長編11
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香織の話③完

不快に思われる部分があると思いますのでそれでも良い方だけお読みください。

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 吉原から帰ると香織は何事もなかったかのように過ごしていました。私も精神的に疲れてしまい次の日メンタルクリニックの受診に行きました。

「こんにちわ。今日はいつもより日数が早いですがどうされましたか?」

医師(女性)は私の手首を触って、他に傷が増えていないか確かめながら問います。

(香織の事相談しよう...疲れちゃった...)

名前は出しませんでしたが香織の事について話しました。すると医師は

「それって...いえ、思い違いかもしれませんが過去に同じ様な事がありましてね?ここの患者様との事ではありませんか?」

ドキッとしました。同じ年頃の患者なんて他にも居る筈だからと。しかし医師は続けます

「喫煙所で声を掛けられて、とても依存されて自分のモノ扱いされたりご家族やご友人に暴力を振るわれたりしていませんか?」

私と同じだ...身震いしました。

「先生?その後その...された方の方はどうしましたか?どうなったんですか?」

多分私の声は震えていたと思います。

「依存が激しくなって付け回されて、最終的には暴行を加えられて引っ越しました。」

「え...そこまで...??」

「医者の私が他の患者様のお名前を出すのは本当にとても悪い事ですが、あなたの身が危険だと判断したのでお聞きします。〇〇さんではありませんか?」

香織だ...香織の苗字だ...

「...はい」

怖くなってしまい私は素直に白状致しました。

「〇〇さん、以前にも他のクリニックでその事件を起こしてこちらに転院されてきたんですけどね?あなたの前にも一度、ここで似たような事をしてしまったんです。」

どうしよう...でも香織は普段そんなことしないしお酒だって飲まなかったら怖くなんかない...

「でも!!今は...私は大丈夫です!」

この時過信さえしていなければ、辛い目に遭わずに済んだのかもしれません。

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それでも少し怖くなって香織と距離を置いてしまいました。

香織専用の携帯もあまり見なくなり、誘いがあっても仕事だから、忙しいから。

そう断るようにしていきました。

4日経って香織専用携帯をみると...新着メール89件...

ねぇさみしい、つらい。

会いたい

待ってるから

忙しいのはわかってるよでも返事して

ねえ無視?

嫌いになった?

私の事みてちゃんと分かってじゃないと死んじゃう

こんな内容ばかりでした。依存症ってこういう事なのか...

つい、明日なら少し空いてる。とメールを返してしまいました。すると直後にメールが入り、楽しみにしてる!と絵文字いっぱいのメールでした。

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約束して赴いたのは歌舞伎町のカラオケ店でした。店の前に行くと珍しく香織の姿が見えました。

「私より早く来るなんて珍しいやーん!」

「だって...だってハルが忙しいから寂しかった~ん!」

身体をくねらせオカマの真似事をする姿に笑い、何も怖い所なんてないじゃん!と思って安心している私がいました。

「ハルー!早くいこー!」

「うんうん!いっぱい歌おうね!」

受付を済ませようとすると何故か受付を素通りする香織。

「ここって受付必要よね??」

香織は満面の笑みでそのために早く来た!と言いました。

203号室、ここが私達の部屋か。にしても広そうだなぁ...香織は寛ぎたくて大きな部屋をとったのかな?と思いました。

しかし...ドアを開けるとそこには見知らぬ男性が一人...

「香織?部屋間違えた??」

「んーん!この人私の客!奢りだし好きにしていいよー!」

気が弱そうな男性はペコリと頭を下げるとすいません...とソファーの隅に寄って申し訳なさそうにしていました。

「ねぇ!いぐっちー!この子私の親友のハル!好きな物頼んで良いよね?ていうか...良いんだよね?」

「りくちゃんの好きにしていいよ...」

弱々しく消え入りそうな男性の返事に香織に振り回されてるのか...と思うといたたまれなくなり、私は梅昆布茶でいいや。と香織に言いました。(渋いって言わないでくださいねw)

その方はイグチと名乗り、4年前から香織の指名をしているお客様だと聞きました。香織に仲の良い友達ができるといつもこうなるのだとか...それでも香織が喜んでいるならそれで良いのだとも。なんて健気な方なのでしょう...

「ハル!!ハルってば!いぐっちなんかと話してないで歌ってよ!」

イグチさんとの会話を遮られ香織にいつもリクエストされる曲を歌う事になりました。

「やっぱりハルの声って私好きだな...落ち着くよ。」

私が歌っている間、香織はずっと画面から目を離さず頬杖をつきニコニコとしていました。

「あー!!!!」

突然香織が大きな声を出すので驚いてしまい、マイクを落としそうになりました。

「どしたん!ビックリしたやん!」

「酒!頼むの忘れてた!!」

酒、というワードで嫌な予感しかしないので今日はカラオケだけ楽しもうよ~!と言います。イグチさんも香織に何かされたのか、この時ばかりは後でね!好きな物食べさせてあげるからお酒は楽しみにとっておこう!と必死でした。

ぶーぶー言っていた香織でしたが、後で高級焼肉ね...と言い、桃ウーロン茶で我慢していました。イグチさんからは安堵の溜息...きっと怖かったのでしょう。

そうこうしているうちに3時間が経過し、カラオケ店から出ることになりました。

「いぐっち、払うでしょ?」

当たり前だ、という様に香織はイグチさんを睨みます。悪い気がしたので私も出すよ?と香織に言うと

「ねぇいぐっち?分かってる??休日の大事な時間使ったの。私。」

これじゃただの脅しじゃないか...と思っているとイグチさんは

「当たり前だよ!りくちゃんとハルさんに楽しませてもらったんだからね!」

嬉しそうにお会計に行きました。イグチさんは香織の事を大切に思ってくれているんだな...なんて思いつつ申し訳ないので丁寧にお礼を言うと、こちらこそありがとう。と優しく微笑んでくれました。

「ハル!今からいぐっちと焼肉行くけどどうする?」

「私はいいや。ダイエット中だからね(笑)」

酒の入った香織の姿を見るのが怖くて私だけ帰宅してしまいました。

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後日、香織からメールが来ました。

(ハルのお陰で生活費もゲットー!!)

そのために呼ばれたのかと思うと嫌になりました。

(私のお陰ってなに?しかも生活費貰ってるん?)

(だってー、いぐっち金あるし?オタクだからWW)

(働きなよ...そのお金だってイグチさんの財産でしょう?)

(くれるもんは貰う!ハルはそんな事しなくても仕事あっていいよね。生活苦とか知らないんでしょ?だったらケチつけんな。)

(分かった。でもちゃんとお礼言いなね。もう何も言わない。)

こんな事を言われると思っていませんでした。香織はどんどん悪い方へ向かっている気がして仕方がありません。

この後何日かは連絡も来ず、まぁ普通に生活しているのだろうと思っていましたが突然電話が来ました...

「もしもし。」

「ハル!!!!助けれ!!!!変な物がいう!!!!」

「変な物??」

「酒飲んれらら知らない人らいる!!!!!」

「香織、落ち着いて。薬飲んだ?」

「酒で飲んらー!!!どうしようこれ消えらい!!!身体痒い!!」

酒と安定剤の乱用によって幻覚が見えてるのだと思い

「ちょっと聞いて。今から水で顔洗って?氷水で。」

「うんうん分かっら!!待っれれ!!」

受話器の向こうからはガシャガシャバシャバシャ聞こえます。数分待っていると

「あれ?消えた。いらい...(いない)」

「はぁ...香織さ、怖い物見たくなかったら薬を酒で飲むのは止めなさいよ。」

「それで見えなくなるお?」

「なるなる。だから本当に止めて。危ないし。心配して言ってるんやからね?」

「うん...居なくなるなあ止めう。」

少し沈黙が続き、香織は水飲んでくる!と言うとバタンバタンと大きな音を立てて戻って来たようでした。

「あ゛~落ち着いた。」

「おいちゃんみたいな声止めい!」

「ちょー怖かったんだって!」

「そりゃそうでしょうよ...なんで飲んだの?」

「結婚の話が出てさ...私なんかでもお嫁さんになれるのか不安で...」

少し早いマリッジブルーなのかな?と思いまさ君も香織を受け入れていく決心が付いたのかと思うとほんのちょっぴり安心しました。

「結婚の事だったら聞くからさ、話しなよ。そこは私のが先輩やでぇ...」

おどけて言うと香織も笑いながら

「んじゃさ!聞いて欲しいから今度の金曜日にでもまたカラオケ行こうよ!」

「はいよー。」

今日はここで話が終わりました。

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約束の金曜日、呼び出されたカラオケ店は池袋でした。

「やっふい!」

「驚かすなやー!」

この前の電話と違い、香織は元気そのものだったので安心しました。そして受付に行くと香織は3人でー!喫煙!と言います。

「3人?まさ君でもくるん?」

「いんやー?いぐっち!」

「また出してもらうの?」

「だって来たいって言うから~。」

悪びれもなく香織は受付を済まし部屋に向かいます。来たいと言うなら良いけど、香織の結婚話聞いて辛くないんかな...?と考えていると

「ハル!あれ歌って!いつもの!」

「おいおい...話は?それによく飽きないね。」

すでに香織の手によって曲が入れられてしまった為歌いました。歌い終えると相談が始まります。イグチさんはまだ来ていません。

「私さ、結婚するならまさ連れて青森帰んなきゃなんだよね。それでハルと別れると思うと悲しくなっちゃって...」

「でもいい事だよ。香織だって若いうちに結婚してさ、子供産んでさ、親孝行できるやん。」

「ハルは...ハルは私と別れて辛くないの?悲しくないの?」

「寂しいけど...香織が幸せになるなら良い事だし送り出してあげたいと思ってるよ?」

沈黙...

「嘘つき...」ボソっと香織が言いました。

「え?なんて?」聞き返すと...

shake

「嘘ついてんじゃねーよ!!!!どうせ私が迷惑なんだろ!?分かってんだよ!!」

「思ってないって!」言っても聞き入れて貰えません。

「幸せそうにしやがって!ハルは何でもうまくやって!!!!私なんかお飾りなんだろ!?幸せ見せつけたいだけなんだよなぁ!?」

そう言うと香織が私に手を伸ばし髪の毛をガッ!!!!っと捕まれました。

shake

「痛い!!!!!!!!!!!」

叫ぶと同時に地面へと押し倒され後頭部を打ちました...香織の目を見ると据わっています。

「いつもいつもみーーーんな私の事馬鹿にして!!!!ハルだって汚いと思ってんだろ!?風俗で働く私の事可哀想ってな!!!!」

髪の毛のあとは首を絞められ足をジタバタとさせましたが一向に退く気配がありません。

(イグチさん早く助けて...)

「わ...私は!そんな風に...偏見な...いし!だから...かっ...香織とっ...居られた!!」

殺されると思いながらも本音をぶつけました。すると香織が泣き始め

「私のものにならなかった...悔しかった...辛かった...離れたくないんだよ...」

首への力が緩んだのを感じ力一杯に香織を突き飛ばすと急いでバッグを持って部屋から出て、受付まで走りました。

「待てよこらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」

香織が追ってきます

「もういい加減にして!!!!!!!!!!!」

香織が足にしがみついてきたので捕まったら殺される!!という危機感から香織を思いっきり蹴ってしまいました。

「もう嫌だよ!!こんな香織友達じゃないよ!前の香織はどこいっちゃったの!!」

受付に店員さんが来た安心感から子供のようにへたり込み泣いてしまい、そこへイグチさんも現れ状況が読めずにアタフタしていました。

香織は私を慰めようと肩をポンポンと叩くと

「また仲良くしよう?ね?もう痛い事しないから...ね?」

と優しく声を掛けてきましたが

「触んなや!!!!!!!!!!!」と私は香織をまたも突き飛ばしてしまいました。

「お前なんか...お前みたいな女なんか一生友達できねぇからな!!呪ってやる!!」

香織は怒鳴っていましたが店員さんに抑えつけられていましたので何もしてはきません。

イグチさんは状況が読めたのか、私に一万円を渡すと

「これで帰って、今すぐ。逃げて。それで着信拒否して。後は僕がなんとかするから...」

と言い店員さんに謝ると部屋へ入って行きました。きっと彼はこのような状況に何度か立ち会っているのだと思います...

傷だらけになりながらタクシーを拾いイグチさんのご厚意に甘え帰宅すると、旦那がお風呂から出てきたところでした。

「どげんしたん!?」嫁が傷だらけで泣きながら帰ってくるという事に驚いたのでしょう。焦って私をお姫様抱っこして脱衣所へと連れて行きました。そしてゆっくりシャワーでも浴びて後で話を聞くから。ちゃんと風呂場の前に居るから。と言い後ろを向いていてくれました。その優しさが嬉しくて泣きながらシャワーを浴び、心を落ち着かせると旦那が用意したであろう新しいルームウェアに着替え、終わったよ。と言うと何も言わず手を引きリビングへ連れて行ってくれました。そうして先程の出来事を全て話すと

「だから深く関わるなっち言ったやろうが...」

と溜息。

「でも...こうやって傷はできたばってちゃんと帰ってきてくれてよかった。」

と言い抱きしめて頭を撫でてくれました。もう泣くまい...そう誓ったのですが、やはり怖かったせいか一粒だけポロリ...と涙がこぼれてしまいました。

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あれから私も病院を変え、落ち着きを取り戻し香織との事は終わったのだ...と安心しきっていました。まさ君経由で携帯も返し、今までかかったであろう携帯料金も一緒に...

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その日は軽く打ち合わせがあり早く帰宅することができたので家の事でもするか!と張り切っていたのですが...まさ君からの電話が鳴りました。嫌な予感しかしません。でもまさ君にも何かあったとしたら...と思うと電話を取りました。

「......」

「もしもし...ハルさんのお電話で間違いないでしょうか?」

まさ君は泣いていました。

「そうだけど...どうしたん??」

堰を切ったように話し始めます。

「香織が!!香織が!!あ...うあああ...」

「泣いてたら分からんめえもん!!」

「ぐっ...3ヶ月分...3か月分の...」

「なに!?」

「安定剤と酒をっ...ウイスキーと焼酎の瓶全部飲みました!!助けてください!!目を離した隙に飲んでて!!」

「それは私じゃなくて救急車!!今すぐ!!」

「分かりました!!」

オーバードーズ...現在出されている薬では死ねないとは医師からも学生時代にも聞かされていましたが、それでも心配でした。もう友達じゃないとしても。

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次の日の昼前だったと思います。再びまさ君からの着信でした。

「もしもし!香織は!?」

「あの...香織の祖母の〇美と申します。」

(この先は訛りと方言であるため標準語に変えておきます)

「初めまして、香織さんの知り合いの〇〇と申します。」

「この度は香織が...香織が本当にご迷惑をお掛けして...申し訳ございません...まささんからも色々聞いて...酷い目に遭ったでしょう...」

「もう過去の事ですから...」

「香織は...あいつはキツネに持ってかれちまったんです。あんな子じゃあなかった...」

「そうですか...」

香織のご家族が到着した後、香織は訳の分からない事を叫んで喚いてその後意識を手放したそうです。そしてずっとずっと意識が戻らないそうで、そのまま青森にある実家へまさ君と一緒に連れ帰ったそうです。

例えあんな喧嘩別れをしたとしても、とても悲しくなり旦那が帰ってくるまで大泣きしてしまいました。私が酷い事を言ったからではないのか?とかちゃんと話せばこんな事には...と思いながら...

終。

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