中編5
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「眼」第1章

眠い、眠すぎる。

アラームを解除し、18度の室温に凍えながら、エアコンのリモコンに手を伸ばす。

倦怠感と頭痛の酷い身体を、なんとか起き上がらせる。

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部屋のカーテンを開けると、青紫色の空。

静かな街の景色が目に映る。

窓を開け、早朝の澄んだ空気と夏の香りをゆっくりと吸い込む。

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大学2年生の夏。

僕は新しくアルバイトを始めた。

既に3つのバイトを掛け持ちしていたが、ずっと憧れていた仕事は、忙しい合間を縫ってでも働く価値があった。

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小学生の頃からずっと続けていた水泳。

自分の経験を活かせるプール監視員という仕事の募集を、やっと見つける事が出来た。

毎朝の朝練から1日が始まる。

「ピーッ!」

監視台にいるスタッフのメガホンからの怒号、笛の音が室内プールに鳴り響く。

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遊泳区域で溺れている人を発見し、監視台のスタッフの知らせで、他の持ち場の仲間が駆けつける。

様々な技術を駆使して、要救助者の救助に当たる。

という想定の訓練。

訓練の後は、開園の準備を大急ぎで行う。

息つく暇のない程走り回り、営業開始となる。

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「おはようございます!」

元気な声の、受付係の女の子。

午前9時の開園で、来場者は数名。

ウォーキングコースで大股歩きのおばさんや、遊泳コースで一心不乱にゆっくり泳ぐおじさん。

色々な人がいる。

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バシャ、バシャ、、

人が水に触れ、水が人に触れる音。

場内に流れるBGM。

穏やかな時間が流れている。

僕は監視台で、プールの中にいる人々の安全を見守る。

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見守るが、眠い、、眠すぎる。

そのうちウトウトと、こうべを垂れ、向きなおる。

またガクッと下を向いて、ハッと視線を場内に映す。

何度かそんな事を繰り返し、視線を場内に戻した時、

(え?)

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場内がおかしい。

その異様な光景に、脳が理解を拒んでいた。

プールの中身が黒くなっていた。

その黒さはもはや漆黒であり、天井のライトが反射さえしない、底の見えない闇だった。

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およそ墨汁の様なその物質は、おそらく水分だと思った。

水のように波打って、先程と同じ音を奏でていたからだ。

バシャ、バシャ、、

黒い水の中に入り、客は先程と同様に歩いたり、泳いだりしている。

場内のスタッフも、この異常事態を察知する事なく業務に当たっている。

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(もしかして、、僕だけ?)

目の錯覚でこういう事も有るのか?

と、ギュッと目を閉じ、瞼をゆっくり開く。

変わらず異質な景色が視界に広がる。

周りの混乱がない分、案外冷静でいられる自分がいた。

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他に変化はないかと、周囲の状況を伺う。

変わった事といえば、、

(あ、なんか白いな。)

客もスタッフも、そこにいるすべての人の肌が異様な白さだった。

その白さは色白という水準を超えていた。

舞妓さんの様な、全身に白粉を塗った白さ。

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そしてその肌をよく見ると、青筋の様なものが浮き出ている。

(肌が白過ぎて、血管が肌から透けて見えているのかな。)

と変に冷静に考えていた。

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(目がおかしくなったのか?早退して眼科にでも行った方が良いかな。

多分先輩に物凄く怒られるんだろうなぁ。)

と考えながら、引き続き場内を見渡していると、受付係の女の子が視界に入る。

受付は、僕のいる監視台から見て正面に位置している。

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場内とはガラスを隔て、受付で座った女の子の後ろ姿が見える。

その子は水着の上に、スタッフ用のポロシャツを着ていた。

(ん?青い?)

彼女の肌が露わになっている部分が、、青い。

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目を凝らしよく見ると、場内にいる白粉に青筋の人に比べ、青筋が圧倒的に多いため、肌がほぼ青く見えていた。

(なんだろ?)

と暫く目が離せずにいると、その子が急に痙攣を始めた。

受付の椅子に座ったまま、ガタガタと震え始め、やがて椅子から床へ倒れた。

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僕は咄嗟に緊急時のサインを仲間に送る。

メガホンを軽く振り、受付を指す。

客に混乱を招かない様、スタッフ間にだけ合図をする。

1人のスタッフが僕の合図に気付き、受付に駆け付ける。

倒れてもなお、痙攣を続ける女の子を見たスタッフは、慌てた様子で受付にある電話で内線を掛けている。

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受付から少し離れたレストルームから、待機スタッフがさらに駆け付ける。

痙攣は少しして治まった。

意識はまだ戻らない様子だった。

対応している1人が、時計を見ながらもう1人に

指示を出す。

女の子に対処している2人のうち、1人の男性スタッフが僕のいる監視台まで来た。

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状況を報告される。

男「多分癲癇だな。

痙攣も治ったし、意識が戻るまで様子見だな。」

場内に目を向けたまま、状況報告を聞く。

受付に目をやると、倒れていた女の子が再び痙攣を始めた。

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僕「あ、まただ!

ダメですね。

救急車お願いします!

僕は場内の調整します。」

男「了解。」

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僕は、場内の監視塔にいるスタッフに、緊急時のマニュアル通りの合図を送る。

監視塔より場内に、緊急時である事、状況が落ち着くまで一旦休憩とし、プールから上がる旨の放送が流れる。

直ぐに救急車が来て、女の子が搬送される。

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一息ついて改めて場内を見回すと、いつの間にか水の色が元に戻っていた。

人の肌も正常に見える。

(なんだったんだろ?)

先程までの緊急時対応ですり減らした神経は、考えることをさせてくれなかった。

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女の子はその後、搬送先の病院で意識を取り戻し入院する事なく、回復に向かった。

バイトには、

「ご迷惑をおかけしました。」

と復帰し、以後何事もなく働いていた。

あの黒い水は何を意味していたのか。

白い肌と青筋は何かの啓示だったのではないか?

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様々な憶測を立てる一方で、その時は

(白昼夢でもみたのかな?)

というように考える事に努めた。

しかし、自分自身がおかしかったと、実感できる身体の変調はこれだけではなかった。

この体験以降僕の“眼”には様々な物が映り、様々な事が起こる。

それはまた、別のお話し、、

Concrete
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