中編5
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チーズ イン ザ ゴースト

今回のお話は藍さんから聞いたお話です。

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その日、私は仕事場の同僚で学生時代からの親友の絵梨花とマクドナ〇ホドにハンバーガーを食べに行きました。

そのハンバーガー屋にしたのは彼女がはまっているポケモンGOというスマホゲームのバトルができるジムというスポットに設定されているからでした。

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「うわ、いっぱいだあ」

絵梨花は店に入るなり、いっぱいと呟きましたが、お昼時を過ぎていたのでお客は少なめでした。

すでにスマホでゲームをプレイしていたので、ポケモンのことかと思いました。

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「そういえば、椎奈ちゃん、真央さんのところに通ってるんだって」

「うん、娘の霊感相当強いみたいだから、幽霊とかと遭遇したときとかの心得を教えてもらいに」

絵梨花の中学生になる娘の椎奈ちゃんは生まれつき霊感が強く、私達には視ることのできないこの世ならざる存在に遭遇してきました。

そのため、適切に対処するために神社の娘さんで同じく強い霊感を持つ真央さんという霊能者のところに通っていました。

「母親としては娘の霊感についてはどう考えてるの?」

「う~ん、特には気にしないことにしてる。

真央さんからも特別な接し方をしないことが一番だと言われてるし」

「そうなんだ、でも娘が自分とは違う感覚を持ってるっていうのは大変なこともあるんじゃない?」

私のお節介にも思える問いかけに絵梨花は少し考えてから答えました。

「娘にとっての幽霊は私にとってのチーズのようなものだと認識してる」

「・・・チ、チーズ?」

学生の頃からの腐れ縁でその性格の突飛さは分かっていたつもりでしたが、今回の発言はその中でも群を抜いて怪奇なものでした。

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「えっと、フ○レオフィッシュのセットでお願いします」

言葉の意味が分かっていない私をそのままにして絵梨花はカウンターで注文を始めていました。

「それでフ○レオフィッシュはチーズ抜きってできますか?」

絵梨花の注文に店員もお姉さんは怪訝そうな顔をしました。

「あのお客様、フ○レオフィッシュにチーズは入っていませんが」

私もフ○レオフィッシュにはチーズ入ってないでしょと思いました。

そのときカウンターの後ろに表示されている大きなフ○レオフィッシュの画像が目に飛び込んできました。

絵梨花もじっとそのハンバーガーの画像を見ています。

「おわかりいただけただろうか?

ハンバーガーショップのメニューに掲げられたその映像。

フ○レオフィッシュの画像には挟み込まれたチーズがぼんやりと映り込んでいます。

しかし、店員のお姉さんはこのチーズはそこには存在していなかったと証言しているのです!」

困惑している店員のお姉さんに店長と思しき男性がそっと脇から指摘し始めました。

「・・・フ○レオフィッシュ、チーズ入ってる」

店長にそう言われてカウンターのお姉さんははっと気が付いたように驚き、失礼しましたとお断りを入れてきました。

「つまり、チーズが苦手で意識している私のような人間からすれば、映像に映っているチーズを鮮明に認識できるわけだけど、そうでない一般の人はチーズを意識することができないわけよ」

心霊特番のナレーションのような説明を彼女は熱弁しました。

「う~ん、わかるような気もするけど・・・」

彼女はさらに続けます。

「前に肉々しいハンバーガーが食べたかったからダブルチーズバーガーのチーズ抜きを頼んだんだけど、二枚あるチーズの一枚だけが抜かれた状態で出てきたのよ」

もうすでにどうでもいいレベルのエピソードでした。

「はあ、そうなんだ」

「私はチーズ抜きで注文したことを店員さんに確認したんだけど、その店員は私が何を言っているのかわからないようだったの。

まるでチーズが苦手という人間がこの世にいることを認識することすらできないといった表情だった。

この人はいったい何に対して指摘しているのかすら理解できないようだったの。

チーズを意識している人からすれば、その料理の味を左右するぐらい強い味と風味を持っているのに意識していない人からすれば、そのことを主張しても理解されないわけよ」

確かに説明だけ聞いていると幽霊が視える人の主張が周りの人に理解されない状況と重なっているような気もしました。

「いや、意識しないどころか、むしろ強調しているのかも」

「強調?」

「チーズインハンバーグってどういう料理?」

「えっと、『チーズの入ったハンバーグ』じゃないの?」

「うん、多分伝えたい意味としてはそれで正解なんだろうけど。

でも、この和製英語の意味をそのまま読むと意味は『ハンバーグの中のチーズ』になるわけよ!

そう、チーズが、チーズこそが一番重要とばかりに強調されているのよ。

失礼ながら、チーズが苦手な私からすると全く理解ができないの!」

「全然関係なくなっちゃった!」

やっぱり単純にチーズが嫌いというわがままでした。

「途中までは娘のことをちゃんと心配してるんだなあと感心しかけたのに、全然関係なくなっちゃったよ!」

危うく、こんな子供騙しな論理で納得してしまうところでした。

「そんなことないよ、こうやってスマホで写真を撮ってみれば」

絵梨花がスマホのカメラで店内の誰もいないところを撮ろうとしました。

「ねえ、お母さん、人ってふわふわ浮かべるものなの?」

突然、隣の席にいた小さな男の子が奇妙なことを母親に尋ねているのが聞こえました。

そんなわけないでしょと頭の中で思っていると、絵梨花のスマホ画面が大小さまざまな緑の四角で埋め尽くされました。

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「ハイ、チーズ!」

明らかにその緑の四角は顔認知機能でした。

私はその映像に自分の肌が泡立つのを感じました。

「ね、チーズ、関係あるでしょう」

視えない存在を彼女は確かにとらえているとしか思えない光景でした。

「あなた、いつの間に視えるように・・・」

「・・・娘には内緒ね」

私は大変な思い違いをしていたのかもしれませんでした。

目の前のこの中学生にも見えるお気楽な母親は学生の頃からストーカーでオタクな気質でした。

今のイケメンな旦那と結婚するために生霊を飛ばしたり、憑りついて心を占有したりした女です。

そんな彼女が命より大切な娘のためなら、どんなことでも実践することは明白でした。

それは自分も霊が視えるようになること・・・

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「15人だよ」

不意に絵梨花が視線をスマホに落とし、ポケモンGOをプレイしながら呟きました。

「えっ?」

「この店の中に15人いる」

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私は絵梨花の想いを感じ取ってしまったからか、深くは追及せずに苦笑しました。

「・・・ばかね、4人しかいないわよ」

「うん、あなたはそれでいいの、わかったでしょ。

視えたって何もいいことなんてないんだから、あなたにとっての真実はそれでいいの」

やはりこちらには視線を向けず、絵梨花はチーズ抜きのフ○レオフィッシュをおいしそうに頬張りました。

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福山ま様、シリーズを通してお読みいただいたうえ、たくさんのご評価をいただきありがとうございます。
しかも4回も怖いポチを押したいと言っていただいて感激です。
あくまで自分の考えですが、このサイトの1怖いポチはかなりの影響があります。
例えばアワードが33だったりすると1怖いポチでも割合は3%です。
投票と考えるとかなりの影響ですよ。

ちなみによく本気かふざけているのかわからない絵梨花さんですが、家族のためには大体本気です。

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お久しぶりです。
shibro様ほどの書き手にそう言っていただけるとすごくうれしいです。
これからもよろしくお願いします。

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おひさしぶりです!
凄く興味深い話。勉強になりました。

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