中編3
  • 表示切替
  • 使い方

しかんぼう・しかんや

前の晩はcharaを聴いた。

早く目が覚め、覚醒したような、朝の空に違和感と心地良さを感じていた。懐かしさか、親しみか。煙の吸いすぎか。どうでもいい。先月の女を思い出していた。自分を俯瞰すると、今夜もシラフじゃいられねえ、そう思えたから、四つん這いになって新しいヤツを一発尻に打った。

なんでもいいなあ、と思った、それから中央線に乗って、井の頭公園で昼まで眠った。井の頭公園のキチガイはバラバラ殺人をお見事、遂行したアメリカ人ではなく、桜見の最中にさらわれ鯉にされた日本人たちでなく、否、そうかい、その数名の日本人たちが俺の朝を奪ったのか。或いは。

たまに俺は優しすぎるところが裏目に出る。悪いやつらのせい。悪いやつらの。悪いやつらの。俺は優しすぎるところが裏目に出る。

タクシードライバーが公衆の前で血反吐。お前にとって、俺にとって、あんたはあたいは。何者か。

ところであんたはどうして目が黄色く、黄色く、黄色く混濁してるんだい。それでいて、俺はどうしてこんなに落ち着いていられるんだい。

お前は誰だい。俺かい。違うかい。

なあ、サキ。疲れた俺を占ってくれ。なあ、お前、俺に嘘をついたのか。なあ、サキ。また?また?

今度から都度払いでやるよ。なあ、サキ。

約束するよ。

俺のこと、お前は忘れたかい。

たーのーか。

なあサキ、俺は病気なのかい。サキ。

俺はお前と同じ病かい。サキ。サキ。

中央線でもまた眠って、立川で降りた。伊勢丹で四万のマフラーを買って、なあ、自分の首に巻いたよ。そいつは、あっという間に。俺の首に巻きついて、ああ、そして俺は、ついに俺は、街角で、一頭の鹿を見たよ。

黙ってくれ。鹿はそう言う。言ったそばから目を真っ赤にして、あっという間に、ギター弾きが抱きしめるガキになって。俺の母親もその子を抱いて、いい子だねえ。母親はその子に向かって、私の子。私の子。鹿の顔した赤ん坊の頭を撫でた。

私の子よ。

俺は高架下で、鹿の角を頭に着けた、ルーチンに付いて歩く。子鹿。俺はその鹿を抱き上げてやる。

やあ、またお前か。

だけど知ってるかい。あの後虹が出て、俺たちは虹を一緒に見ていた。お願いします。この鹿を殺さないで。

どうして俺はこうなった。或いは一年後。三年前。

アナーキストのキャンディー屋は十年、二十年と続いたのに、俺は冷たい腹から、どぶネズミを何匹も生んで、ベッドから力の抜けた女のように立ちあがって、玄関の鉄製のノブを押して扉を開けようとした。俺は扉を押したのにノブが俺の方に、手前に抜けた。ノブ。

結局俺は歯のない戦士、玄関の扉すら開けられず、片手のノブを天高く電球にかざし、うすら笑いで見守る人たちの微妙な声援を受けて、振り返り、勢いよくジャンプ、真っ赤なプールの底にゴツン、頭が割れて、脳みそがちょいと出た。

ヤッてるから痛くない。んなわけあるか、馬鹿野朗。

脳みそがこぼれないよう、頭に空いた穴を押さえて、歯をギシギシさせながら天秤の皿の上に乗った。

皿の上で頭に手を突っ込み、脳みそを引っ張り出すと、鹿が迎えに来てくれた。ああ、あいつだ。もう大人になったんだなあ。立派だなあ。ありがとう。ありがとう。

俺はこの鹿のアナルなら身体ごと入り込めるんじゃないかと思った。

Concrete
コメント怖い
00
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ