中編4
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夢の話

小学5年の時の話だが、同じ夢を繰り返し一ヶ月近く見ている時期があった。

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はじまりはいつも知らない学校。

派手な女子高生2人と、

その2人の1歩後ろを歩く大人しそうなおかっぱの女の子。

私は、この子はこの2人に逆らえないのだろうなと思いながら、

常に上から覗いているような視点で、3人の様子を見ていた。

おかっぱの子には彼氏が居て、それが派手な2人には気に食わなかったらしい。

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文字通り灰色の空。

土砂降りの中、おかっぱの子は廃墟と化した遊園地に呼び出され、

プレハブ小屋のような、小さい倉庫に脅されながら入っていった。

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倉庫の中は当然電気が通っておらず、外からの明かりでぎりぎり顔が見える程度の薄暗さだった。

おかっぱの子は隅に置いやられ、何やら、派手な2人に言われているようだったが、

声までは聞こえず、

ただ、あまり宜しくない雰囲気ではあった。

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その内ヒートアップしたのか、派手な子の片方が、おかっぱの子を強く押した。

背後の鉄製の棚に思いっきりぶつかったおかっぱの子。

衝撃で落ちてきたのか、彼女の上に真っ白い粉が大量に降った。

例えるなら、石灰のような粉だった。

その粉を浴びた途端、おかっぱの子は大きく口を開いた。

その場の音が聞こえていなかったが、あれは間違いなく叫んでいて、

彼女が掴んだ髪の毛が、ズルりと下に落ちていく。

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そこからはあっという間で、

まず皮膚が焼け爛れたように、ボトボト流れていった。

赤い肉の塊は、大量の湯気が立ち上っていて、

某巨人の漫画で、白い湯気を立ち上らせながら崩れ落ちていく肉体の描写。

あれによく似ていた。

どんどん肉の下の骨が見えてきて、

薄暗いのに、赤の隙間から覗く白さだけが異様に目立っていたのも印象的だったし、

眼球はなかなか無くならなかった。

やがて、骨格標本みたいになってしまった彼女は、着ていた服の上に崩れた。

粉は、たんぱく質以外は溶かさないようだった。

倉庫の床には、彼女の骨の白と粉の白。

2種類の白が混ざっていた。

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一部始終を見ていたと言うよりは、

おかっぱの子を殺したも同然の行いをした2人組は、

逃げるように倉庫を出て行って、

やがておかっぱの子は、行方不明者としてあちこちに顔写真をバラ撒かれるようになった。

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捜索に、特に力を入れていたのはおかっぱの子の彼氏だった男で、

派手な2人に何度も彼女の行方について、心当たりは無いか聞いていた。

何回目かの時に、2人は嫌な笑い方をした。

そして、男を例の倉庫まで連れて行った。

その日も土砂降り。

灰色の雲が空を覆う。

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倉庫に入った男は、すぐに骨が彼女の物だと気付いた。

廃墟だからなのか骨は誰にもバレていないようで、そのまま床に散らばっていた。

骨を掻き集めて蹲る男の後ろで、2人組がまた嫌な笑みを浮かべる。

そして、1人が棚を蹴った。

また落ちてきた粉を、蹲っていた男はもろに被り、

結果、

彼女と同じような目にあった。

2度目の人が崩れる瞬間だったが、異様に生々しく、

ヘタしたら匂いさえ感じるかもしれないほどに、それは凄まじい光景だった。

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そのすぐ後、私は今度はよく知らない十字路に立っていた。

ずっと第三者目線だったのが、急に自分もその場に放り込まれる。

ただの臆病者だからかもしれないが、妙にリアルに人が死ぬ描写を見るよりも、

その方が、何故か何倍も怖かった。

そしてどうしても、

私は十字路の先、前には進みたくなかった。

何か得体の知れない者が近付いてくる。

それは近寄ってはいけない種のものなのだと、そう思って振り返って、

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そこで目が覚めた。

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一ヶ月近く経った後、その夢は徐々に見なくなったが、

同じ夢を見ていたせいか、とっくに成人した今もあの映像が強く頭の中に残っている。

溶けていく皮膚。肉。骨。

気になるのはあの白い粉で、

たんぱく質のみを、ほぼ一瞬で溶かす粉が有るのかと調べてみたが、そんな物はどこにも存在しなかった。

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時々、再びあの夢を見るんじゃないかと思う日もある。

そしてそれを、どこかで恐れている自分が居る。

ただ何となく言えるのは、あれはもう二度と見てはいけないような気がすること。

あちら側を見ている事に、気付かれてはいけないのは当たり前の話だ。

絶対に目を合わせてはいけない。

合えば勘付かれる。

そうなれば、ちょっと面倒な事になる。

でも、あの日。

十字路から逃げようと振り返り、目覚める一瞬。

最後まで残っていた眼球二つをはっきり見た。

溶けた皮膚は無かった。

目だけ。

目だけが暗闇の中にぽっと浮かび上がっているような、それを見た。

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彼女は恐らく、私が見ていた事を知っているだろう。

Concrete
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