中編6
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酒は災いのもと

「誘おうか迷ったけど、お前も来る?」

友人の「まさ」がそう言った。

「迷った、ってなんだよ。」

「いや、お前変なとこあるじゃん。」

「そうか?」

「そうそう。一年前さ、お前がマジギレして、椅子を――。」

「分かったよ。」

「ってことは今日のサークルの呑み会、くるってことか?」

「ああ。」

「ま、お前の愛しい、『かな』も来てるし、楽しめよ!」

「うるせぇ」

ということで、俺はサークルの飲み会に行くことになったのだ。

俺たちのサークルは、いわゆる「呑みサー」ってやつで、いっつも呑んでる。

しかし、人数が少なく、俺も合わせて五人。

最近は、俺以外の四人で呑んでいることが多かったのだが、今日は俺も誘われたのだ。

いままで誘われなかったのは、俺が変だってことも多少はあるかもしれないが、やはり一番の要因は、俺が、この呑みサーのメンバーのかなと付き合い出したからだ。

かなは、俺と付き合いながらでも器用にサークルを続けて行けたが、不器用な俺にはそれができなかった。

しかし、最近は容量もつかめてきて、余裕ができるようになった。

さて、今日は久しぶりに呑むとしよう。

俺は、腕に巻き付けてあるミサンガに視線を移す。

このミサンガは、かなとおそろいだ。

俺が、かなと付き合い始めた頃に買い、いまもおそろいでつけ続けている。

これは、俺とかなの絆の証なんだ。

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その夜、予定通り俺は行きつけの呑み屋に足を踏み入れた。

「お! お出ましだぜ!」

サークルメンバーの「たく」が、いたずらっぽく言う。

「重役かよ」

と、言ったのは同じくサークルメンバーの「ゆう」。

「俺、時間通りに来たよな?」

「まぁね、でも皆より遅れたから。」

かなは言う。

「これで全員そろったな。」

「よし!」

「かんぱーい」

皆、ジョッキを上に上げた。

かなを除いて。

「おい見ろよ! この時計! 今日買ったんだぜ!」

乾杯から五分も経たないうちに、まさが寄ってきて、腕に光る腕時計を自慢してきた。

「お! そんなら俺も今日買ってきたやつがあるぜ。」

リストバンドを突き出す、たく。

「俺もな!」

ゆうはブレスレットだった。

そんな光景を見ながら、かなは愉快そうに笑っていた。

かなは、酒を一滴も呑んでいなかったが、楽しそうなのでよしとしよう・・・・・・。

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ぴーちくちく

小鳥の音で目が覚めた。

目を開けると真っ暗で狭いところにいた。

右に手を伸ばすと、なにか紙製のものに触れる。

その紙製のものを、適当に動かすと、左にスライドした。

一気に光が押し寄せてきて目がくらむ。

どうやら俺は押入れの下の段にいたらしい。

周りを見る限り、ここはかなの家のようだ。

なんでかなの家に?

あれ、思い出せない。

どうしてここにいるんだ?

とりあえず、皆に覚えているか確認をとろう。

俺は押入れから出て、歩き始め――

俺は目を疑った。

shake

床に、人間の手首が落ちていたのだ。

ミサンガがついている。

いや、信じたくない。

これはかななのか?

そんなはずはない。

でも・・・・・・この形はかなのものだった。

嘘だろ。

こんな、馬鹿なことがあっていいのか!?

くそ! くそくそくそくそくそくそ!!!

警察に連絡を!

いや

今この状況で何を言っても警察に犯人扱いされる。

止めておこう。

まずは、周りの捜査だ。

恋人が大怪我をしているかもしれない状況に、涙すらなぜか出ない自分にあきれながら、俺は捜査を始めた。

まず、まさ達を呼ぶのがベストなのだろうが、自分で行動せずにはいられなかった。

床は、血で塗りたくられている。

これじゃ、ろくな捜査ができない。

まずは、かなが生きているかの確認からだな。

そう思ったとき、頭がキンと痛くなった。

スマホのメールに何かあることを、俺は思い出したのだった。

いそいでスマホでメールを開く。

開いたときそこにあったのは、まさとの会話だった。

俺は一切コメントしておらず、まさからのメッセージだけが綴られていた。

『かながお前に大事な話があるってよ。』

『かなは、「酔って話すような話でもないから」って酒を呑んでなかったらしい。』

『これから、かなの家に行くから、そこで伝えるって。』

『ちゃんと聞いてやれ』

これだけで終わっていた。

何だ? 大事な話って? かなは俺に何を伝えたかった?

俺は隣の部屋に移動し、再度、目を疑った。

shake

その部屋の中央には、時計をつけた手首が転がっていた。

感情が追い付かない。

どうなっている????

なんで・・・・・・。

絶対に謎を暴いてやろうと、心に誓った。

やはり、捜査は必要だ。

この部屋も血で真っ赤になっていた。

俺は、混沌とする頭でスマホを持ち、昨日届いたメールを探す。

もう一人からも届いていた。

たくからだ。

これは一通だけ、俺が返信していた。

『楽しいな』

『お前らと一緒にこうやって呑めて、最高だよ。』

『このまま変わらなきゃいいのにな。』

ここで俺が返信していた。

『なんでそんなこと、メールで言う?』

それからまた、たくだけのメールになる。

『メールで言わないと、恥ずかしいだろ。』

これで終わっていた。

結局、なんの手掛かりにもならなかった。

俺は溜息をつき、廊下に移る。

廊下も血だらけで、そこには

shake

ブレスレットをつけた手首が。

ゆうまで・・・・・・。

いや、まだ手首だけだ。

病院に行っているかも――

という俺の予測は外れていた。

廊下から見える玄関と、ドアノブが全く赤く染まっていなかったのだ。

このあたり一面に広がる血をみると、これは病院に駆けこまないと間に合わない。

くそ。

俺は、一端落ち着いて考えることにした。

あのたくの、いつもと違ったメッセージ。

「ずっとこのまま」というフレーズが死を連想させてしまう。

そして今だ、たくの手首だけが見つかっていない。

いや、俺の考えていることが正しければ、まさのメールの謎が残る。

どうなってる?

万策尽きて、トイレのノブに寄りかかった時だった。

トイレのドアが開いた。

中には、赤く染まったリストバンドと、たくのスマホが転がっている。

俺は、スマホを拾い上げると、起動させた。

すると、昨日たくが撮った思われるビデオが開かれていた。

再生ボタンを押す。

ガガガ

『お、おい! なにすんだ!』

ガガ

『やめろって』

ガガ

ドンドンドン

はぁはぁはぁ

『くんな!  くんなって!』

ガガ、ピー

ビデオはそこで終わっていた。

俺は、全てを思い出していた。

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まさのメールを読んだ俺は、かなとかなの家で、話を始めた。

それは、かなからの別れ話だった。

そこから数分の間のことは覚えていない。

ふっと、気づいたときには、包丁を握ってかなの手首を切り取っていた。

後ろから、他の三人の声がしたから俺は決めた。

こいつらを口封じに殺そうと。

まさとゆうを始末し、たくも始末した。

たくは大分抵抗して、トイレに鍵閉めて逃げ込んだけれど、鍵を壊して殺した。

その時に間違えて動画を撮ったのだろう。

そして、死体の居場所。

死体は引きずって、押入れの上の段に押し込んだ。

そうじゃないと、こんなに床が真っ赤にはならないだろう。

さてと。

俺は押入れを開ける。

そこには、息も絶え絶えのたくが待っていた。

「おれ・・・は、、、このままで、、、いたかったのに」

さて、こいつらをどうしようか。もう何人も埋めてきたあの山にしようか。

Concrete
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