仮面に騙されてはいけない【どこかで起きていたらしい話】

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仮面に騙されてはいけない【どこかで起きていたらしい話】

こんにちは あなたの惚気話に付き合わされてイライラしているファン一号です。

 前回の手紙はいったいなんですか!ふざけんな!

 あなたは鬼のお面を被った(ホント、なんで被ってんの?)同級生からしつこく付きまとわれて迷惑していると不満を手紙に綴ったつもりですが、私からみればその子はあなたを心配してつい口うるさくなっているだけです。オカンの如し、愛情込めて尽くしてくれるなんて・・・、いや、オカンじゃなくて妻か?おのれ羨ましい限りですぞ。

 鬼のお面のせいで怖そうに見えるだけで実は良い人ですって。あなたのことを気にかけていなければ普通無視しますよ。見た目に騙されてはいけません。

 それと、前回の私の質問に答えて頂きありがとうございます。なるほど、椅子は『のるもの』ですか。それも一理ありますね。

 どうしてこのような質問を投げかけたのか気になりますよね。前回あなたからいただいた手紙、愚痴のついでにくだらない質問を応えてくださった際に『何かあったのか?』と訊かれましたのでお答えしましょう。はい、そのとおりです。実はちょっとしたことがあって質問をしたのです。

 ちょうど私も心の整理がついたところです。あなたも気になっていることですし、あのような問いを投げかけたきっかけについて説明しましょう。

 トムラ堂は蝋燭販売店で、電話をよこせば出張販売もいたします。

 店番を頼まれたある日、一本の電話がかかってきました。相手は常客のおばあさんです。数日前から入院しており、自分の代わりに線香をあげてくれる人がいないかもしれないので藤彫りの黄色い和蝋燭をたててほしいという依頼でした。さっそく配達で町をうろついている梅さんに連絡し、旨を伝えました。

「何度も一人でに倒れる椅子。お前さんならどう思うかね」

 帰ってくるなり、梅さんはこのような質問を投げかけました。基本的に説明を後回しにする人なのでまずは問いに応えます。

「自殺の時に使った椅子ですかね。自殺て死後繰り返されるとききますし、その度に椅子も倒れる話は意外と定番ですぞ」

「ぢゃあ自殺に使われていない椅子であればどうだ?」

 梅さんは脇に抱えていた椅子を無造作に置き、腰かけました。座面に凹凸のあるクッションが付いているので足を乗せるには不向きな椅子です。

「なんですかその椅子。盗んできたのですか?」

 息するように窃盗を働く梅さんに説明を求めると、どうやら預かっているだけだということでした。おばあちゃんがいなくなってからその椅子が勝手に倒れる現象に悩まされていたそうです。線香をあげても椅子を隠しても仏間で椅子が転倒を繰り返していたのでとても困っていたらしいのです。

「家族は藤彫りの和蝋燭を使っていましたか?」

「いいや。だから蝋燭を替えた」

 天井を見つめ、梅さんは椅子をガタガタと揺らしました。螺旋が緩んでいるのか擦りへっているのか傾いています。ますます人が乗るには不向きな椅子です。

「憶測ですが、おばあさんの注文通りの蝋燭をたてれば怪奇な現象は止まりますよね。それなのになんで椅子を預かったのですか?」

「原因が気になったから預かってきた」

 家に寄ったついでにいわくつきの椅子を処置するなんて梅さんらしくないと疑っていたのですが、親切ではなく好奇心で預かったとなれば納得がいきます。ちなみにこの人、調べるために借りただけでもし悪霊が憑いたとしてもそのまま返却するつもりです。

「では、帰って早々の質問はこの椅子のことだったのですね」

 以前おばあさんからきいたのですが、おばあさんは夫と母になった子と孫と暮らしています。婿は単身赴任で不在。二人の孫のうち一人がすでに亡くなっており、その頃から蝋燭を立てるようになったのです。

「お孫さんがメッセージを伝えようとしているのでは?」

「たった一人の可愛い孫娘は今も元気に生きてるぞ。殺すな」

 おや?孫は一人だけ?しかし脳裏では「葬式の時は泣いていたのに、誰も手を合わせようとしないのよ」と明るく取り繕うおばあさんの笑顔が今でもはっきりと思い出せるのに・・・。梅さんの記憶違いですかね。

 

 私の怪異系の知識がある程度豊富なのは、あなたの怪談朗読ラヂヲを聞いているからです。情報源であるあなたであれば様々な見解を見出せるかもしれませんが、正解には到底及ぶものか。(おそらく最後まで手紙を読んでも理解できませんよ。)私が未だに納得できませんので曖昧な書き方になってしまうでしょうが、そこはご了承を。

 

「椅子を置きに戻っただけだから」と残りの配達を済ませるべく梅さんは店を出て、私は頼まれている蝋燭の色塗りを再開しました。

『あのう、先程椅子を預けてもらったのですが・・・』

すべての蝋燭に紅を注ぎ終えた頃に電話が鳴りました。受話器の向こうから、不満を含んだ女性の声が聞こえました。初めて聞く声でしたが、相手が家庭を築いた、おばあさんの娘だと分かりました。

「ああ、奥さんですか。いかがされました?」

『仏間からまた音がしたのです』

目を離した隙に椅子が移動でもしたのか?いえ、しかし椅子は店の中にあります。音が聞こえなかったので気づきませんでしたが、いつの間にか椅子は横に倒れていました。

「椅子はここにあります」

『はい。部屋に椅子はありません。でも、あの音が聞こえたのです』

音だけが聞こえるなんて奇妙です。耳が音を覚えて、聞こえるはずのない音を拾ったのではないかと尋ねても『台所にいた父も聞こえたようで慌てて仏間に向かっていった』とわざとらしくため息とつきました。

『父はあの音が聞こえる度に駆け足で仏間に向かうんです。この前なんて皿洗い途中の途中だったからコップを割っちゃって・・・・』

 どうして女の人は電話で愚痴ばかりこぼすのですか?お引き取りください。

 早めにきり上げたいけれど、今まで人とのコミュニケーションを怠っていた私に相手の機嫌を損なわずに話を変えさせる話術なんて持っていません。

 ちなみにこの時私なんて言ったかって?「おじいさん、また台所にいたのですね」ですよ。まったくひどい切り返しですね。「また」て、住んでいるのだから台所くらい何度も行きますよね。

 ところが、

『台所・・・・ああ本当!父が台所にいるとあの音が聞こえます』

 自分の会話力の低さに絶望していた時、女性が意外なことを呟いたのです。

 放言が一転して好機が傾きました。

「本当ですか。父が台所にいると椅子の倒れる音が聞こえるのですね」

相手が見えない場所にいるのでついガッツポーズをとってしまいました。しかし一難去ってまた一難、次の女性の返答に謎は更に深まったのです。

『いいえ・・・。椅子が倒れる音ではなく何かが落ちる音です。いつもその音が聞こえるのです』

 女性は「何か」を、荷物を詰め込んだリュックと例えました。倒れる椅子とつなげて推測するに、目に見えないないリュックと同じ重さの何かが椅子から落ちた、といったところでしょうか。

 

『あれはリュックなんかじゃないぞ』

 ノイズのように、しわがれた声が女性の声に割って入ってきました。受話器の向こうで『お父さん何て言いった?』と女性が叫んでいます。私はすかさずおじいさんにかわるように頼みました。一番おばあさんといる時間が長かったのだから椅子の秘密を知っているのではないか?私はにやける口元を押さえ、回答を待ちました。

『あれは婆さんだ』

「えっ?・・・あ、ハイ」

 予想外の正体に私は頓狂な声を出してしまいました。

 おじいさんは、まるで不慮な事故で大切な人を失ってしまったようなやり場のない怒りを堪えているようでした。それなのに私はいい加減な受け答えをしてしまいました。

 おばあさんから依頼の電話をもらったときの、明るい笑い声を思い出しました。不注意で骨にひびがはいったけれど、死には至らなかったと恥ずかしそうに言っていました。

「おばあさんは入院していますよね・・・・・・・」

 あとに続く言葉を探していますと、「そうだ」とおじいさんは深いため息をつきました。

『おれが台所に行って目を離している隙に、婆さんが椅子から転倒したんだ』

 おばあさんが入院してから椅子が倒れるようになった。それは「和蝋燭をたてないから」ではなく「おばあさんが椅子から落ちたから」?

「意味が分かりません。説明してください」

「俺だって事情が理解できていないんだ。頭使わないとバカになるぞ」

 配達を終えて帰ってきた梅さんに電話のやり取り(私の不適切な発言は省略)を報告しました。梅さんもてっきり死者の仕業と思い込んでいたようで「ばあさん死んだ?」と失礼なことを言い出しました。おばあさんはまだ生きています。おじいさんに確認とりましたから。

「おばあさんに未練があって転倒を繰り返しているのでしょうか?」

「はてどうかな。深刻な問題にすらあっけらかんとしている人が入院を迫られる重症を負って反省するのか?」

 椅子をギシギシ揺らしていた梅さんが動きを止めて「もしや」と首を傾げました。

「じいさんの後悔が原因じゃないか?」

「『自分が台所に行っていたせいで・・・』と悔やんでいましたね」

 受話器の向こうでおじいさんは嘆いていました。「また、救ってやれなかった」と。生真面目なのかおばあさんを大切に想っているのかおじいさんは負い目を感じていました。しかし足の置き場の悪い、不安定な椅子を選ぶおばあさんに非はあります。椅子から落下した衝撃で後遺症が残ったならともかく、おばあさんは回復して元気を取り戻しています。過ぎたことを悔やんでも時間の無駄です。

「おじいさんは十分に反省しました。二人にはまだ人生が残っているのだから次に備えるべきです!というわけで今すぐ椅子を倒さないようにしてください」

「お前さん・・・たまに人使いが荒いよな」

 文句を言いながらも梅さんは立ち上がる拍子に椅子を倒しました。椅子を立てているから倒れるのだから、倒れたままにしておけばいいんじゃね?とでも考えたのでしょう。

「多分これでじいさんが台所に行っても音はしないんだが・・・」

 梅さんは電話機へ手を伸ばしおじいさんへ電話をかけました。電話機は帳場に置かれているため、店番兼作業をしていた私にも奥さんの甲高い声が全て聞こえました。

 数分前、昏睡状態から覚めたおばあさんが窓から飛び降りたと連絡をうけ、おじいさんは病院に向かったため不在でした。

「あの人が飛び下り?誰かの陰謀かい?」 

 梅さんは少し真剣になって問いますと、向こうから更に真剣な声が返ってきました。

『いいえ、母の意志です。そもそも母が入院したのは、首を吊ろうと椅子に乗って転倒したからですよ』

 このやりとりで、椅子が勝手に倒れる理由が発覚しました。

 明るい性格でいつも笑っているあのおばあさんが【自殺未遂】を繰り返していたのです。

 私は「ありえない」と疑いました。

 梅さんは「気づかなかった」と困惑していました。

 私も梅さんも、おばあさんの全てを知っているわけではないのに「あの人に限ってないな」と決めつけていました。

 いつも明るく振る舞っているおばあさんしか見ていなかったくせに、笑えますね。

 え?飛び下りて、おばあさんはどうなったかって?再び昏睡状態ですよ。私もたまにお見舞いに行くのですが、お花だけ置いてすぐ病室飛び出しちゃうんですよ。

 それからは電話がなると怖くて出られなくなってしまいました。

 だって思い返してみてください。私が勝手に倒れる椅子を知ったのはおばあさんの電話がきっかけです。でもあの時も、おばあさんは昏睡状態だったのですよ。

 もし次におばあさんから電話がきたら、私は今まで気付いてやれなかった罪悪感で砕けます。いつもの明るい笑い声でも聞いてしまったら更に悲しくなってしまいます。

 前回椅子の使用法について質問したでしょう?おばあさんが最後にトムラ堂に来た時に私へ同じ質問を投げかけたのです。そして別れ際にこう言ったのです。

「椅子は乗ることも出来るんだよ」

 あの時、いつもと変わらない笑顔を見せていたおばあさんはどのような気持ちだったのでしょう。適当に受け流さずに詳しく聞いてあげればよかった。

 無意味な後悔しか書き綴る気配がないのでそろそろ筆を止めます。

 その前にもう一度言わせてください。

 仮面に騙されてはいけませんよ。

●月■日

                              ファン一号

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