中編3
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ふたつの出会い

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真夏の夜の中華屋で、何の流れか怪談噺。

同僚数人、戯れの語りに怖がるフリで笑い、閉店で解散。

浮かれ気分のAさんも独りの部屋に帰宅。

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歯を磨きつつ、誰かの語りを思い出す。

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「怪談をやると霊が集まって、その場の誰かに取り憑くらしい。

肩が重かったり具合が悪くなったらしばらくは、独りで鏡を見てはいけない。

自分の顔が他人に思えたり、何かが背後にいるはずだから」

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思い切って鏡に体の真正面を映してみる。

けれど洗面台の鏡に映るのはいつもの自分で、もちろん他に誰もいない。

とはいえ独り暮らしの身にはかなり不気味な話ではある。

誰があんな話をしたんだっけ。酔っていたせいか思い出せない。

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口をゆすぎながらまた不思議になる。

話だけはよく覚えているのに…

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鏡について語ったのは誰だっけ?

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不意に視界の端に赤いものが映り込み、

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shake

…バンッ…バンッ!

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と傍らの小窓を何かが叩いた。

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振り向くと窓に赤い手形が押しつけられていて、

磨りガラスが今にも割れそうだった。

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鍵は締めてある。

でも入って来るかも?

もう鏡も見ちゃいけない。

憑いて来てたんだ!

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寝室に逃げ込んでベッドに潜り込だAさんは、祖母に習ったことのある言葉を繰り返した。

南無……南無……

清らかなものには良い力が、悪いものには必ず天罰が下ると教えられた数文字のお念仏。

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何時間ほど唱えたか、ベランダあたりに雀のさえずり。

ようやく夜明けだ!

ため息を漏らすと耳元で、

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「そんなことしても帰らないよ」

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聞き覚えのある声だった。

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気絶から醒めると昼頃で、玄関のチャイムが鳴っていた。

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ドアを開けると刑事を名乗る男性。

彼の肩越しに見える路地にはパトカーが停まり、黄色いテープが張られていた。

昨夜この辺りで殺人事件があったが異変は無かったかとの聴取。

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心霊現象を語るわけにもいかず黙っていると、

刑事は「まだ気づいてないんですか?」と驚いて、

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「襲われた女性は、逃げながらあなたの部屋の窓を叩いて行ったんですよ」

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案内されてアパート裏手の藪に回り、洗面所の小窓に付着した両手の跡を確認。

壁にも点々と血痕が見受けられた。被害者は重傷のまま逃げ続けたが、すぐ近所の公園で犯人に捕まってしまったという。

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救おうとすれば救えたはず!

でも被害者はなぜ叫んで助けを呼ばなかったんだろう。

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……声を出せば見つかるほど近くに犯人が潜んでいたから。

じゃあ、もし女性に気づいて鍵を開けていたら?

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現場検証が済んで深い夜、寝室で独り考え込んでいたAさん。

この部屋へ救いを求めた女性については、やはり自分が何らかの供養をしてあげるべきかもしれない。

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洗面所に佇んで、警察によってすっかり掃除された小窓に向かい念仏を唱えた。

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南無…南無…

清らかなものには良い力が、悪いものには

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shake

「そんなことしても帰らないよ」

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聞き覚えのある声だった。

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咄嗟に鏡へ顔だけ向けると、

薄い影がぴったりと背中に張りついていた。

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