短編2
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逆さ爺

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「後ろ歩きダイエット」というダイエット法をご存知だろうか。

その名の通り後ろ向きに歩いて普段使わない筋肉を動かすことで筋肉中のブドウ糖を効率よく取り込むタンパク質が活発になり、ダイエット効果があると言われている。

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私の地元ではこの運動をしているご老人が多く、私は勝手にその人達を「逆さ爺」と呼んでいた。失礼極まりない渾名だが、別段悪気はなかった。

この渾名が悪かったのか、私は今までとは別の逆さ爺に出会ってしまう。

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ある飲み会の帰り道、恐らく時刻は1時過ぎぐらいだろうか。

帰り道をふらつきながら歩いていると、向こうから人が歩いてくるのが見えた。

この時間帯に人が歩いているのは珍しいことなので、ジロジロと見ているとその人物はどうやらサラリーマンらしくスーツを着ている。

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ただ不思議なことに顔が見えない。

顔の部分だけ真っ黒なのである。

酔っているせいなのかと目を何度もこすったがやはり見えない。

酔っ払ってテンションの高かった私は「真っ黒人間(?)だ!!」とウキウキしながらその人物と距離を縮めていった。

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あと7mほどですれ違う、という距離で私は気づいてしまった。

あれは別に顔が真っ黒な訳ではなく、顔があるべき場所に黒髪が生えているからである。

顔が毛だらけというわけではない、頭だけ逆向きになっているのだ。今見えているのはあのサラリーマンの後頭部だ。

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一気に酔いがさめた。

さっきまで真っ黒人間などといって喜んでいた人間がここで酔いがさめるのもおかしいだろと思われるかもしれないが、なんとも言えない気味悪さが全身を駆け巡った。

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どうしよう、このまま行くとすれ違う。

気づいていないフリしてすれ違うか。「気づいているんだろ」などと言われたらどうしよう。

なら今すぐ回れ右してダッシュで逃げるか。いや、今後ろ向くの怖いな、追いかけてきたら最悪だ、

などと考えている間にもう目の前に来ていた。

結局気づいていないフリをしてすれ違うことにした。

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すれ違う瞬間に話しかけられるのではとビクビクしながら横を通り過ぎたが何事もなかった。

何事も無かった安心感からかどんな顔なのか気になって、振り返った。

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30代半ばの男で、かなり疲れ切った表情で地面を見ていた。いや、疲れた顔をしているから老けて見えるのだろうか。彼はこちらを見ることなく普通に歩いていった。

怖かったのは頭が逆向き以外は本当に普通のサラリーマンなところだ。顔が恨めしそうな恐ろしい表情をしているわけでもなく、服が血だらけというわけでもない。ただ頭が逆向きなだけなのだ。

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この事があってからも深夜に帰ることが度々あったが、彼ともう会うことはなかった。

彼は何故頭が逆向きなんだろうか。

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