中編6
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誰かさんのしわ寄せ

友人が事故にあった。

危篤状態から一転、快方に向かってるらしい。

見舞いに行くと、顔色はなかなか良い。

問題ないっぽいね。

「なぁ体の具合はどうだ?」

雑談の際、不意に切り出された。

逆だろ?

問題ない、僕は元気だ、そう伝えると安心した顔をしていた。

「いやなに、最近事故多いし心配でね」

確かに多い、僕の地元で何件もあるが、死人はまだ出てないらしい。

出ても隠してたらわかりっこないけどね。

事故は健康だと防げると思うのか?

少々不自然な気はする、やはり事故の動揺は大きいのか。

問題なさそうだし、適当に切り上げて帰る。

やたらと身の安全に注意するよう言ってくる友人を見ると、事故の精神的な傷もバカにできないと感じる。

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音楽を聴きながら歩くのが好きなんだけど、友人の忠告もある。

今日くらい周りを注意して帰ろう。

信号に詰まる。車が多く、目の前をビュンビュン走る。

改めて思う。車は鉄の塊で、ぶつかったら勝てないなと。

ボンヤリ考えていると、肩を叩かれた。

「Nさんであってますか?」

血の気のない顔したサラリーマン?風のスーツ男が尋ねた。

ええ、僕です、と応じた。

なんでここで話しかけんの?

「歩きながらで構いません。ご友人の事で伺いたい事がございまして、あ、青ですよ」

信号を見る、赤じゃん。

そう思った瞬間、とんでもない力で突き飛ばされた。

え?なに?

車、ブレーキ音、足がすくむ。

はねられる、と言うが、僕は引きずられたと呼ぶ方が正しそうだ。

普段考えた事もないあらゆる箇所が、焼けてるような感触がする。

地面に横たわったようだが、地面の感触がない。

悲鳴が聞こえる。

だんだんと寒くなってきた。

瞼が重い。

慌ててる運転手と対照的に、さっきのサラリーマンが、無表情でこちらを見下ろしてる。

こいつか?

僕は意識を失った。

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ふと目がさめる。

体は何ともない。

ベッドではない、というか何もない。

真っ白、壁もない天井もない。

さっきのリーマンが退屈そうに椅子に座ってる。

何から聞いたら良いのか。

ここはどこですか?

「あ、起きたんですね」

何の抑揚もない乾いた声だ。

僕に全く興味ないんだろう。

「ここは死んだら来るとこです」

死んだ?誰が?

わかってるだろうと言いたげな顔をし、続ける。

「私は、うーん、まぁ、魂回収人とでもお考え下さい」

死神?

「じゃそれで」

どうでも良いっぽいな。

「今、魂の収穫期なんですが、お得意様がどうしても若いのが良いとご所望でして」

お得意様?収穫期?

聞いちゃいない。

なんか割ばっかり食う下請けっぽい台詞。

「で、今回少々強引な手段を取らせていただいたわけですが、応じていただけますか?」

応じる?何に?

「魂をいただくということに、です」

断るとどうなる?

丁寧な態度を崩さず応える。

「代わりの方を推薦していただけなければ、このままお連れする形になります」

頭がついていかない。なんだ?なに?

最初から返答を待たずに連れてけば良いんじゃないの?

「了承いただく事に意義があります。まぁ品質の問題ですな」

品質?それって…

遮られた。

「快諾いただけますね?」

いやいや、んなわけないだろ。

ハッキリと断る。

「では代わりの方の推薦をお願いします」

うんざりしたようだ。このやり取りに慣れてるんだろう。

ならもう少し、色々考えとけよ。

推薦すると生き返るのか?聞いたところ、生き返るらしい。

「そうですね、生き返ります。火葬からでも戻すことは可能ですが、こちらで経った時間分、向こうでも時間が進みます。周りの人間がいなくなってからでは意味ないでしょう?早めのご決断を」

つまり、死ぬか誰か殺すかか。

いや、その誰かがまた先送りにしたら別に構わないのか。

言うべき事は言ったという事だろうか。彼は座って、どこに持ってたかわからないが、本を読み始めた。

ちょっと良いかな?

彼は顔を上げてこちらをみた。

どんな人が良いの?

「そうですね」

言いながら本にしおりを挟んでいる。

「若いこと、自殺ではないこと、その上で魂を回収される事に了承していただく事、ですかね」

健康でなくても良い?

「ええ、身体的な要件は年齢以外関係ございません」

なるほど…

少し考え込んでいると、彼は本に目を落とした。

いや、うん、よし。

決めたよ。

「お早いですね」

本を閉じて、こちらに歩みだした。

「では、魂の回収に応じt」

違う違う!今度は僕が遮った。

またか、と言わんばかりの表情でこちらを見る。

で、名前を言えば良いの?

「イメージしていただければ、その方の場所までお連れするので、見つかればこれを振りかけて下さい」

なにこれ?コップに粉?が入ってる。

チョークの粉みたいでなんだかな。

「ええまぁ粉ですね。わたくし共が行いますと違法ですので、ご自身でお願いいたします」

違法?どこの法だ?

「では早速」

ガラリと景色がかわる。移動というより、もうワープだ。

さっきいた病室だ。

友人の部屋に来た。

見舞いのためじゃない。

僕らの姿は見えてないっぽい。

ふと死神もどきを見る。

うっすらと笑っている。

「ははぁ、面白い方を選びますねぇ」

なぜ?

「いえいえ、こちらの話で」

はぐらかしている。なんなんだ。

僕は死にたくなかった。

腹を決めて、近寄る。

友人は寝ていた。うなされている。

小さいけど、ハッキリと聞こえた。

「N、N…気をつけて…」

かけようとしていた手が止まった。

我に帰る。

こいつは事故で、九死に一生を得たのに、僕の心配をしていた。

未だ夢で心配している。

それなのに僕は一体何をしようとしていたんだろう。

「どうしました?」

様子を伺ってくる。

やっぱり辞めた。

「では他の方で?」

いや、僕で良い。僕が応じるよ。

「ほんとですか!ありがとうございます!長かった……」

こいつはかなりのポンコツみたいだし長いだろうね。

「ちなみに何故?」

なぜ?なぜだろう?

多分、入院してる最中でも、僕の心配をしてくれたこいつを見て、少し恥ずかしくなったからかな。

場違いリーマンはポカンとした顔をしてこちらを見てる。

ブルブルと震えだした。

なんだ?

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shake

「あっっははは!そう来ましたか!なるほど!なるほど!あっはははひひひひひ!ひひひひひ!ひひひひひ!」

初対面の能面のような顔つきと打って変わり、転げまわりながらゲラゲラと気味悪く笑っていた。

ひとしきり笑い終わり、表情を戻して僕に伝えた。

「失礼しました。気の変わらないうちにこちらへお願いします。」

ポンとワープした。

生きてる間に使いたかったな。

さっきの何もない空間に、圧倒的な存在感を放つ球がある。

彼は元の無表情で伝えた。

「こちらの球に触れて下さい。しばらく我慢していただければ、えー、成仏のようなアレをしますので」

球でかい、直径が僕の身長くらいある。真っ黒だ。

とりあえず手のひらを当てる。

ぐんぐん走馬灯のように思い出が頭をよぎる。

結構怖いな。

子供の頃のくだらない嘘、なんてことないいたずら、みんなで遊んだ思い出などなど。

見舞いに行った友人が頭をよぎる。

事故?危篤から快方に。

死神の台詞も思い出す

「火葬からでも」

そしてけたたましい笑い。

あぁ僕の勘違いで、もしかしてあいつ……

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残念!
情けをかける必要なかったのに…

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