17年07月怖話アワード受賞作品
長編21
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トモダチ【△】

はじめに

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私は、今日死ぬ。

なんで?とか、どうして?とか、そんな事はどうでも良い。

とにかく、今日死んでしまう私の話を聞いて欲しい。

真剣には聞かなくて良い。

ただ、自業自得だ。と笑うだけでも良い。

「私が、今日死ぬ。」

その事実を、誰かに知って貰いたいんだ。

偶然じゃない。事故じゃない。

…私は、今日死ぬ。

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あれは、高校時代の級友と10年ぶりに集まった同窓会でのことだ。

各自仲の良かったグループで居酒屋の席へ腰を下ろし、当時の思い出場話に花を咲かせていた。

同窓会という名目で50人程集まったのもあって、店は貸し切りにしてあったが、やはり最終的に語らうのは仲の良かったメンバー同士になる。

私は何杯目か分からないハイボールのグラスを空け、うっすらと酔いの回る頭で同じ席に座っていた級友たちの話に耳を傾けていた。

「…何の話やっけ?」

「もう、お前飲み過ぎだって。ちゃんと聞けよな。真面目な話してんだからよ。」

そういって、食い気味に私に顔を近づけて来たのは祐樹。

彼は高校時代、野球部に所属していたものの、大会出場時に肩を痛め、野球を出来るような身体ではなくなってしまった。そんなことがきっかけで、非行に走り、何度目かの停学の後、自主退学をしたのである。

「もう、祐樹。そんなに怒んないの。今日は楽しもうよ。ね?」

そう言って祐樹を宥めるように背中を摩るのは和美。

誰が見てもお人形のような可愛らしさで、落ちこぼれの不良少年・祐樹とは釣り合ってもいない。そんな不格好な二人だったが、何の因果が高校時代から恋人同士だ。

私は、2/3ほど残っていたグラスを一気に飲み干し、空にした。

「次、何か飲む?ソフトドリンクか、水の方が良いと思うけど。」

そう言いながら、ズレる眼鏡を右手の中指でくいとあげる青年は圭太。眼鏡なんてインテリで根暗なイメージしか湧かなかったけど、圭太は違う。なんていうか、出来る爽やかな好青年だ。圭太は何かと私に世話を焼いてくれる。ありがたい話で、周りからは色めきだった噂も立ったが、そんなことは一切ない。圭太は5つ年の離れた妹にご執心なのだ。その妹と私が似ているから、何かと世話を焼いてくれているのだろう。

ここに来て、まだ一言も発することなく、其処に座っているのは双葉。人見知りだから。というわけでは無い。この子は生まれつき言葉を喋れないのだ。どうも先天性らしい。

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ああ、一応自己紹介しておかないとね。

私の名前は「雪」。初めまして。こんにちわ。

どうせ、死ぬ人間だから、特に覚えなくても良いよ。

私の存在なんて、その程度なんだからさ。

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「それで、何の話やっけ?」

私はしかめっ面をしている祐樹に問いかけた。

「だーかーらー、最近頻繁に自分が死ぬ夢を見るから気味悪いって話。お前、昔から霊感あって、オカルトとかそういうのに詳しいだろ?夢占いってーの?そういうの知らねえ?」

そう言った祐樹に和美が続けた。

「そう、すっごい魘されてるんだよね。ここ数日。毎晩だよ?私も心配になっちゃって。」

(ああ、そう云えばいつからだったか同棲してたっけな。この2人。)

「知らん。霊感があってもオカルトに興味があるって訳ちゃうし。」

2人の顔も見ずにツマミのから揚げを口に放り込んでそう言った。良い感じでレモンが効いてる。程よい酸味と塩気に私の舌はご満悦だ。どうも私は食に対しての関心はあっても、人に対しての関心はてんで薄いらしい。

こんな私にも【友人】と呼べる者がいるのだから驚きだ。そもそも彼らと【友人】になった経緯さえ覚えていない。大阪から東京へ転校して来た、当時の私に声をかけてくれた…のだと思うが。卒業から今日までろくに連絡すら取り合ってなかった。

「雪、久しぶり。」

そう声を掛けられて、久しぶりに彼らの存在を思い出した。

顔も、名前も、声も。

私の隣で座りながら、お酒の席で水ばかりを飲みながら時折コミュニケーションを図るように私の服を引っ張る、この【双葉】という子を除いて。

「やっぱ雪でも分かんねーか。つーか、お前って相変わらず無関心・無表情だよな。」

祐樹は空になったグラスの表面の水滴を指で遊ばせながら笑う。

「…そう云えば、テレビで見たことがある。」

そう口を開いたのは圭太だ。

「夢って、実際に見たり経験したりしたもの以外は見ないんだって。夢はあくまで、眠っている時に脳で行われる記憶の整理らしいよ。」

和美が続ける。

「じゃあ前世の記憶を見てるとか?」

再び眼鏡を上げた圭太は言う。

「でも、祐樹は死ぬ自分を確実にみてるわけだろう?」

「なあ、雪。何か分かんねーの?お前の持てる知識を生かしてくれよ。」

無理難題をいう祐樹を私は無視した。

3人の談義は続く。が、私からすれば至極どうでもいい。

圭太が注文してくれたソフトドリンクに手を伸ばした時、双葉が私の手首を握った。

「何?双葉、飲みたいん?」

そう云う私に向かって双葉はジッと視線を合わせる。

昔からそうだった。双葉は言葉を発せない。普段は筆談で会話をするが、私との時は別だ。

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双葉には不思議な能力がある。私に霊感があるように、双葉はテレパシーを使える。何故私に対して、この能力を使うのかは分からない。ただ、双葉とは脳内で会話する事が出来た。誰も聞いたことが無いであろう声を、私は知っている。

日本人らしからぬ、アッシュがかったブラウンの大きな瞳。化粧っ気のない素の顔は10年前と何も変わっていない。スッと通った鼻筋も、透き通るような肌も、言葉を発しないピンク色の薄い唇も、10年前と同じだ。…同じだ。

3人の声を遠くの方で感じつつ、久々の脳内会話に入ると思っていた私の頭部に、刺さるような激痛が走った。右手は双葉が握ったままだ。ズキンズキンと痛む頭に目を細めながら双葉を見た。

双葉は依然、表情を変えない。それでもしっかり私を見つめる。

(分かったよ、双葉。)

私は、そう呟いて目を閉じた。

刺さるような頭痛と、けたたましい耳鳴りを感じながら目を開いた。

時間にすれば数十秒といったところだろうか。

そこに広がっていたのは懐かしいと呼ぶべき風景。

おおよそ、一瞬のうちに何処か把握するには十分な状況である。

「雪、大丈夫?」

和美が心配そうに私を見る。

黒髪を丁寧にポニーテールにセットしてある。

身に着けているものは所謂、制服というやつだ。

まさかあの状況から、コスプレ喫茶に飛んできたわけではないだろう。

そう、ここは私の母校である。

「大丈夫。ありがと。」

倒れていた身体を起こし、自分の姿を見れば、納得。

私が身に着けているのも制服だ。

この歳で…制服…

しかし、当然のこと。私は現在16歳。学校で制服を着ていてもなんらおかしくは無い。

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双葉の能力のひとつ。

時空を超えたテレポーテーションである。

彼女はこうして対象をタイムトラベルをさせることが出来る。10年前に、双葉からその事実を聞いた私は実際に経験させて貰ったわけだが。やはりあの頭痛と耳鳴りはたまったもんじゃない。ある意味で人害だ。

タイムトラベルした先の私は一体どうなっているかって?

そんなのは知らない。双葉に聞いてくれ。

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端的に言おう。

私は双葉の意向により10年前のこの世界にタイムスリップをしたのである。

一文で纏められる、簡単な現実だ。

さて、ここからは一文で纏められない問題である。

__何故、あの子は私を此処へ連れて来たのか__

その謎解きをしようじゃないか。ああ、めんどくさい。至極、面倒だ。

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言葉を発しず溜め息をつく私を見て、和美は心配そうに声を掛けた。

「雪、保健室行く?話してたら急に倒れて…びっくりしちゃった。」

「大丈夫やって。気にせんで。」

「でも…」

「大丈夫って言うてるやろ。くどいで。」

「…ごめん。」

ああ、何て弱い人間なんだろうか。

和美に当たったところで何になる。短気で短絡的。私の最大の欠点だ。

叱られた子供のように目を伏せ、今にも泣き出しそうな和美の頭を軽く撫でた。

「ごめん、当たってしもたわ。ごめんな。」

和美の表情は一瞬のうちに明るくなる。良くも悪くも、明るくて素直な子だ。

「でね…、どう思う?やっぱり気のせいだよね?気にしすぎちゃダメって分かってるんだけど、どうしても怖いんだ。祐樹に話しても馬鹿にされちゃうし…。」

タイムスリップ前の記憶がない。当然だ。

「ごめん、貧血?っぽくてや。もういけんねんけど、何の話やった?ぼーっとしてしもてたわ。」

「私が、夢の中で殺されちゃうって話!!」

__ドクン。

心臓が跳ねた。聞き間違いではない。和美は確かに言った。

『夢の中で殺される。』

10年後、祐樹が言った台詞と全く同じ台詞を口にする和美。

いや、そんな事よりもこの時代に和美からそんな相談をされたことがあっただろうか。記憶が混濁し、脳内が混乱する。思い出そうにも、何一つ思い出せない。

…10年前の記憶が、ほとんど白紙に近い状態で抜け落ちている。しかし、私の抜けた記憶に関して今は対して重要な問題もないだろう。

和美の話を詳しく聞いた。

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纏めるとこうだ。

和美は、夢の中で殺されるらしい。

何度も何度もハラワタを抉られ、刺され、痛みで悶え、目が覚める。

殺される場所も謎で、ただ真っ黒な空間の中、何者かによって殺害される。

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祐樹の話と類似点。

【真っ黒な空間で何者かに殺害される夢を見る。】

情報量が少なすぎる。ここから何を得れば良いのか。

小心者でひとしきり怖がる和美を宥め、私はある場所へ向かった。

会いに行かなくてはいけない人がいる。

私を此処へ連れてきた張本人である人物の元へ私は足を進めた。

錆びついた扉を開けると、真っ青な空が視界いっぱいに広がる。今は夏か。蝉の鳴き声がミンミンとやかましい。

「双葉。いるんやろ?」

少し大きめに私は声を掛けた。

貯水槽の裏側からひょっこり顔を出した双葉。

此処は屋上。双葉のお気に入りの場所だ。

無邪気に笑い掛ける双葉に若干の苛立ちを感じながら、私は双葉に事情を説明した。

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「そっか。10年後の私に此処へ飛ばされたんだね。」

「せや。事情が全くつかめん。」

「私も分からないよ。テレポーテーションが出来るって言っても、私は過去にしか飛ばせない。未来の雪が過去にいても、私には現在。未来の私の考えることなんて分からない。」

「そんなん言うてもなあ。この場所で何をさせる気なんや…」

「んん…未来の私っていっても、私は私。思考もさほど変わってないだろうし、現在(いま)の私が思うに……」

傍から見れば不可思議な光景だ。

10代の女子が無言で相手をただ見つめる。そういえば、あらぬ噂を流されたこともあったっけ。

現在の双葉は、こう考察した。

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10年後の祐樹が死ぬ夢を見た原因が此処にある。

此処では、和美が祐樹と同じ夢を見ていた。

共通するのは、【殺される夢】ってこと。

この世界で何かの鍵を掴むこと。

そのために、未来の私は過去へ雪を飛ばした。

…って、そこは何となく察しが付いてる。

本題が分からんから悩んでるんやろうに。

言葉に出さない悪態も、双葉には伝わってしまう。

そんな私の想いを案の定、察知した双葉は「ふーむ。」と唇を尖らせた。

「何か、一歩前進出来るような情報があれば良いんだけど。」

「んなもん、あったらとうに言うてるわ。」

「だよねえ。因みに、こっちの祐樹はそんな夢見て無いと思うよ。聞いたこと無いし。」

「やろうな。ってか祐樹は今、学校来てんの?」

「うん、雪の言う〔荒れる前の祐樹〕が居る世界なんだと思う。」

「さよか。まあ、ほな一安心やな。取り敢えず全員集めて話し聞くか。」

「分かった。私も行くね。」

「和美が教室におるけ、行ってて。うちは祐樹と圭太を捕まえて行くから。」

そういって立ち上がった私に、双葉はとんでもない言葉を投げかけた。

「雪、忘れたの?圭太は…先月亡くなったんだよ。」

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双葉の一言を聞いた私は、戸惑いと動揺に侵された。

頭がクラクラする。喉が渇く。心臓が痛いくらいに鳴る。茹だるように暑いのに一滴の汗も出ない。

圭太が、死んでいる…?

どういう事だ。そんなはずはない。だって、あの同窓会に確かに圭太は居た。

私と会話をした。私だけじゃない。和美とも、祐樹とも。

あの圭太が死んでいる?じゃあ、アレは一体誰だと言うのか。

脳内で繰り返される疑問、答えは出ない。

煩いくらいに鳴いていた蝉の声はもう聞こえない。

自分の息、鼓動、それだけがこだまする。

私は外の景色を見た。もう夕暮れだ。沈む夕日が紅く色付く。

その景色は、何故か私の気を落ち着けた。

明日、みんなと話そう。確かめなくてはいけない。

双葉は、安易に私を此処へ送ったわけではないだろう。

理由があるはずだ。

パラレルワールドなんてぶっ飛んだ設定がこの世の中にある訳がない。

テレポーテーションなんて能力が存在している時点で、何言ってるんだって感じだろう。

それでも、これは現実だ。

10年前に、圭太は死んでいた。きっとこれが事実だ。解せない。その理由が知りたい。

何故、圭太は死んだのか。

否、殺されなくてはいけなかったのか。

あの同窓会で会った圭太の存在については、また後で考えれば良い。

私はまだ大丈夫。考えるだけの理性は、ちゃんとある。

ゆっくり深呼吸をし、私は明日聞くことになるであろう真実を受け入れる準備をした。

本当に、どういう仕組みになっているのか、あの後普通に実家に帰った私を両親は何の疑問も無く迎え入れた。「おかえり。今日は暑かったやろ。」

両親とは、もう5年以上会っていなかった。

故に、気恥ずかしさがあり、何となく気まずさもあり、暫くは目を合わせることも出来なかった。私が両親と疎遠になった話は、まあ、この件とは全く関係ない。当時16歳の私はそこそこ両親と仲が良かったのだ。不信感を持たれないように、それなりに接しなくては。全く…自宅に帰ってまで、何でこんな気苦労をしなくてはいけないのか。

…めんどくさい。とにかく、面倒だ。

そんな若干のコミュニケーションの拙さを「体調が悪いから。」と早々に自室へ籠もった私は、今日1日の事を脳内で整理した。

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・双葉の能力によって10年前にタイムトラベルをしている。

・きっかけは祐樹が言った「夢」の内容であろう。

・10年前の和美は、祐樹と全く同じ夢を見ていた。

そして、何より不審な点は以下。

・10年後の同窓会に来ていた圭太が、10年前には亡くなっていた。

・圭太の死も、和美の夢も、私は忘れていた。

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さて、どう解決していったものか…

そんな事を考えながら、答えの出ない問題にいつしか私は眠りに落ちてしまった。

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___夢を見た。

誰かが、私を殺す夢。顔は見えない…いや、見える。知ってる。あれは___。

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けたたましい目覚ましの音が鳴る。夢はそこで途切れた。

嫌に残る、生々しいビジョン。

「顔…見たはずやのに。あれは…あー思い出せん。」

夢というのは至極曖昧だ。鮮明に見ていても、起きて1分もすれば8割は忘れてしまう。

まるで、私のようだ。

大切なことさえ、曖昧に忘れてしまう私。

いやいや、今はそんなポエミーを言ってる場合じゃない。学校へ行かなくては。

さて、新しい朝が来た。

希望の朝では無いが、人間生きていれば等しく日は昇る。

重い腰をあげ、制服に着替えて、蝉の鳴き声を煩わしく感じながら、登校する。

2,3日で事の解決をしたいところだ。理由?面倒だからに決まってる。

…恨むで、双葉。

学校に到着するなり、早々に和美にはち会った。

「雪!おはよう!」

相変わらずテンションが高い。

「おはよ。昨日は夢、見んかったん?」

その一言にあからさまに落ち込んだ顔をする。

…分かりやすいな。

学生の本分は勉学に勤しむ事である。まずは、放課後まで、しっかり学生ライフを満喫しようでは無いか。

そう、今日は圭太の死の真相を聞く、大仕事があるのだから。

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~放課後~

生徒は部活だの、帰宅だの、校内でのおしゃべりだの、個々自由に過ごしていた。

私は人目につかない場所。屋上へ、みんなを呼び出した。

祐樹、和美、そして双葉。ここに圭太がいないのが、不思議だ。言いようのない喪失感だ。

私は3人に対して、本題を切り出した。

「急に呼び出してごめんな。ちょっと聞きたいことがあって。手短に終わらすからや。」

そう言った私に3人は目を丸くする。

最初に言葉を発したのは祐樹だ。

「馬鹿。ダチの頼みなら基本断らねーだろ。気にすんなよ。」

次に和美が続ける。

「そうだよ!それに、雪からのお願いって初めてだし、何か心許してくれたみたいで嬉しいな。」

双葉は何も話さない。私たち3人をジッと見つめているだけだ。

意を決して、私は本題へ入る。

「先月、圭太が亡くなったやろ?うち、そのショックが大きかったんかして、何や記憶が混濁しててな。正直実感がわかんのよ。でも、事実として受け入れなあかん事は分かってる。やけ、うちに圭太に起こった全てを話して欲しい。」

半分は嘘で、半分は本当だ。

その言葉に双葉以外の2人は顔を僅かに地面に伏せた。

そりゃ、友達の死をもう一度まざまざと思い出させるようなお願いをしているんだ。すんなりと受け入れ、話してくれるわけが無い。

そんな私の予想に反して、祐樹が重い口を開いた。

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(以下、回想)

圭太は先々月に妹を事故で亡くした。圭太の家は両親がおらず、兄妹が慎ましやかに仲良く暮らしていたのだ。そんな最後の家族を亡くした彼の精神状態は、想像を絶するものだったであろう。その圧に耐えきれなくなった彼は、先月廃ビルの屋上から飛び降り自殺をした。遺書などは無かったらしいが、警察の調べで自殺と断定されたようだ。

(回想、終了)

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成程、その話を聞いても私は圭太の死、圭太の妹さんの死を、10年前の事実を全く思い出せない。思い出せないのか、思い出したくないと、蓋をしているのか…

何にせよ、圭太が亡くなったというのは紛れもない事実らしい。

祐樹の話が終わると、和美は信じられない言葉を私にこっそり耳打った。

「圭太も見てたんだって。自分が、死ぬ夢。殺される夢。」

完全下刻のチャイムが鳴った。

和美からの衝撃の一言を聞いた私は、それからどうしたのかはっきり覚えていない。

覚えていないが、学校近くの公園で双葉とベンチに座っていた。

「双葉、うちを元の10年後の世界に還してくれん?」

「雪…。」

「なんや、もうよく分からん。夢って何や。予知夢でもみんな見てるってんか?ほな、和美も死ぬんか?10年後の祐樹も死ぬんか?それをうちにどないせーっちゅうねん。」

頭を抱えた私の手に、双葉はそっと触れる。

「雪は、知らなくちゃいけないんだよ。この話の真実を。」

「何でうち、がっ____!?」

嗚呼、まただ。頭部に刺さるような激痛。

「知らなくちゃ、いけない。」

「嫌や…って…双葉、止め____っ。」

そこで私の意識は飛んだ。

最期に残った双葉の声が脳内にこだまする。

「雪、目を逸らさないで。知って。逃げちゃダメ。」

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目を覚ました私が居たのは、先程まで双葉といた公園のベンチだ。

自分の服装を見て、なんとなく察しは付いた。

アイボリー色のTシャツに、黒のライダースジャケット。淡いグレーのスキニーパンツと踵の低いデニム生地のパンプス。

恐らく、私は大学生だ。自分の髪に触れる。ロングヘア、ってことは20歳か。

同窓会から6年前。高校生から4年後。私は、高校時代の双葉によって、テレポーテーションされたようだ。公園にある時計に目をやる。昼の13:00を少し回ったところ。公園内に子供がいないということは、恐らく平日だろう。さて、行くべき場所は一つ。

私は当時通っていた大学へと足を進めるのであった。

6年前といえど、やはり懐かしみを感じる。大学なんて殆ど通った記憶は無いが。

「雪。」

聞きなれた声がする。振り返るとそこにいたのは双葉だ。

「今日は寝坊?」

「ちょっと、タイムトラベルしてた。」

双葉との脳内会話も慣れてしまえばこんな感じで。

食堂まで双葉を拉致し、事のいきさつを全て話した。

「成程。うん、複雑な感じになってるね。」

「高校ん時の双葉は〈真実を知れ〉って言ったんや。最初は何も知らんふりしてたクセに。双葉、アンタ何を知ってるんや。」

そこまで言った後、私の携帯が震えた。

…ガラケーかよ。まだガラケーやったんか、うち。

自分のアナログっぷりに若干溜め息を尽きつつ、携帯の液晶に表示されている文字を見る。

【祐樹】

大学生活送ってて、祐樹と接する事ってあったっけ?

まただ。記憶の混乱。

正直、この電話には出たくなかった。

そのまま放置しようと携帯をポケットにしまい掛けた時、双葉が私の手を掴んだ。

今までにないほど、真剣な表情だ。

私は、双葉に弱い。もっと詳しく言えば、無言の双葉は怖い。

諦めた私は、携帯の通話ボタンを押した。

「…もしもし?」

「雪、和美が…死んだ…。」

嫌な予感は的中するものである。

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双葉と共に、お通夜から告別式まで参加した。

祐樹は、憔悴しきった顔で流す涙も枯れてしまったのか、終始地を見つめては空を仰ぎ、心ここにあらず。といった様子であった。

高校時代から付き合ってた二人だ。悲しみとかそんなチープな言葉では収まり切れない感情が彼の中に渦巻いているのであろう。そんな祐樹にかける言葉なんて、低能な私には見つからなかった。双葉だけは、祐樹に近付き、手を握り、ひたすらに背中を摩っていた。

こんな時、【かける言葉が見つからない】と良く言うが、寧ろ言葉なんていらないのかもしれない。双葉を見ていると、そんな風に思えた。

祐樹がポツリと言葉を発したのは、告別式を終え、和美が火葬され、完全に現世に肉を残さなくなってからだった。

「和美、妊娠してたんだ。」

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(以下、回想)

高校卒業後も付き合っていた2人。途中で退学処分となった祐樹は、現場仕事に昼夜勤しんでいた。時間のすれ違う2人。その寂しさから、和美は一夜の過ちを犯し、その相手の子を身籠ってしまったのだという。憤怒した祐樹は和美を酷く罵り、別れ話を切り出したのだという。自分の犯した罪と愛する人に見限られたショックから精神を病んだ彼女は、自ら車道へ飛び出し、この世との永遠の別れを選んだ。

(回想、終了)

「俺が、もっとあいつの気持ちを考えてたら…!」

そう言って自分を責める祐樹を見ていた私は何だか妙な気分になった。

この感情に名前を付けるなら…いや、分からない。

哀憐?哀慰?憐情?思遣?不憫?

いや、どちらかと言えば…この感情は…

そこまで考えた時、双葉に声を掛けられた。

「雪、どうしたの?」

「…いや、大丈夫。何にもない。」

私は混乱していたのだ。圭太だけでなく、和美の死さえも忘れていた事実に。

さて、ここまでくれば流石の私でも何となく察しは付いてきた。

あの同窓会で出会った圭太と和美。もうこの世のものではなかったのだ。

霊感がある私が視えていた、2人の魂。

思えば、祐樹を交えた3人の会話も、ただの祐樹の独り言、否、私に対してのみ語りかけていた言葉だったのだ。

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1つの疑問は解決した。

残る疑問。3人が見た夢。

そして、疑問はもう1つ増えた。

何故、私はそんな大切なことを忘れていたのか。

恐らく、それを知れば分かるのであろう。

この話の最大の謎。そして、この話の結末。私が死ぬというシナリオの意味。

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__何故、同窓会の双葉は私を此処へ連れて来たのか__

__何故、高校生の双葉は私を此処へ連れて来たのか__

2つの疑問に直面した私は、もう考えることを諦めてしまっていたのだろう。

考えたくない。

知りたくない。

分からない。

どうしようもない。

辛い。辛い。辛い。

「私」という人間は、本当に都合の良い人間だ。

つい先日まで、彼等の存在を忘れていたというのに。

そんな彼等の「死」を目の当たりにして、現実逃避なんて。

本当に悪い、狡い、都合の良い人間だ。

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………

「ああ、そうか。」

私は、呟いた。

忘れていたのは、負の感情から逃げるためだったのか。

そうやって、自我を保っていたのか。

私にとって、彼等はかけがえのない友人だったからこそ、私は現実から目を背けたのか。

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「雪。」

脳内で双葉の声が鳴る。

もう一体、いつの双葉なのか分からない。

「双葉、もう全部分かった。ちゃんと思い出した。」

「何を?」

「大事な友達の「死」から逃避してたうちに、現実と、友達の存在を思い出させてくれたんやな。」

「うん、そうだね。」

「こんな大事なこと、忘れたらあかんかったのにな。」

「雪が、みんなの存在を忘れてしまって、凄く悲しかったよ。」

「ごめんな、双葉。」

「でも…」

双葉は続ける。

「まだ、足りないよ。雪。」

私が声を発するよりも先に、頭部に襲う激痛。

そういえば、まだ解決していない疑問があった。「夢、か。」

そう呟いた私は、いまや心地よくも感じる痛みに目を閉じた。

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目を開くと、そこは誰も居ない居酒屋のひと席。

紛れもなく、そこは同窓会が行われていた場所だ。

目の前には空のグラス。空の食器。まだ、煙の立ち上るタバコが放置された灰皿。

足りないのは、目の前にいた祐樹、和美、圭太が居ないこと。

隣にいたはずの双葉も、居ない。

空になった店内は、明かりさえ点いているが、逆に不気味さを感じた。

重い腰を上げた私が次に見た光景は、歩道橋の上に立つ祐樹だった。

「雪、今日はありがとうな。俺、和美が死んでからずっと自分を責めて生きて来たんだ。生きてても辛いだけだった。本当は今日の同窓会も行くつもりじゃなかった。けど、お前と双葉の顔見て、すげえ安心した。居る訳無いけどよ、圭太と和美も居た様に思うんだ。まだ、胸の取っ掛かりは消えねえけど、俺頑張るよ。」

そう言った祐樹は、笑った。笑っているのに、どこか悲しげだ。

助けてあげたい。私の大切な友人を。

この長い苦しみから、救ってあげられるのは…私だ。

私は祐樹の胸倉を掴み、歩道橋から投げ落とした。一瞬で、祐樹はただの肉塊に変わる。

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「そっか。うちがみんなを殺したんやな。」

全部、思い出した。

予知夢を見ていた、そんな私の考察はあながち間違っていなかった。

3人は、私に殺される夢を見たんだ。

恐らく圭太は和美に夢の内容を相談したのだろう。

「俺、雪に殺される夢を見た。」

その後に、圭太は本当に死んでしまった。

同じように、私に殺される夢を見た和美は夢の話を持ち掛けつつ、私の反応を覗ったんだ。

祐樹も、同様に。

自らの犯した罪を忘却した私の反応は、さぞ信頼性があっただろう。

2人は何も疑わなかった。逆に、そんな夢を見た自分を責めたかもしれない。

優しい、優しい、そんな彼等だからこそ、殺した。

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死は終わりじゃない。始まりだ。

圭太は妹の死に苦しんでいた。

和美は自己嫌悪に押しつぶされていた。

祐樹は過去の呪縛に囚われていた。

現在(いま)に絶望した人間は、死の先の希望を見れば良い。

苦しみからの解放。

それが、大切な友人に出来る、私の最善の贈り物だった。

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私は小さく笑い振り返る。そこにいたのは双葉だ。

暗くてよく見えないが、恐らく双葉は嘆いているのだろう。

私の凶行を全て知っていたのだから。知っていて、止めれなかったのだから。

そんな自分の不甲斐なさを呪っただろう。悔やんだだろう。憎んだだろう。

「なあ、双葉。うちが憎い?」

「…。」

双葉は答えない。

「全部、ちゃんと思い出したわ。双葉のおかげやで。ありがとう。」

この言葉に偽りは無い。誠心誠意、気持ちを込めて感謝した。

ただ、理由が分からない。思い出させることで、双葉は何がしたかったのか。

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「雪、私は雪が憎いなんて思ってないよ。今でも大好き。」

双葉は続ける。

「私がこの能力で、雪に色々な過去を思い出す旅をさせた理由を教えてあげる。」

近付いて来た双葉の顔が少し笑っているように見えた。

「苦しみからの解放。雪は、やっぱり凄いや。私じゃ、そんな事思いもつかなかったもの。確かに、どれだけ慰められても、どれだけ励まされても、結局は現状の解決にならない。無くなったものは戻って来ないし、悲しみが消えることはない。だから、苦痛を感じない方法。現世からの離脱。雪はそれをみんなにしてあげたんだよね。」

双葉は私の手を握る。いつも、そうしてくれたように。

「私には視えないけど、雪には死後の世界が見えるんだよね?死者の魂が見えるんだよね?和美と圭太、どんな風だった?」

私は、居酒屋での一コマを思い出す。

2人はまるで生きているようで、普通に、自然に、話してた。笑ってた。幸せかは分からない。ただ、普通に、笑ってたんだ。

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ふと胸元に痛みを感じる。

視線を下ろせばそこには心臓を貫くナイフ。

じわじわと生命の終わりを感じる。

足元から崩れ、倒れ込んだ私を見下ろしながら双葉は微笑んだ。

「友達を殺した罪は、雪にはとても重かったよね。記憶から消されてしまうほどに。」

ああ、苦しみからの解放。現世からの離脱。

双葉は私にそうしてくれたのか。

随分、長く私は現実から逃げていたように思う。

友人の記憶に蓋をするのは、至極辛かった。

人に無関心になったのは、大切な何かを作りたくなかったからだ。

でも、悔やまれる。大切な双葉を1人残してしてしまうんだ。

遠のく意識の中、私は、あの時見た夢を思い出した。

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私を殺したのは、双葉。

「雪は、本当に優しいね。最後に残った私の事心配してくれて。私、寂しがり屋だから。それに、雪とじゃないと、こうやっておしゃべりする事も出来ないの。だから_____...」

「すぐ、行くね。」

~BAD END~

Concrete
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@ろっこめ 様
こめちゃん!!
こめちゃんからのコメント!!びっくり嬉しくて!!!
忙しい中、読んでくれてありがとう(ノД`)・゜・。
めっちゃ嬉しいよ…

そう!!こめちゃんなら、このBAD ENDを幸せなラストに変えてくれるんじゃないかな?って期待ワクワク♡という名の挑戦状だったのだ!!

A子ちゃんシリーズで出して貰えるなんて光栄やで!!!
ドキドキしながらうへへとまってるんば♪
うちのファン…大丈夫よ!!だって、仮にうちにファンがいたとしても、うちのファンのみんなはみんな天使やからぬん( *´艸`)♡

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はとちゃん
コメントありがとうーーーー!!
実は、はとちゃんの意見(?)と今回の話の流れと結構迷ったんよ!!
迷った末に、どういう展開にすれば、後味の悪い・誰も救われない作品になるかな…って考えた結果、全員殺してしまうことにしたの!!

こめちゃんが最近見当たらなくて、ちょっと寂しいけど、こめちゃんはこの挑戦状を受けてくれるかなー?ってちょこっと期待してる!!(笑)
次ははとちゃんの番やね!!
いつ出演してもらうかはもう考えてるんよ( *´艸`)
ワクワクしててね♡

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みー汰
大丈夫。出来る。
自分を信じて。ビリーブ。

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つっきー
つっきいいいいいい!!!
ありがとううううう!!!
もう、褒めて!!褒めて!!もっと褒めて!!(やかましい)

このENDが最高って言ってくれるつっきー大好き。
でも、つっきーのアナザーストーリーも結構涎もんで見たい(←
ふたば様とF様が、挑戦状をチラッと見てくれたから、つっきーもチラッと…ね?ほら、チラッとさ。ね?(←

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せらち様
せらち様は2回目ましてです♬
この作品を細切れ投稿した際に、一度コメントを頂いておりました!!
その際にきちんとした挨拶が出来ず、申し訳ありません…
改めまして、拝読ありがとうございました!!!

このお話しは、色々な感想が皆様の中で飛び交うかな…
飛び交ってくれたら嬉しいな…
と、執筆をしておりましたが「切ない。」という感想を述べたのは、せらち様が初めてです!
後味の悪い作品、何だと…な作品の中に「切なさ」を見出してくれたのは、とても新鮮で、嬉しく思いました!!

執筆は一時、休止するのですが(雪、お疲れモード)
せらち様の作品を、じっくり拝見させて頂こうかと思います♬
これからもお互い、楽しいホラーライフを!!

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F様
コメントありがとうございます!!
ずっと見ていて下さっていたのですね( ^^) _旦~~
お付き合い頂きましてありがとうございました!!
無事に完結することが出来て、ホッと一息なうです。

BAD ENDの達人とは…
何とも背徳的な響き…その称号、私が頂いちゃってもいいのでしょうか。
普通に嬉しいです(笑)

F様の考えるHAPPY END、期待していますよ?(重圧)

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ふたば様
この度は、私のような未熟者全開の自己満100%作品に出演して頂いて本当に本当に心から感謝しております…!!!ありがとうございました!!
ふたば様のキャラ設定を考えて、考えて…ちょっとミステリアスな少女にしたのですが、果たしてご期待に添えたかどうか…話を投稿する度にドキドキしておりました…
全ての作品において、ふたば様が残して下さったコメントがこの作品の原動力でした!!

うふふ…ふたば様の素晴らしい執筆能力はもう確認済みなのですよ…
読み専などと謙遜なさらず、どうかこのお話をHAPPYに導いて下さいませ!!←

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まー様
コメントありがとうございます!!
無事書き終えることが出来ました…無謀な挑戦でしたが、安心しております…
私の作ったキャラに愛着を持って頂けたなんて、光栄です!!
さっくり殺っちゃってごめんなさい…m(_ _)m

この話のアナザーストーリー…
なんだか考えるのが楽しくなっちゃいますね!!!
(そして再び無謀な挑戦が始まる)
この話をめちゃくちゃHAPPYにしてくれる執筆者としては、
こめちゃん、つっきー、ふたば様、shibro様、ロビン様、修行者様、プラタナス様なんて、
とても素敵な作品にして下さるような気がしますよ!!(プレッシャー)

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ちいちゃん
完成したよおおおおお!!!!
もう書いてる時は、終わりが見えなくて匙を投げそうになったよおおおおお!!!!

人殺しはどんな理由があっても許されない禁忌。
それを善として犯した「雪」と「双葉」。
この人間の善悪を惑わすような終わり方が、うちのTRUE END!!
HAPPY ENDに出来る猛者…ふたば様に期待やで←

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アリー様
コメントありがとうございます!!
BAD END好きが他にもいて、とても嬉しいです…!!
長編を無謀にも書いた私ですが、お褒めの言葉を頂戴し、感涙の想いです…
褒められると伸びるタイプなんです←

約1ヵ月を経て完成したこのお話しを節目に、一時休業に入るのですが、アリー様の今まで読めなかったお話しをじっくり読ませて頂こうかと思います♬

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