「ははは(笑)

そりゃ驚くじゃろうな。

これが鬼の匂いじゃ。」

?!

「こ、これが…」

男は鼻をハンカチで覆いながら辺りを見回す。

「おっさん!

動くなよ?

近くにいやがる。」

「あぁ。

近くにおるのぉ。

それも二体。」

ここで、まるで自分がやる。と言わんばかりに青年がゆっくりと前へ出ようとする。

しかし、そんな青年を男性が制した。

「青年!

悪いけどここは俺にやらせて貰うぜ?

何てったって鬼とやるのは俺の夢見てぇなもんだからよ。」

「そうじゃな。

お前さんはそこで依頼主を守っておれ。」

そう言うと、老僧と男性は前へ出た。

「じいさん?

あんたやれんのか?(笑)

無理すんじゃねぇぞ?」

「ふん!若造が!

お前こそ小便漏らすなよ?」

「へへっ(笑)

まっ、お互い頑張ろうや。」

「若造。

死ぬなよ?」

二人の会話が終わり、辺りは静けさに包まれた。

風に吹かれ、ザワザワと木の葉の揺れる音だけが耳に届く。

「来やがった!」

男性が不意に叫び、眼前にある巨木を見上げる。

月に照らされた巨木。

その太い枝にぶら下がりこちらを見下ろすモノ。

体は異常に痩せ細り、だらしなく開けられた口からはダラダラと涎が滴り落ちている。

そしてその体色は血の様に黒みを帯びた赤。

「へぇ〜。

これが本物の鬼ってヤツか?(笑)

おとぎ話とは偉く違うもんだなおい!」

男性は巨木から少し間合いを取り、そう言った。

その時不意に、青年が男の手を掴み、強く引っ張った。

その弾みで倒れ込む男。

「ほぉ〜。

若いのに中々いい勘をしておるのぉ。」

老僧が青年に向かって言葉を発した瞬間。

ボゴっ!!

先程まで男が立っていた足元から突如顔を突き出したもう一匹の鬼。

あのまま男がその場に居れば、間違いなく両足を食い千切られていただろう。

地面から顔を出した鬼は、其処に男がいないと分かると、ゆっくりと地面から這い出て来た。

先の鬼と同様に、異常なまでに痩せ細った体に血走った両の目。

そして、その体は沼の如く淀んだ緑色。

「ふん!

あいつが赤鬼で、貴様が青鬼か?

そこは物語の通りじゃの!」

遂に姿を表した二体の鬼。

そして、それと対峙する二名の霊能力者。

本物の鬼の力とは…。

そして二名の実力は…。

〜19〜

Concrete
コメント怖い
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セレ―ノ様。

皆様文末の数字をかなり気にされている様ですね(笑)
この数字が物語る物や如何に!

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怜様。

神様?!Σ(゜Д゜)
とんでもない!
頭の中が少年のままのただのオヤジでございますm(__)m

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mami様。

数字ですか…。
数字…。
数字ねぇ…。

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むぅ様。

アニキ?!Σ(゜Д゜)
滅相もございません!

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月舟様。

ん〜…。

教えない!(笑)

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珍味様。

あ、あきまへん!
それ以上言うたらあきまへん!

でも…

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sun様。

コメントありがとうございます!
もう暫くお待ち下さいm(__)m

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