中編4
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地図に ”無い” 村

仕事の関係で、車で隣の○県まで行った時の事です。

その帰り道。なるべく早く家に着きたかった私は、ナビを参考に、できる限り近道を選んで車を走らせていると、見た事の無い山道に差し掛かりました。

知らない道を…特に山道を走る事に戸惑いを感じてましたが、ここまで来たら引き返せません。

陽が降りる前に山道を抜けようと、私は車を走らせました。

ちょうど、私の住む県と○県の境のあたりでしょうか。

暫く山道を走っていると、幾つかの木造の家屋が見えてきました。

どうやら、小さな田舎の村のようです。

こんな所に人里があったとは…。

しかし妙な事に、ナビには村の名前の表示はありません。

奇妙だと思いながらも、私はナビに従い、村を抜けようと車を走らせます。

田畑と草木に囲まれた長閑な景色が続いていた、

その時です。

私の目に、奇妙な光景が映りました。

畑の真ん中に、一人の男性がいました。

この村で、初めて会う村人です。

その格好は、農家の人らしく畑作業着で頭には手拭いを巻いた畑仕事姿なのですが…、

…その”姿勢”が、普通ではありませんでした。

団子虫の様に地面に頭と膝を着いて丸くなったまま、頭の上で掌を組んでいるのです。

体を折り曲げて丸くなったまま、その姿勢のままで手を合わせた格好と言えばいいのでしょうか。

とても人間が長くその姿勢でいられるとは思えない様な体勢です。

しかし、その体勢は、そう、なんて言うか、”何かに祈りを捧げている”か、又は、”謝っている”ような姿でした。

そしてよく見ると、その男性以外にも、同じ様に地面に蹲って頭の上で両手を組んでいる人が、村のそこかしこにいるのです。

畑仕事の最中に鍬を放り出したまま、

庭で洗濯物を干している最中に、

背中に荷物を抱えたままで、

何人もの村人が、祈りの姿勢のまま、時が止まったかのようにピクリとも動きません。

とにかく村を抜けようと私は車を進めました。

ふと、視界に入ったものがありました。

石造りのお地蔵様です。

近くにお堂もあります。

しかし奇妙な事に、お地蔵様の頭は無残に破壊されており、地面にその欠片が散らかっているのです。

同様に、お堂も無残に破壊されていました。

先程の村人といい、破壊された地蔵といい、一体この村はどうなっているのでしょう。

ひらけた場所に出ました。

私はそこで、さらに驚くべき光景を目にしたのです。

その場所は、村で祭事を行う広場なのでしょうか。

その広場で、何人もの人が、老若男女問わず…、

恐らく村中の人間が、例の団子虫のような姿勢で祈りを捧げているのです。

皆、ピクリとも動きません。

その時、私は気付きました。

彼らは皆、同じ方向に向かって蹲って…祈っているのです。

私は車を止め、彼らが祈りを捧げる方向に目を向けました。

「ひっ!」

私の視界の先には、巨大な如来像が建っていました。

なぜ今まで気づかなかったのでしょうか?

村の家屋など比べようがない程に巨大で、何十メートルあるのか把握すらできません。

しかも如来像というには、その姿はあまりに不気味で、ぶくぶくと太り歪んだ笑顔を浮かべた、まるで醜悪な雨蛙を連想させるようでした。

その異様な光景に恐怖を抱き、私は急ぎ車を走らせ続け、山を降りました。

どこをどう走ったか覚えていませんが、私はなんとか見覚えのある県道に辿り着きました。

あの村は、一体なんだったのでしょうか。

ナビで村の位置を検索しましたが、やはり名前は出てきません。

地図に名が乗らない村。

奇妙な格好で祈りを捧げ続ける村人。

無残に破壊された仏閣。

巨大で不気味な如来像。

まるで解りません。

数日後の事です。

大きな地震が起きました。

震度六強はあろうかという、巨大な地震です。

震源地は…〇県境の山中。

それは、私が立ち入った例の村のある辺りでした。

震源地に人がいたとすれば、先ず無事ではないでしょう。

ニュースによると、『大きな地殻変動の前触れ』との事です。

これからきっと、何か大きな、そして凄く怖い事が起きる。

そんな不安を、私は感じました。

ふと、考える事があります。

…あの村の名前が地図にない理由。

それは、地図に名前が無いのではなく、

″地図から消された″からなのではないか?

誰が?

何の為に?

いずれにしろ、あの村は、もう存在していないのです。

彼らは一体、何に祈っていたのでしょうか?

彼らは、どうなったのでしょうか?

そして、これから一体、何が起きるのでしょうか?

一つだけ言えるのは、

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あ れ は 絶 対 に 仏 で は あ り ま せ ん 。

Concrete
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