中編4
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あの頃の友達

 お盆も過ぎて、そろそろ秋の気配かと思っていたら、連日の雨、雨、雨、雨でまるで梅雨時に戻ってしまったかのようだ。

気が滅入る。

最近の季節は変だ。

地球の回転がおかしくなってしまったのかもしれない。

開け放した窓からは湿った風しか入ってこない。

セミだけは正直に夏の終わりを騒いでいる。

・・

 誰もいない部屋に一人いると、遠い昔の夏を思い出す。

遠い故郷。今は廃墟と化した北国の炭鉱町。二度と帰ることのない故郷。

・・

 しかし今は便利になったもので、ノートパソコンがテーブルに一台あるだけで観たいものが簡単に観ることができる。

たとえば、幼い頃に過ごした炭鉱の町。あの頃のワードを入力すれば、関連した画像や動画が次々とパソコン画面に出現する。

投稿者に感謝しつつあの頃の思い出にひたり、懐かしむ事がいつしか私のお盆の過ごし方になってしまった。

・・

 「廃墟」で検索すると、なぜかパソコンの画面には、小学3年生の頃に仲良かったよし子ちゃんの家が出てくる。彼女の家には、よく遊びに行ったものだ。

鉄筋コンクリートの4階建ての風呂付き職員住宅。

コンクリート住宅をとり壊すお金もない程に町は寂れ、そのままになっているのだろう。

たくさんひび割れの入った灰色の建物には植物のツタや葉っぱが上部まで絡みつき、廃墟に拍車をかけている。

あの左端の4階の窓がよし子ちゃんの部屋だった。

よし子ちゃんの部屋にはオルガンがあり、よし子ちゃんは上手に弾きながら

私の知らない歌をいっぱい歌ってくれたっけ。

楽しかった。

学校の先生の娘だったよし子ちゃんは勉強もよくできた。

私のテストの点数は、いつもよし子ちゃんには負けていた。

でも、仕方ないと思っていた。

だってよし子ちゃんは先生の子供だし、あんなお風呂の付いた立派なおうちに住んでいるんだもの。私はどんなに頑張ったって、お父さんは炭鉱夫。爆発でいつか死んじゃうし。

仕方ない。仕方ない。と思っていた。

ある日、どうしてもよし子ちゃんに負けたくない日があった。

学級委員長と副委員長を選ぶ日だった。

学級委員長は男子で副は女子一名と決められていた。男子はクラス全員一致で、勉強も運動も優れ、しかも顔やスタイルもナンバーワンで文句なしの対馬君が当然のごとく選ばれた。

女子はよし子ちゃんと、この私が候補にあがり、二人のうちの一人が副になる選挙が行われた。

私はハンサムな対馬君にずっと憧れていたし、彼の隣の席に座りたかった。ただそれだけだった。

多分きっと、よし子ちゃんが副委員長になるに決まっていると諦めていた。

でも結果は違って、投票数でこの私が勝ってしまった。

私は憧れの対馬君の隣の席に座ることができ、ドキドキと胸が波打った。

よし子ちゃんを見ると、胸の辺りまで届く長い三つ編みのおさげ髪をいじりながら、なぜかニコニコと笑っていた。

 そんな昔の出来ごとを思い出しながら、パソコンの画面を覗き込んでいると、先程まで誰もいなかった4階の窓に女の子が写りこんでいた。

三つ編みおさげ髪の白い顔をした女の子。記臆の彼方にあるあの面影は確かによし子ちゃんだった。

ニコニコ笑いながらこちらを見ている。口がわずかに動いている。

その動きをたどると、確かに「あそぼうね」と言っている。

私は一瞬驚いたが、近頃進んできた白内障のせいだと思い、画面を閉じた。

眼の疲れに違いないと、ふーっとため息をつく。

 次に私が選んだのは30年ほど前に廃校になった木造の小学校の動画だった。

懐かしさがこみ上げる。運動会の練習風景を撮したものだった。

昭和時代の子供たちの、なんて無邪気で素朴なことか……。

しかしそこにもよし子ちゃんがいた。

小さな旗を持って、カメラ目線でこちらを見ながら手を振っている。

そしてやっぱり、「あそぼうね」と口が動いていた。

私はのけぞり、画面を閉じた。

 「やめよう」夏だし、私は今すごく疲れているのかもしれない。強制的にそう思うようにしながらも私の手は、自身の意思とは関係なく勝手に動き出し、止められなかった。

次にひらいたのは、グー○ルアー○。住所を入力すると、その近辺の様子がリアルに映し出されるアレだ。

なぜそんなサイトにたどり着いたのかわからぬまま、検索していたのは今、私が住んでいる家の住所だった。

程なく私の家が映し出される。

静止画像だった。

アップされた月も掲載されている。今年の5月に撮られたものらしい。

我が家のベランダには見覚えのある洗濯物の数々が干されている。

玄関を覗き込む人影もはっきり写りこんでいる。

見ると静止画像のはずなのに、その人影がゆっくりと、くるりと向きを変え、こちらを見た。

「あそぼうね」

三つ編みのよし子ちゃんだった。

私は混乱し大声でわめいた。

夏休みのプール教室の日だった。

一緒に泳いでいたよし子ちゃんが溺れて、私の足に何度も何度もすがりつこうとした。そんなよし子ちゃんを私は振り払った。怖かったから。

よし子ちゃんは悲しげな眼を見開きながら、プールの底に沈んでいった。

私はなにくわぬ顔でベンチに座り、ガチガチと歯を鳴らし続けた。寒かったからではない。

すぐによし子ちゃんは助けられたが、脳に障害が残った。

その後、先生の転勤で、他の土地に引越ししたと聞いたが、消息は誰も知らない。

「私のせいじゃない。なんで、なんで今なわけ」

昔の感情が怒涛のように押し寄せる。

その時、玄関ドアの郵便受けが「ガタン」と音をたてた。

玄関のタタキにはがきが一枚落ちていた。

手に取り見ると、拙い字で

「残暑お見舞。またあそぼうね」

【終】

Concrete
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小夜子お姉様、新作を出されたのですね!すぐにでも読みたいのですが、「例の大役」を成し遂げてからゆっくりと拝読させてもらいますのでしばらくお待ち下さい!ひ…

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待ってました( ^∀^)

お久しぶりの投稿ですねー(o^^o)

やっぱり小夜子様の作品大好きです(^_^)

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