長編11
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マスカットの惨劇

探偵学校を出て三年、やっと手に入れた事務所…。

今は亡き両親には多くの苦労をかけてしまったと、

二人の写真を撫でながら、デスクに戻した。

まだ、事務所には誰も雇ってはいない。

秘書とか欲しいな、と思ったり思わなかったり。

さっき淹れたはずの珈琲も気づけば冷たくなっていた。

冷たくなった珈琲を一息で飲み干して、新聞を読もうとした時。

ドンドンドンドン、とドアをノックする音が聞こえた。

うるせぇ、サラ金に手を出した覚えはねぇぞ!と思ってドアを開けたら。

如月紅葉だった…サラ金より面倒だな。

紅葉は大学のサークルの後輩なのだけど何故か俺に付きまとう。

「伊丹先輩、やっと事務所を構えられたんですね!」

自己紹介を忘れていたが、俺は伊丹浩一。普通の探偵だ。

「用事がないなら帰れよ」と言った。

ここのところ色々忙しくて俺は気が短かくなっていた。

「可愛い後輩が遊びに来たんですよ?そんな邪険に扱うなんて酷くないですか?」

何が可愛い後輩だよふざけんじゃねぇ。

「あっ、珈琲美味しそうですね。淹れてくださいよ!」と紅葉は言った。

何か腹が立ったので、熱々の珈琲を淹れてやることにした。

「ほらよ」と珈琲の入ったマグカップを渡してやった。

紅葉は嬉しそうに、熱々の珈琲を飲んだ。猫舌のくせに。

「熱っ…私が熱いの苦手だって知ってるくせに…」と紅葉は言った。

すまない紅葉、騙して覚えはないぜ。

「珈琲は熱いのが一番だよ」と俺はうそぶいた。

「そんな先輩に良いお知らせです」と紅葉は鞄から書類を取り出した。

「両親の知り合いの神主さんが、境内の木に何者かが藁人形を打ち付けてて

気味が悪くて助けて欲しいっていう依頼なんですけど、やります?」

と紅葉は満面の笑みで言ってきた。俺が幽霊とか苦手なの知っててこの話を振りやがったな。

そういえば紅葉は実家が神社だったっけ。

まぁ、他に仕事もないし報酬も良かったので引き受けた。

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その日は、紅葉が帰った後、その地方の歴史について調べた。

神社だってそれほど有名でも無い、本当に田舎だった。

特産品が弓とかどういうことだよ…と心中突っ込んだ。

その他には緑が綺麗だということと温泉がある位で何も無い村だった。

ここから自動車で9時間…。

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俺は免許は持っているが車はないので、紅葉が運転する車に乗った。

列車は1日に3本しか通らないということと、町は広いから移動の為に車が良いと言うことで

車となったのだ。まぁ実際は名物の蕎麦が食べたいという紅葉のわがままなのだが。

パーキングエリアで腹ごしらえをした。高速道路を降りて山道を通って、

何回か迷った。晩飯はコンビニ弁当とショボい物になったが、まぁ仕方ない。

コンビニで紅葉が「眠たいから、運転よろしく!」

と言って後部座席で毛布にくるまって寝てしまった。

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何が悲しくてコイツの車を運転しなければならないのだろうか?

後ろで無防備に寝ている後輩の寝顔を見ながら気楽そうで良いなと思った。

そんなこんなで5時間運転した。紅葉が運転に変わってから30分位で現地についてしまったようだ。

2階建ての歴史ある民宿である『緑葉』に着くとまだ寝たい俺を励ましながら紅葉は手続きをした。

「先輩、部屋代高いから一緒で良いよね?」と紅葉は聞いてきた。

「お前が嫌じゃなければ構わないけど?」そう言った後少し疲れた俺はソファーで

ぐったりしていた。そこに従業員なのかわからないけど50歳位の和服を着た女性やって来て、

俺に、「はい、飴玉ですよ。」と何故か飴をくれた。

『田舎の人は優しいな。』と思った。「ありがとうございます」と俺は女の人に言った。

女性はペコリと頭を下げると長い廊下に消えていった。

今は舐める気になれなかったのでズボンのポケットにしまった。

紅葉が「知り合い?」って聞いてきたけど、全く心当たりが無かったので

「いや、知らない人だ。」と言った。

「それより、宿泊客は何組くらいだ?」となんとなく聞いてみた。

「私たちの他に二組ですけど何か?」と答えが帰って来た。

「いや、なんとなく聞いてみただけだ。」と俺は答えた。

107号室に入ると広い和室だった。畳に寝転がると俺は布団も敷いていないのに寝てしまっていた。

眠りから覚めたらもう午後6時になっていた。朝飯も昼飯も食べそこなってしまった…。

メールを確認すると、紅葉は食堂にいるらしい。

食堂に着いた俺は紅葉のいるテーブルに着いた。

牛丼を俺は注文した後、スケジュールについて紅葉と話した。

どうやら、明日から仕事らしい。

明日の10時に依頼人との打ち合わせ終えたら観光をする予定になっていた。

なぜなら女は丑三つ時に現れるからだ。

数分後、注文した牛丼が来た。

紅葉はそれ以前に山菜定食を頼んだらしく。

「なんで先輩が先なんですか?」と俺に言ってきた。

そこは店の都合だろうと思いつつも可哀想だったので待ってやることにした。

その10分後位に山菜定食は来た。

食べ終わった後、紅葉は「温泉行きましょうよ」と言ってきた。

…確かここって混浴だよね?俺は嫌だよ。と言いそうになったけど。

「俺は、温泉は好きじゃない」と言った。紅葉は2、3分いたけど。諦めて1人で寂しげに温泉に行った。

30分後紅葉は牛乳瓶片手に戻ってきた。「温泉には牛乳ですよねー」と言ってきたので適当に合わせた。

そして「ちょっと用事がある」と言って俺は部屋を後にした。

実は俺は温泉マニアで草津温泉や有馬温泉などの有名な温泉に何度も行ったことがある。

ここの温泉だってマニアの中では有名な温泉だが紅葉と一緒に入る気にはなれなかったので

今から入るつもりで長い廊下を進んだ。途中で、あの女性とすれ違ったが今度は何も言われなかった。

誰もいなかったので40分くらい貸切状態を満喫した。途中、大勢の宿泊客とすれ違った。

何か違和感があったけど気にしないで俺は部屋に戻った。

紅葉は「先輩…どこ行ってきたんですか?」と怒った様子で聞いてきた。

俺は「温泉に言ってきた。」と躊躇いながらも答えた。

すると紅葉は「私の事が嫌いなんですか?」と涙声で聞いてきた。

事実、彼女の頬は涙に濡れていた。

俺は紅葉に対して酷い扱いをしてきてしまったと反省した。

「すまない…紅葉。」と謝った。紅葉はニヤリと笑って

「だったらその誠意を行動に現して下さい。」と俺に抱きついてきた。

引っ掛けられてしまった。と思いつつも彼女の髪を撫でた。

まだ、夜は長い。

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朝起きて、10時に依頼人である神主の山田の家で打ち合わせをした。

書類どうり捕まえようにも現場からはいつも逃げられてしまっていて、

男か女かすらわからないそうだ。

という事で監視カメラを取り付けることにした。

第1監視カメラ 山林の入り口

第2監視カメラ 木まで200メートル地点

第3監視カメラ 木まで100メール地点

第4監視カメラ 現場の監視カメラ

第5監視カメラ 山田の家まで300メートル地点

第6監視カメラ 山田の家まで200メートル地点

第7監視カメラ 山田の家まで100メートル地点

の7台で監視することになった。この監視カメラは山田の家のテレビに繋がっている。

山田の家を出た俺たちは川で釣りをした。

郷土資料館で弓を見たり、お土産屋さんで買い物もした。

二人で温泉にも入った。牛乳で乾杯もした。

食堂は沢山の客で溢れていた。俺は天丼を、紅葉は焼肉定食を注文した。

食べ終わった後、食堂を出た。

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1時47分 紅葉の運転する車で山田の家に到着。

1時49分 第1監視カメラ 白装束の女が映る

1時52分 第2監視カメラ 白装束の女が映る

1時55分 第3監視カメラ 白装束の女が映る

1時59分 第4監視カメラ 白装束の女が映る

2時00分 第4監視カメラ 白装束の女が藁人形を打ち付ける。

2時03分 第4監視カメラ

突如として監視カメラを見つけた女は俺たちの方に指を指した。

そうしてから監視カメラを金槌で思いっきり叩いて破壊した。

山田の「私の5万円が…」に笑いそうになったが恐怖が勝った。

身の危険を感じた俺たちは警察を呼んだ。

2時06分 第5監視カメラ

走る白装束の女が映る、次はお前だと言わんばかりに監視カメラを破壊。

山田の車はなかったし、紅葉の車は何故かエンジンがかからなかった。

2時09分 第6監視カメラ

走る白装束の女が映る、またもや監視カメラを壊しやがった。まだ警察は来ないようだ。

2時13分 第7監視カメラ

走る白装束の女が映る、やっぱり監視カメラを壊した。

20万円の損害だねぇ山田さんと思いつつも、バリケードを作ったり。

戸締まりをしっかりとした。ただ、それらは無意味だった。

2階の奥の部屋で3人、息を殺して隠れていた

白装束の女は「出てこい」と男のような声で叫んだ。

出てくるもんか馬鹿野郎と心のうちで毒づいた。

そのうちにパリンと窓ガラスが割れる音がした。

1階に奴が入ってきたようだ。

皿の割れる音や、何かが折れる音が聞こえてきた。

1階に誰もいないことがわかったのか2階に昇ってきた。

一つ一つの部屋を確認した女は俺たちのいる部屋に向かってきた。

ガチャガチャとノブを回しているが、ドアの前にはソファーや

机などで開かないようにしていた。

ドン、ドン、ドンとドアを金槌で壊そうとしている。

壊れるのも時間の問題と思い窓から意を決して飛び降りることにした。

まず俺が飛び降りた。まだドアは破られていない。

紅葉が飛び降りた。我ながらナイスキャッチ。

とうとうドアは破られた。山田が一向に来ない。

「うわ…止めてくれ…誰か…助けてくれぇ」という山田の叫び声が聞こえたが

助けることはできなかった。その声が聞こえた後グチャッという嫌な音が聞こえた。

必死に俺たちは駐在所に向かって走った。

駐在所の警官によると大した問題ではないと通報を黙殺したらしい。

確かに自分達の話は普通の人が聞けば異常であろう。

駐在の警官二人を連れて山田の家に向かった。

縁側の窓ガラスを割って入ってきたようだ。

そこから和室に入り襖を壊したり、台所の皿を何枚も叩き割ったようだ。

2階の様子もまぁだいたいそんな感じだったが、唯一違うのは

血に溺れるように突っ伏した山田の死体が奥の部屋に転がっているくらいだ。

紅葉は泣いていた。俺は手を握ることしかできなかった。

気づけば警官は県警に応援を要請していた。

俺たちは駐在所で警官から話を聞かれたが

壊れた監視カメラのメモリから白装束の女の存在は立証されたので

俺たちは犯人扱いされず、逆に「大変だったね」と声をかけられた。

話を終えた俺たちは民宿に戻った。部屋一面が荒らされていた。

紅葉は「フロントに行ってきます。」と言っていなくなった。

白装束の女をどこかで見たような気がした。たしか…

「きゃー」と紅葉の悲鳴が聞こえた。

フロントに向かうと和服の女が紅葉に対して金槌を振り回していた。

飴玉をくれたあの女だ…。沢山の客が遠巻きに見ている。

ついに紅葉の頭に金槌が当たった。ゴンっという音と共に紅葉は倒れた。

俺は勇気を出して女に体当たりをした。女がよろけた隙に民宿を倒れた紅葉を背負って逃げた。

急いで診療所に行くと、軽い脳震盪と診断された。

病室で紅葉を休ませて、警察に連絡をした。すると、護衛に3人送ってくれるそうだ。

病室を出て近くの自販機で飲み物を買った。

病室に戻ると3人の護衛の刑事が椅子を並べて病室前に陣取っていた。

俺は気にせず、病室に入って紅葉の意識が回復するのを待っていた。

何時間経っただろうか?紅葉の意識が回復した。俺は嬉しかった。

「調子はどうだ?」と聞けば、「頭がガンガンする」と答えた。

「無理もない、頭を金槌で叩かれたんだからな」と笑って返した。

トントンとドアをノックする音が聞こえた。

医者か看護師かと思って「どうぞ」と言ったら、

開いたドアには和服の女が立っていた。

何か女からは腐った臭いがした。気のせいかな?と思いつつも、

紅葉の手を取って窓から逃げた。

今回は1階なので命の危険も怪我する恐れもなかったが、一体どうやって入ってきたのだろうと思った。

駐在所に駆け込むと、4人刑事がいた。そこへ和服の女がやって来た。

近づいた刑事が殴り殺された。説得はできなさそうだと思った刑事が

和服の女を撃ってしまった。けど何故か女は動いていた。今度は撃った刑事を殴り殺した。

残った刑事は、「ここは食い止めるから逃げろ」と言った。

後ろを振り返らず郷土資料館に走って向かった。

紅葉が転んだ。足首を怪我したらしい。「私に構わず先輩は先に行って…」と言った。

紅葉を殺させる訳にはいかないので背負って走った。

郷土資料館にたどり着いた俺たちは驚く学芸員と館長を横目に走った。

あちこちで悲鳴が聞こえた。申し訳ないが奴を倒すためにはこれしかないと弓に向かって走った。

高校の頃は弓道部の主将だったから自信はある。

紅葉からお札を預かると矢に縛り付けて、和服の女の頭にめがけて矢を放った。見事に命中した。

ギャーという叫び声が聞こえたが後、女は動かなくなった。

それどころから皮膚は溶け肉も溶け骨しか残らなかった。警察の検証と証言から俺たちは無罪放免となった。

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『人を呪ってはいけない』という法律は無いが、呪い方には決まりがある。

藁人形を打ち付けているときに人にその姿を見られてはいけない。というのは、

呪う側の命を禍々しい者が奪いその呪いを見た者を殺すための生ける屍として

周囲に危害を加えるからではないかと、俺は推測している。

家宅捜索の結果、和服の女は民宿の女将さんに逆怨みしていたらしく

人を呪う方法等をインターネットで調べたり、そう言った書籍を集めていたらしい。

紅葉の車は『何故か』ではなく燃料切れで動けなかったらしい。

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帰りの車では紅葉に「帰ったら、俺の事務所で働くか?」と聞いた。

すると「喜んで働かせてもらいます。」と笑顔で答えた。

それから「先輩、大好きですよ。」と紅葉は俺に言った。

大学の時ずっと付きまとっていたのは俺のことが好きだったからという。

こうして大学時代の謎は簡単に解けた。

「アッ…そういえば蕎麦を食べていなかった。」と紅葉は叫んだ。

俺は、そんな紅葉が大好きだ。

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帰ってから、事務所兼自宅である我が家に戻った。

早速、荷物をほどいてYシャツやパンツを洗濯機に突っ込む。

ズボンのポケットの中身を確認すると飴玉が出てきた。

包み紙を取って舐めてみるとマスカット味だった。

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こんばんは。
これはシリーズになる予感...
楽しみにしています( *´ω`* )!

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