中編4
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咆哮②

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彼の叔父よると、自殺したその男子、詳しくは書かないが、生まれつき両足が不自由で(歩けない程ではない)、かつ重度の言語障害を患っていたらしい。

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では虐めが原因か、というとそうではなく、クラスの殆どが幼稚園の頃からの幼なじみ、からかったりはしていたが虐めのような行為は無かったという。

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「六年の時担任になった女の先生がとにかく酷かったらしい。出来ないの分かってる癖にサッカーボールでリフティングさせようとしたり。陰湿が服を着ているような先生だったって」

以後、その叔父さんの名前をKさんとして話を進める事にする。

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ある日、理科の授業でノーベル賞が話題に上った。その際、みんなの前でその先生はこう言ったのだそうだ。

「生まれてくれないと困る人もいれば、生まれちゃ困る◯◯君(自殺した少年)みたいな人もいる」

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(流石に言い過ぎだろ!!)Kさんは思った。なんだかんだで長い付き合いの仲間なのだ。彼だけじゃない。誰一人としてクスリともしなかった。

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シーンと静まり返る教室。そんな異様な空気の中、なんと先生は一人愉しげに笑ったというのだ。

ガタッ、唐突に◯◯君が立ち上がった。

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「彼は決して馬鹿じゃなかった。それは先生も十分知っていた。あの一言で限界を越えたんだな」

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その日の事を思い出すと、まず自分に腹が立つのだとKさんは嘆いた。

「先生ばかり責められない。俺だって奴の苦しみ、本気で考えた事なんか一度も無いんだから」

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◯◯君は立ったまま、しばらく泣いていた。その時点で謝罪していれば大人しく着席した筈だった。Kさんは胸の内で(謝れ謝れ)と念じていたが、願いは叶わなかった。

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「何突っ立ってんの?怒ったの?」

教壇に立つ女が、◯◯君を冷たい目で見下ろしそう言い放った瞬間、教室全体が震える程の、甲高い絶叫がKさんの耳をつんざいたのだ。

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「人間が出すような声じゃなかった。興奮した猿が吠えてるみたいな声」

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言い様のない恐怖で頭の中が真っ白になった彼は、◯◯君がドアを開け教室を出ていくのを呆然と見送るしかなかったという。

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流石にまずいと思ったのか、先生はしばらくして呼び戻すよう男子に命じたのだが、校内にもう彼の姿は無く、その日、自宅にも帰らなかった。

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警察沙汰になって一週間が過ぎた頃、焼却炉の中で首を吊っているのが発見される。直接の原因は担任の心無い発言だとクラスの誰もが思っていたが、告げ口が彼女にばれるのが嫌でひたすら沈黙。だから、責任の追及もほどほどで終わった。

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「あの女、何事も無かったような顔をして平然と教壇に立ってたな。俺は小さい頃から変な体験を何度もしていたから幽霊の存在を信じてた。だから怖くてな。先生より怯えてたかも知れんな」

Kさんは◯◯君の死以降ずっと、彼の声に悩まされていたらしい。失踪した日に彼の発した絶叫が耳について離れないのだ。

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「あまりに強烈だったから当然と言えなくもないんだが。ましてやそれが奴の最後の声だったんだから尚更」

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虐めは無かったと言いながら、しょっちゅうからかっていたのは事実なのだ。あの時あんな事言った、あんな事をした。その記憶一つ一つがKさんを苦しめた。彼にとっちゃ完全に虐めだったんじゃないかと。

「そんなだから、あの声は多分、罪の意識からくる幻聴だったんだろう。だが、あの時だけは幻聴なんかじゃなかった」

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二学期が始まったばかりのある日。何かの授業で例の担任が黒板にチョークを走らせている時だった。ふいに◯◯君の声が廊下の方から聞こえたのだ。いつも悩まされていた声は、音声が再生されているかのように全く一緒だったのに、その時は違った。

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「声は間違いなく◯◯君だった。けどな、甲高いのは一緒なんだが、あの時の、怒り狂ってるって感じじゃない。高笑いしているような声なんだ」

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その声にクラスの何人かが反応した。ほぼ同時に廊下側に顔を向けたのだ。先生もチョークを止め出入口を凝視している。

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Kさんは恐怖で固まっていた。一番廊下に近い席だったから、◯◯君がすぐそばにいる状況を瞬時に想像してしまったのだ。

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「今の、◯◯君の声じゃない?」

女子の誰かが口にする。教室が騒然となった。

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「静かにしなさい!!今日はもう自習にします」

先生がヒステリックに叫ぶ。顔は完全に青ざめていた。

「自習にするとか言いながら教壇の椅子に座ったんだ。怖くて廊下に出られなかったんだな」

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その日を境にその女先生、どんどん壊れていくのである。

Concrete
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