中編7
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転校生〜三〜

「実は…僕には…。」

来夢はそこまで言うと悲しげな目で僕を見つめた。

「来夢??」

いつもと違う来夢の様子に、何か少し心配になった僕は来夢を気遣う。

「カイ…。

ごめん…。

全部、僕のせいなんだ…。」

そう言い、僕に頭を下げる来夢。

「いきなり何してんねん?!

来夢?今日何かおかしいで?

何があった?説明してくれよ!」

僕は来夢を問い詰める。

そんな僕をじっと見つめていた来夢が口を開いた。

「カイ…。

分かった…全部話す。

笑われるかも知れないけど、全部本当の事だから…。

実は…僕には人に見えないモノが見えるんだ…。」

?!Σ(゜Д゜)

「なっ、何て?!」

僕は思わず横槍を入れてしまった。

「やっぱり信じられないだろ?

でも…本当なんだ。

僕は物心ついた時から、そういったモノが見えていたんだ。

カイ?お前がアレを見てしまったのは、そんな僕の側にいたからなんだよ…。

いつもそうなんだ…。

僕に関わった人間は皆、見ちゃいけないモノが見える様になってしまう…。

だからお前とは距離を置きたかったんだ!

お前…良いヤツだから…。

でも…遅かったみたいだな…。

本当にすまない…。」

来夢は再び僕に頭を下げようとした。

ペシっ!

来夢が頭を下げる瞬間、来夢のオデコをはたいてやった。

「そやし頭下げるなって!

来夢の話は分かった。

ほなあの女性が幽霊やって言うんやな?

俺の目も幽霊が見える様になったんやな?」

黙って頷く来夢。

「悪い!来夢!

全然信じられへん!

確かにこの暗さで、あの距離であんなはっきり女性が見えるんはおかしいと思う。

でも、そやから言うてあれが幽霊やて言われてもなぁ。

それに、もし仮に幽霊が見えたとしても、それが来夢のせいって誰が証明出来るん?

アホらし。」

この時実は、僕は心の底から怯えていた。

来夢には強がって見せたが、来夢が言った事が本当だと言うことは僕にも良く分かっていた。

でも、ここで僕が少しでも怯えた素振りを見せれば

来夢はまた自分を責めてしまう。

だから僕は精一杯強がって見せたのだ。

「カイ…。

また僕の事を気遣って…。」

ば…ばれた…。

この暗闇で無かったら恥ずかしさの余り、僕の頬が赤く染まっている事に気付かれただろう。

「フッ…。」

?!

不意に来夢が笑みを浮かべた。

「カイ?

お前やっぱり良いヤツだよ…。

でも…どうせならもう少し堂々と強がってくれないか?

そう震えられてちゃ…な(笑)」

そう…。

精一杯強がって見せたはいいが、この体の震えはどうしようも無かった。

「は…ははっ…。

ま、まぁあれや来夢君。

あんまり気にするな。」

僕は照れ隠しにもならない台詞を口にした。

来夢はそんな僕を黙って見つめていた。

そして何か覚悟を決めた様な表情を見せた。

「やめだ!

僕はやっぱりお前に隠し事は出来ない。

カイ?本当の僕を見てくれるか?

本当の僕を知っても僕と友達でいてくれるか?」

来夢は真剣な表情で僕に問いかけた。

「アホかお前は?

ホンマも嘘も来夢は来夢やろ?

友達でいてくれるか?やって?

来夢きっも!!」

言っておくが、これは僕の来夢に対する最高の激励なのだ。

来夢はそんな僕に笑みを見せ、ポツリポツリと話し出した。

「今ここで全てを話す時間は無いんだけど、僕の家系は少し変わった力を持っているんだ。

霊媒師って訳じゃ無いんだけど、代々そういった力を持って生まれてくる率が高いんだよ。

でも、その中でも僕はちょっと変わっているんだ。」

そう言って来夢は僕に顔を近付けた。

「僕の右目、青いだろ?

これは色素の問題とかそう言うんじゃ無いんだ。

僕の右目は…。

この目は、この世の者じゃないモノを見る為の目。

そして…。」

そう言いながら、来夢が左目の眼帯に手をかける。

「これが…この世の者じゃないモノを封じる目なんだ。」

?!

眼帯を外した来夢の左目を見て、僕は絶句した。

そんな積もりは無かったが、余りに衝撃的だったので体を反らし、来夢から距離を取ろうとしてしまう。

眼帯が外された来夢の左目…。

いや、目と言うべきなのだろうか…。

そこにある筈の眼球は無く、ただ暗い穴がポッカリと口を開けているだけ。

正直僕は今、目の前にいる来夢という男性に少なからず恐怖を感じていた。

そんな僕に気付いたのだろう…。

来夢は左目に眼帯を付け直し、また悲しそうな表情をする。

「ちゃう!ちゃう!来夢!

いきなりでびっくりしただけやって!

そらそうやろ?

まさか…目無いとは思わんやん?」

僕は必死にフォローを入れる。

だが、それも来夢には見透かされているのだろう…。

来夢は表情を変えず、僕から視線を外してしまった。

最低や…。

俺、ホンマ最低なヤツや…。

僕は心の底から自分を罵った。

来夢がどれだけの覚悟で僕に打ち明けてくれたか…。

それを僕は…。

「よし!

来夢!お前が俺に秘密を打ち明けてくれたし、俺も秘密を打ち明ける!」

突然の僕の言葉に、来夢は再び僕を見つめ、キョトンとした表情を見せた。

「ええか?

絶対誰にも言うなよ?

言うたら友達やめるからな!」

僕は来夢に念を推すと頭を下げ、後頭部の髪をかきあげた。

「なっ?」

上目遣いで来夢に言う僕。

「え??

なっ?って…コレ??」

そう言いながら、人差し指で僕の後頭部をつつく来夢。

「アホか!

触んなや!めっちゃ繊細なんやぞ!!」

「プッ…。

アハハハハ!!

僕の左目の秘密に対してカイの秘密がコレ?!

アハハハハ!」

腹を抱えて笑う来夢。

やっと元気を取り戻してくれたみたいだ。

「お前笑いすぎ!

本人は結構ショックなんやぞ?!

この規模の円脱は!」

そう…僕が来夢の秘密と引き換えに打ち明けた秘密…。

それは、後頭部に広がる五百円玉程の円形脱毛症。

それも三つ…。

合計、一五〇〇円分の円脱。

自分的には本当にショックで、勿論、誰にも打ち明ける積もりは無かった。

でも、来夢のあの顔を見た時、来夢の左目に釣り合う秘密を打ち明けるべきだと思った。

まぁ、釣り合う筈も無いのだが…。

でも、結果的に来夢は元気を取り戻してくれた。

来夢は思いの外、長時間に渡り僕の円脱を堪能した後、再び左目の眼帯を外した。

「カイ!ありがとう(笑)

お前の秘密、絶対に誰にも話さないから(笑)」

来夢は今までに見せた事の無い笑顔でそう言った。

そして。

「カイ?

僕の左目…恐いだろ?

大丈夫!(笑)

もう落ち込まないから。

で…まだこの左目には続きがあるんだ。」

来夢はそう言うと視線をあの道へと戻した。

?!

来夢につられて道を見た僕は言葉を失った。

先程まで遥か遠くに見えていた女性…。

その女性がいつの間にか、数十メ―トルの位置まで迫っていた。

その女性は相変わらず血を流したまま笑みを浮かべ、ゆっくりと此方へ近付いてくる。

再び女性から目が離せなくなり、震える僕に来夢が言った。

「カイ?

大丈夫…大丈夫だから。

僕の左目の続き…お前にみせるよ。

後…そこを動くなよ?」

そう言うと来夢は首を少し右に向け、左目で真っ直ぐに女性を捉えた。

?!

不意に隣に座る来夢から、温かい空気が伝わって来た。

それは段々とその熱を上げ、隣に座る僕はまるでジリジリと焼かれている様だった。

そして…。

?!

暫く無言で前を向いていた僕が、不意に来夢の方を向いた時…。

来夢の左目…。

ポッカリと穴の開いたその左目から、赤い光が漏れだしていた。

「ら、来夢?!」

僕は思わず声を上げる。

「静かに!

すぐに…すぐに終わるから…。」

来夢は女性から目を離さず、僕を嗜めた。

そして…。

?!

再び僕に衝撃が走る。

来夢の左目から発せられた赤い光が、一点に集約したかと思うと、突然ある筈の無い左目が姿を現した。

赤い光を放つ、真っ赤に染まった目。

来夢はその赤い目で女性を見つめる。

僕は来夢の左目に意識を取られていたが、女性の存在を思い出し、視線を女性へと向ける。

さっきと違う…。

そこにいた女性は先程までと違い、その顔からは笑みが消え、酷く怯えた表情を見せていた。

そして、その歩みも止めている。

いや、少しずつ後ずさっている様に見える。

「カイ?

いくよ?」

不意に来夢がそう言うと、赤い左目が一層その輝きを増した。

ここから先に起こった事は、直接この目で見たにも関わらず、僕には信じられない…。

あの時…。

来夢の左目が強い光を放ったと同時に、目の前にいたあの女性が来夢の左目へと吸い込まれていった…。

僕は、その一部始終を来夢の横で見ていたが、次々と目の当たりにする衝撃の光景に、完全に思考が停止していた。

「終わったよ。」

来夢に声を掛けられてやっと我にかえった僕。

「これが、僕の全て…。」

来夢は複雑な表情を見せながら僕に言った。

「お、おう!

かなり焦ったけど、そんなに大した問題でもないな!

まぁ、ぶっちぎりで俺の円脱の勝ちやろ(笑)」

そう強がった僕に笑顔を見せる来夢。

僕も負けじと笑顔を見せ、二人で笑い合う。

互いの秘密を共有し合う僕と来夢。

でも、来夢という人間を、この時の僕はまだ理解出来ていない。

Concrete
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sun様。

申し訳ございません…。
カイ君の円脱治療専念の為、当面の間連載を休止させて頂きます(笑)

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むぅ様。

違いますよ?!Σ(゜Д゜)
断じて私ではございません!

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これからどう繋がって行くのか妄想が膨らんでしまいます!

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りりぽょ様。

いや、別に円脱を馬鹿にしてる訳じゃ無いですからね?(笑)
正に今、知人が円脱真っ最中なんでつい…。

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月舟様。

こうなったら続きを!ってどうなったらですか?(笑)
ぜんっぜん分かりません!(笑)

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珍味様。

深い話しですねぇ…。
カイの円脱がそんな深い話しと比較されるとは…(笑)

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