【夏風ノイズ】憑代と操り人形

長編13
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【夏風ノイズ】憑代と操り人形

 最近、少し忙しい気がする。

次から次へと色々なことが起こりすぎて、頭が追い付かない。

「うわっ、どんどん道が狭くなってく。軽でよかったわ」

 運転手の藤堂右京さんは苦笑しながら言った。少し激しめのロックが流れる車内には三人、右京さんとその娘の蛍ちゃん、そして俺が乗っている。海沿いの道路だが、反対側は岩壁に面しており、崖崩れ防止のネットが張られている。

「すごい所ですね。海は綺麗ですけど、夜は幽霊とか出てきそうです」

「だなぁ・・・って、ここ本当に出るらしいぜ」

「え、マジですか!」

 本当に出るなら見てみたい。そんな好奇心が胸を突いた。

「俺は見たことねーけど、噂ではすげーカオスで魑魅魍魎的な悪霊が出る場所があるらしいぜ。ゼロが一度だけ見かけたことあるって言ってたなぁ。カオスすぎて笑えたって」

「悪霊を前にして笑うとか、流石ゼロはちょっと違いますね」

「ゼロにとっては道端で不細工な野良猫に出くわした程度のことだからな~。それにその霊、ヤバそうな見た目なのにそんなに危険じゃないらしい」

「そうなんですか。でも一応は悪霊なんですよね」

「おう、一応な」

 俺はその霊を退治出来るだろうか。ふとそんなことを考えてしまった。

「まぁ、気になるなら今度見に行ってみるといいさ。出現率はそんなに高くないらしいけど」

「ですね、機会があったら見てみたいです」

 そんな会話をしながら、何気なく隣に座っている蛍ちゃんを見た。相変わらず無言で、ずっと外の景色を眺めている。

「そういえば、蛍ちゃんっていくつなんですか?」

 俺はずっと気になっていたことを右京さんに訊いた。

「この前11歳になったよ~。今は五年生。な、蛍」

 そう言って右京さんはバックミラー越しに蛍ちゃんを見た。蛍ちゃんは外を眺めたまま頷いた。

「そうでしたか。小学生なのに術が使えるなんてすごいですね」

 以前、蛍ちゃんが術を使っているところは見たことがある。確かあの時は複数の紙の人形を操作していた。

「だろ~、蛍は大したもんだ」

 右京さんは相変わらず蛍ちゃんをベタ褒めしている。親バカとはこのことだろうか。

 暫く車を走らせると、ナビが目的地周辺に着いたことを知らせた。

「お、見えてきたぞ」

 今日ここへやってきたのは、とある中学校から依頼を受けたからだ。目的地である浦海崎中学校の校長によると、体育館の舞台裏に妙な人影が時たま現れるという噂があるらしい。噂だけなら未だしも、実際に被害者が一人出ているのだそうだ。

「その被害者ってのが、この学校に勤めていた教員らしいんだ」

 右京さんはそう言い終えると、駐車場に駐車した車のエンジンを切った。

「んじゃ、行こうか」

 俺達は車から降りると、まず事務室に向かった。そこで校長を呼んでもらい、すぐに会議室へと案内された。

「裏海中校長の櫻井です。本日はお越し頂きありがとうございます」

 俺達の向かいに座った年配の男性はそう言って名刺を差し出した。頭の毛が少し薄いが、穏やかな印象の人だ。

「藤堂右京です。この二人は、助手の蛍と雨宮です。こちらこそご依頼ありがとうございます」

 右京さんはそう言って俺達の紹介も簡単にしながら名刺を取り出し、校長へ差し出した。

「それでは早速ですが、今回の依頼内容について詳しく話して頂けますか?」

 右京さんの言葉に校長は「はい」と頷き、今回のことについて話し始めた。

「電話で話をさせて頂いた通り、体育館の舞台裏に現れる謎の人影を調査して、出来るようならばお祓いをして頂きたいのです。生徒たちの間で噂が出始めたのは一昨年の秋頃だったかと思います。最初は誰かの悪戯か、単なる冗談かと思っていました。しかし暫くすると、生徒達だけでなく教員達の中にもそれらしい人影を見たというものが現れ、遂に二ヵ月ほど前、見回りをしていた男性教員が一人・・・体育館の舞台裏で、バラバラの遺体となって見つかりました」

 校長は恐怖に満ちた表情で話を終えた。

「それで、今回調査を依頼したというわけですか」

 右京さんが訊ねると校長は黙って頷き、少ししてからまた話し始めた。

「警察は殺人事件として捜査をしましたが、結局犯人は見付からず・・・もしかしたら例の人影と関係しているのではないかと思い、調査をしてくれる霊能者を探していたところ、うちの学校の教員が知り合いに詳しい人がいると言ったので、その方にお話を伺ったら藤堂様をご紹介して頂きまして」

「なるほど、わかりました。では、早速体育館を調査させて頂いてもよろしいでしょうか」

「あ、はい。ご案内します」

 こうして俺達は校長に案内され、体育館へと向かった。

 体育館の中へ入ると、右京さんは少し辺りを見回し、その後に俺を見て訊ねた。

「しぐちゃん、何か感じる?」

 俺は唐突な質問に驚いたが、なんとか曖昧に首を振った。

「今はしませんけど、あまり俺の霊感を信用してもいいことないと思いますよ」

「いや、しぐちゃんの霊感は俺より強い。蛍は俺と同じくらいだし、この中で一番霊感が強いのはしぐちゃんだ」

「そう・・・なんですかね?」

 俺は少々困惑しながらも舞台裏に意識を向けた。しかし何も感じない。おかしい、影の正体が霊的なものなら直ぐに分かる。例えそれが呪詛でも、少しなら霊気を感じれるはず・・・。

「隠れてるのかもなぁ。ちょっと挑発してみるか」

 右京さんはそう言うと所持していた鞄から一枚の紙人形を取り出し、それをひょいと投げた。その様子を見た校長は目を丸くしている。

「蛍、一応お前も準備しとけ。たぶん必要になるぞ」

 右京さんの言葉に蛍ちゃんはコクリと頷いた。その直後、飛ばした紙人形が空中で散り散りに破れて床に散乱した。

「うわマジか・・・」

 右京さんはそう言いながらもう一枚紙人形を飛ばした。

「な・・・今の何ですか!?」

 俺が問うと右京さんは少しニヤリとしながら話してくれた。

「紙に術で霊力を込めた紙人形、それを飛ばして挑発してみたが、上手く乗ってくれたみたいだな。それにしても今回は手強いぞ。あの範囲で人形が壊されたってことは、俺達も迂闊に近寄れねーな」

 俺は息を呑んだ。そんな恐ろしいものが中学校の体育館に存在しているのだ。身体中を小さな虫が這いまわるかのように悪寒が走った。それと同時に、得体の知れないモノへの興味も湧いた。

 飛ばした二枚目の紙人形も先程と同じくらいの場所で破れ散った。右京さんはその様子を見ると、ポケットから車の鍵を取り出して蛍ちゃんに渡した。

「蛍、車からあれ持ってきて」

 蛍ちゃんは鍵を受け取ると、小走りで体育館を出て行った。

「と、蛍が戻って来る前に俺達も出来ることをやってみよう」

 右京さんは少し前に出ると、その場で合掌した。

「あの、右京さん。蛍ちゃんは何を?」

 俺は色々と訊きたいことがあって少し頭が混乱していたが、なんとかそれだけを質問できた。

「蛍にしか出来ない術があるんだ。それに必要な道具を取りに行った。道具ってか、蛍にとっては友達みたいなもんかな」

「友達・・・ですか」

「よし、俺も術を使うぞ。しぐちゃん、見ておくといいよ」

 そう言った直後、右京さんの周囲を幾つもの紙人形がグルグルと舞い始めた。

「さぁ、これなら届くか?龍の舞!」

右京さんが叫ぶと同時に幾つもの紙人形は舞台を目掛けて龍のように飛び舞い、そのまま舞台裏まで入って行った。

「よしっ!これで姿を見せるだろ!」

 右京さんがそう言いながらガッツポーズをした直後、舞台裏から激しく紙の破れるような音が鳴り響いた。

「うわっ、えげつないな」

 右京さんは苦笑して言った。するとそれから数秒も経たないうちに、目標は姿を現した。

 人形だった。遠目から見ているのではっきりとした特徴や大きさなどは分からないが、どうやら少し大きめのフランス人形のようだ。それが舞台裏からひょっこりと顔を出してこちらを見ている。

「人形を使うなんて面倒な悪霊だなぁ。それに今まで気配を感じなかったってことは力を消してたか。なかなかやるじゃねーか」

 右京さんは独り言を言い終えると俺を見た。

「しぐちゃん、気功は使えるか?」

「えっ・・・いや、たぶん出来ないです。でも、このぐらいの距離なら・・・」

「おっ!何か出来そうか?」

「・・・はい。上手くできるか分かりませんが」

 俺は全身の霊力を体外へ放出するよう強く念じた。すると、少しずつだが力が強くなっていってるのが分かった。

「おお、頑張れしぐちゃん」

 そろそろだろうか・・・いや、まだだ。サキが力をコントロールしていた時はもっと強力な力が使えた。俺は更に強く念じ、空中に幾つか霊力の玉を生成した。

「これで、どうだっ!」

 俺は玉を人形へ向けて放った。が、人形の一メートル前ほどで消滅してしまった。

「やっぱり駄目か・・・」

 サキのいた頃に比べ、生成できる玉の数も大きさも劣っている。やはり俺だけでは無理なのだ。だが、まだ終わってはいない。俺は右手を前に出し、左手で右手首を掴んだ。そして右手の指先へ力を集中させるよう強く念じ、人形を睨み付けた。

「おっ、その技は!」

 右京さんが先程言っていた気功だ。ダメ元でやってみたが、上手くいきそうだ。

「最大出力・・・最大出力・・・最大出力っ!!」

 俺は何度も最大出力と叫び、思いっきり念じた。そして力を抑えきれる限界まで達したとき、俺の意思に沿わず右手から閃光が放たれた。俺はその勢いで尻餅をついたが、気功は人形へ届いたようだ。一瞬攻撃が通ったかのように思えたが、寸前で防がれたようだ。

「クソッ!」

 俺は拳で体育館の床を殴った。勢いでぶつけたので地味に痛い。

「仕方ないさ、けっこう強い悪霊だ。俺の龍の舞が届かなかったんだからな」

 右京さんはそう言って俺の肩に手を当てた。待てよ、ってことはダメ元で俺にやらせたということか?

「右京さん、それって・・・俺の技が通じないことがわかっててやらせたんですかね?」

 俺が訊くと右京さんは苦笑しながら頷いた。

「へっへへ、ちょっとしぐちゃんの実力を見たかっただけさ。でも今の気功はなかなかだったぜ。たぶん出来る時と出来ない時の波が激しいんじゃないか?」

「さあ、それは分かりませんけど・・・でも、今のはなんだか手応えがありました。まあ、防がれましたけど」

 確かに、右京さんの言う通りかもしれない。今みたいに強い念を溜めれることもあれば、ほとんど力が入らないこともある。練習すれば、それをコントロールできるようになるのだろうか。

「お、おかえり蛍」

 右京さんの言葉で後ろを振り返ると、車の鍵を手に持った蛍ちゃんが立っていた。

「あれ、鍵だけ?」

 俺は思わず呟いた。蛍ちゃんは何かを持ってくるのではなかったか?

「いや、たぶん連れてきてるんだろ」

 俺の言葉に右京さんはそう返した。連れてきてる?何をだろう。

そう思った直後、蛍ちゃんの後ろから何かの音が聞こえてきた。何か、カラコロというような・・・。

「うん、連れてきた」

 そう蛍ちゃんが言った時には、もうその姿が見えていた。人形だ、マリオネットというべきだろうか。5体の木人形がカラコロと関節を曲げながらこちらへ歩いてくる。

「あれが蛍にしか出来ない特技、人形術だ。最大8体までの木人形を念動力で遠隔操作できる。ただし、操る人形の数が多ければ操作に負担がかかるから人形一つ一つの動きは鈍くなるんだ。その逆に数が少なければ、人形の動きが俊敏になる。まあ、今回は俺たちが生身で近付くのは危険だから、数体の人形であの悪霊が憑依した人形を取り抑えてもらおうと思ってな」

 右京さんは自慢げに話した。全く、この人は親バカだ。しかし確かに蛍ちゃんの術はすごい。あれだけの数の人形を念動力で遠隔操作・・・器用だ。いや、器用だなんてそんなレベルではない。凄すぎる。天才だ。

「抑えれば、いいの?」

 蛍ちゃんは舞台裏から半身を出している人形を真っ直ぐ見つめながら呟いた。

「ああ、ついでにヤツの術も抑えられるか?」

「うん・・・」

 蛍ちゃんが頷くと、5体のうち3体の人形が舞台へ向かって歩き出した。残った2体は操縦を解除されたのか、ガランと床に崩れ落ちた。蛍ちゃんは俺たちの後ろでただ立っているだけのように見えるが、人形の操作にかなり集中しているようだ。3体の木人形は舞台へ上がる階段を上り目標の近くまで到達すると、次はそのフランス人形を囲うように動き出した。あれだけ近くにいるのに、悪霊の術で壊されないのか。と思った直後、木人形のうち1体の左腕が肩から折られた。

「ごめん、力が抜けちゃった」

「蛍、大丈夫か?ヤバかったら他の方法を考えるから引き上げてもいいんだぜ?」

 右京さんの言葉に蛍ちゃんは軽く首を振り、また操作に集中し始めた。たぶん、蛍ちゃんが今謝ったのは、俺たちにではなく、腕を折ってしまった人形への謝罪だったのだろう。彼女の様子から、そんな気がした。

 木人形たちが目標を囲うと、今度は蛍ちゃんが印を切るような動作をし始めた。するとフランス人形を中心に陣が描かれ、3体の木人形たちはそれに覆い被さるようにゆっくりと前のめりになった。

「封じたよ、壊す?」

「よしっ、さすが蛍!いや、人形を調べたいから中身を落とそう」

 右京さんはそう言って人形の元へと近付いていった。それに続いて俺も恐る恐る近付く。しかし何も起こらない。蛍ちゃんは見事に術を封じたようだ。

「ああ、あのぉ・・・」

 不意に後ろから男性の声がしたので見ると、櫻井校長が呆気にとられた様子でこちらを見ていた。そういえば依頼人の存在を忘れかけていた。

「ああ、こちらでなんとかするので大丈夫ですよ!」

 右京さんは校長にそう言うとまた人形の元へ歩き出した。

「よし、落としたらすぐに除霊するぞ。蛍はまた人形に憑依しないよう依代を封じててくれ」

 右京さんはポケットからお札を取り出してフランス人形の頭に貼ると、呪文のような言葉を唱え始めた。

「闇より生まれし招かれざる悪しき者よ、我が力は我が物にあらず、我が力は神より授かりし物。そこから離れよ」

 すると忽ち人形から黒い何かが沸き出し、それはヴヴゥと唸りながら人のような形を形成し始めた。

「人間め、俺を祓おうというのか。邪魔だ、邪魔だ!消え去れ!」

 黒い何かはそう叫びながら抵抗しているが、右京さんの術か蛍ちゃんの術が効いているのか、あまり大きな動きを取ろうとしない。

「お、お前の目的は何だ」

 俺が問うと、それは顔のような部分をゆっくりとこちらへ向けて話し出した。

「俺はただ楽しんでいたのだ。人が恐怖する様子を、人が俺の力で死ぬ様子を!それの何が悪い!俺は楽しんでいただけだ!!」

「そんな身勝手な動機で人を死なせたのか・・・しかも女の子のフランス人形に憑依するとは悪趣味だな。なら、問答無用で除霊させてもらうぞ」

 右京さんがそう言って印を切るような動作をとった。

「除霊だと?ハッハッハッハ!やれるものならやってみるがいい!その前に殺してくれる!」

 すると、悪霊はより鮮明で大きな影の形を形成し、右京さんに向けて拳を放ってきた。

「右京さん!」

 俺が叫んだ瞬間、目の前を物凄い速度で何かが駆け抜け、悪霊の影を切り裂き始めた。

「グアアァ!!!」

 悪霊は叫び声を上げて収縮し出した。

「あっぶねえ、詠唱中に攻撃してくんなよ時間かかるんだよこれ!まあいいや、呪撃・影縛の陣!」

 右京さんの術で悪霊の影は拘束され、そのまま跡形も残さず消えていった。その後、体育館に残ったのは俺たち3人と校長、そして人形たちだけで、影を切り裂いた何かの姿はどこにも見当たらなかった。

   ○

 仕事を終えて報酬を受け取った俺たちは、悪霊の憑依していたフランス人形を持って裏海中学校を出た。駐車場へ向かう途中、路上に一台の車が駐車しているのが見え、その付近には見覚えのある女性が立っていた。

「やっぱり市松ちゃんのイズナだったか。助かったぜ、ありがと」

 市松さん、イズナを使役している祓い屋の人だ。

「詠唱に時間がかかるならもう少し緊張感を持てばいいのに、油断してるからですよ」

 市松さんは苦笑しながら言った。

「悪かったって、蛍の呪縛が効いてたから大丈夫だと思ったんだよ~」

「もう、またそうやって蛍ちゃんに任せて・・・まあ、右京さんより蛍ちゃんの方が器用だし強いですからね。蛍ちゃん、今日はお疲れ様」

 そう言って市松さんは蛍ちゃんの頭を撫でた。

「なっ、そりゃ事実だけどさ・・・うん、確かに蛍はすごいぜ。可愛いし」

「貴方って人は・・・」

 市松さんが呆れるほどの親バカだ。俺は苦笑した。

「ところで、どうして市松ちゃんがここに?」

「ああ、気分転換にドライブをしていたらイズナたちが反応したので、たまたま見付けたのです」

「そうだったのか。もう帰り?」

「いえ、この後少し寄る所があるので」

「そっか、ありがとな。じゃ、俺たちはこれで」

「はい、また今度」

市松さんはそう言うと俺を見て微笑んできたので、俺も市松さんに頭を下げてその場を後にした。

   ○

 車の中は冷房が効いていて涼しい。疲れたのか、蛍ちゃんは後ろの座席で寝てしまっている。

「そのフランス人形、どうするんですか?」

「うーん、ちょっと調べて燃やす。校長も任意だ」

「そうですか」

 俺はそれだけ言うと窓の外に目を移した。相変わらず綺麗な海だ。水中を泳ぐ魚たちの姿が見える。

「しぐちゃん」

 不意に右京さんが俺の名を呼んだ。

「はい」

「さっきの霊、強かったと思うか?」

「え、はい。たぶん」

「自分で気配を隠せるほど、強かったかなぁ?」

「それは・・・わかりませんけど、たぶんそこまででは」

「だよなぁ」

 右京さんは少し考えるようにため息を吐いた。

「最近おかしいよな、この町も俺たちの町も。霊の気配が曖昧になったり、海中列車の件だったり・・・呪術師連盟のやってることもよく分からねーし。何か、不吉な予感がする」

「そうですね。ゼロも言ってました」

 恐らく、先程の悪霊も何かの力が作用して気配が薄くなっていたのだろう。何かが起きている。その何かは、やっぱり悪いものなのだろうか。俺はもう一度、窓の外の海を見た。そこに怪しいものは何も無く、ただただ美しい景色が広がっているだけだった。もしも何かが起これば、この眺めも変わってしまうのだろうか。予測でしか無いが、そう考えると少しだけ、ほんの少しだけ悲しくなった。

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