中編3
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白子

 海に沈む夕日を眺め、優しく繰り返す穏やかな波の音を聞きながらあふれる涙を拭いた。

 なぜ、わたしはふられたの? 

 そんなのわかりきってるわ。彼を引き留めておく魅力がなかったからよ。

 でも、いきなり「別れよう」はないんじゃない?

 ショック過ぎて気付けば名前も知らない遠い海に来てしまっていた。

 でも海に来たのは正解だった。子守歌のような波の音に傷ついた心が少しだけ癒された。

 夕焼けの砂浜には他に誰もおらず、白い波も堤防も優しいオレンジ色に染まっている。

 空と海を見つめながら微笑み、「もう大丈夫」と尻の砂を払った。

 堤防の階段を振り返った時、視野の端に何か見えた気がした。

 視線を移すと十数メートル先に、本当に『何か』としか言いようのないものがいた。

 よろよろと二本足でこちらに向かってくる様は人の姿に似ている。だが、どう見ても人には見えない。

 風が吹き、えづくほどの腐敗臭が流れてきて思わず鼻を押さえた。

 頭の中で警告音が鳴り響いているのに目を逸らせず、足も動かない。

 数メートルまで近づいてきてやっと足が弾けた。全速力でコンクリートの階段に向かって走る。

 砂に足を取られつまずきながらも転ぶのだけは何とか避けた。

 追いかけてこないか確認したかったが、振り返る余裕はない。

 あれはいったいなんなのだろう。

 青白くふやけていたが太腿から下は確かに人のそれだった。

 だが、上半身がまったく違う。

 タラの白子のようなものがぽんっと両太腿に乗っかっているのだ。うねった生白い身がてらてらと夕日に光っていた。

 階段に辿り着くと堤防を越え、国道に出たところでやっと振り返れた。

 だが何もいない。堤防を覗き込んでみても階段にも砂浜にもどこにもいなかった。

 何かを見間違えたのだろうか。

 潮風にじめつく首筋を撫でながら堤防にもたれ、靴を裏返して中の砂を払った。

 まだ動悸が治まらない。

 水を飲みたいと思ったが、道路を挟んだ向かいにある寂れた食堂はガラス戸がぴたりと閉まり、茶色い染みの浮いたカーテンが引かれている。見回しても自販機すらない。

 微かな、腐臭がした。

 漂ってくる方向に目を向けると岩をくりぬいたままのトンネルがあった。奥の暗がりから白子がゆっくり出てくる。

 うねった白い身がもぞりと動く。一本また一本とほどけるのを見て、あれは白子などではないと気付いた。

 身のように見えていたものは絡まりあったたくさんの腕だったのだ。

 腕の塊が花開くようにほどけたかと思うと再び絡みついて閉じる。それを繰り返しながらこっちに近づいてきた。

 ほどける度、手の平が誘うようにひらひら揺れる。

「いやあああああ」

 ここが国道だということも忘れ、道路の真ん中を思いきり走って逃げた。カーブの向こうから来たダンプカーに気付いた時は背中から地面に叩きつけられた後だった。

 だんだんとかすんでくる視界には夕闇の迫る美しい空が広がっていた。

 わたしの顔を覗き込み、白子がその空を遮る。絡まりあった腕の真ん中に指をそろえた手の甲が見えた。

 その手がゆっくり開くと魚のようなまん丸い眼が自分を見下ろしていた。

Concrete
コメント怖い
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いいですねえ、、
ストーリーの展開とは無関係に、
意味不明な「何か」が突然現れて、
その実体も掴めずに、終わる
こういう展開、大好きです

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怖ポチくれた皆様ありがとうございましたm(_ _)m
ひとまとめにお礼を言う無精をお許しください(≧σ≦)>

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@mami-2 様
いつもありがとうございます。
白子お好きでしたか・・・すみません。でもこれとそれとは話が別ですよね。私も映画で人肉饅頭のシーン見てから肉団子嬉々として作って食べれますもん!私たちさすがホラー人ですね!一緒にするなと怒らないで(T▽T)

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@clolo 様
いつもありがとうございます。
あの後どうなるのか全く考えていなかった。最初になんでこんな話を考えたのかももう思い出せないし。食べられないけど別に白子に恨みもないし(≧▽≦)>
変なもんばかり書いてますがこれからもよろしくお願いします!

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@修行者 様
いつもありがとうございます。
そしてご苦労様です。
お疲れがだいぶ溜まっているようで・・・
コメント欄のリレー読みにくかったので、今回の再投稿すごく嬉しいです。ざっと見たんですが、またゆっくり読みに行きたいと思います。表紙のイラストすごくよかったですよ!

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@月舟 様
いつもありがとうございます。
嬉しい言葉の数々ありがとです!
これでご飯三杯は食べられます。
ゾンビ映画見たくてたまらないのですが、まだ観る時間が取れない。少しずつ普段の生活に戻ってきているんですが・・・
リレーの投稿始まりましたね。まだ観に行ってないのですが、近々読みに行こうと思ってます!楽しみー。皆さんすごいよね。私には無理ってことがはっきりわかりました(T▽T)
またメセボにもお邪魔します。

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@ラグト 様
いつもありがとうございます。
ぼちぼちやっていきますのでこれからもよろしくお願いします。
ラグトさんにそう言ってもらえて嬉しいです!
自分の発想はいつもおかしいし、おかしい発想から話を組み立てていくので無理があるしってわかっているんだけど、こんなしかできない・・・これも個性だよね(*´з`)と思ってます(≧▽≦)bマエムキー

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@雪-2 様
いつもありがとうございます。
お久しぶりです。
ブキミと感じていただけてよかったよかった(≧▽≦)ノ

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@まー-3 様
いつもありがとうございます。
白子が腕の塊という設定に無理があるようなと思いつつ・・・脳みそのほうが近いと思うのですが、話にできなかった。
白子食べる人はホラー要素として見ないのでしょうかね。

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@珍味 様
いつもありがとうございます。
いろいろと忙しくなる前に書いていたものなので、なぜこれを書いたのかもう覚えてません。魚介類があまり好きではないので食べたことないのですが、焦げ目ついたもの(料理名がわからない)はおいしそうだなと思ったことあります(≧▽≦)>
忙しすぎてまだ家族が一人いなくなったという実感がわいてません。深く考えないようにしているのかも。覚悟してたから、たぶんそんなに落ち込まないと思いますが、どんな気持ちになっても、それすらも糧にして創作活動は続けていこうと思っています。
ありがとねー(≧▽≦)

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@りこ-2 様
いつもありがとうございます。
私は白子が食べられないので気持ち悪く書いてみました。上手い人ならもっと気持ち悪い表現ができるんだろうな・・・って、白子大好きな方々すみませんっ!

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