中編3
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誰にも知られない言葉

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腹部を刃渡り20㎝の包丁で7回刺された。

私で慣れたのか彼は、隣の人はすぐに死ぬように肺を刺し、

そして次の病棟へ駆けていった。

深夜、警備の薄い病院へ突然に入り込み、

おそらくこのぶんでは数十人の死者が出るように思われた。

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ずっと考えていたのだけれど、

まぁこのへんが妥当な答えだろうなという一つの答え。

新たな人類のためにとか

非正規雇用の苦悩とか、

障害者とのディスコミュニケーションとか、

あるいはジハードとか、

ケジメとか、

なんだかいろいろ、

人が死ぬようなことをするやつは、

人を殺したいからそれをしているだけなのだ。

殺人者のすべての動機を、殺人者でない我々は簡単に論破できる。

理屈では簡単に。

けれど個人の理屈では原因究明にならないので、社会や時代のことまで考察する必要が生まれる。

それも確かに必要であり、殺人を生みだしているのは間違いなく我々自身である。

この自覚を元に、なお簡潔に穿ちたい。

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おそらく理屈の問題ではない。

殺したいやつは殺すし、そうでない人はそれをしない。

躊躇無く殺人を犯す神経の持ち主が、人を殺したくないと思っているわけがない。

彼らは殺したいのだ。

宗教や思想などハナから関係が無い。

最初から殺したいから宗教や思想を言い訳にしているだけだ。

かっこつけたくて人殺しをしている気持ち悪い変な人としか考えられない。

「気持ち悪い変な人」と言われて殺人者は反論するかもしれないが、その7割は、

被害者を殺さずに済んだ方法についておそらく考えたことすらない。

ままならないことはもちろんある。

けれどそうでない場合、

殺したいから殺したのだという点をまずきちんと踏まえるべきである。

誰でも誰かを殺したくなることはあるが、その感情をまるで特別な激情のように取り扱うナルシストの気持ち悪さについて、自覚できないほどの人生経験の少なさ。

単に阿呆なだけ、という自覚が無い。

まぁそれが出来ないから殺したんだろうけど。

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ドストエフスキーの小説に、

人間にはすべてが許されているが、

「それを知っている人はそれをしない」

という意味の言葉がある。

誰でも誰かを殺す自由があるのだ。

つまり人間にはすべてが許されているのだから、我々には、人を愛し自身を革命する自由が保証されている。

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人間とは何か?

宮沢賢治の言うように、この世界のすべてはひとつの現象に過ぎない。

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究極のところ、人間とは人間ではないのであり、

そんな人間を支えるのは

「それを知っている人はそれをしない」

という誇りだけなのだ。

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なんだか意識が薄くなってきた。

たぶん数年前に事故ってICUに運び込まれてからずっと眠いままだったのだが、

どうやらここは一般病棟らしい。

あ、隣の人が死んだみたいだ。

私もおそらくこのまま失血性のショック死だろう。

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あなたと話したいことがたくさんあったのに。

久々に目が覚めたのに、とても

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@とっつ 様
ありがとうございます!
秋葉原の事件以来ずっと考えてるんですが、なかなか答えが出てきません…

昔アメリカの高校で銃乱射があったんですが、調べていくと犯人のひとりの気持ちは理屈ではなんとなくわかりました。
「誰でもよかった」と言うのは、彼にとってこの世のすべてが敵だったからでしょう。
自分以外すべてを敵だと思うなら「誰でもよかった」というのは理屈としてはわかります。
けれど道理としては通りません。
おそらく道理から外れた何らかの要因が絡んでいるはずで、それはたぶんちょっとしたことでどうにでもなるようなことがどんどんこじれてしまった結果のような気がしています。
詩や映像や、音楽や自然が、それを止める力になるはずなんですが、今んとこまだよく見えてきません

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本質を見極める眼力、それを表現できる文章力、さらには楽しむことを忘れないエンターテイメント性を兼ね備えていて、素晴らしいと思います。

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