中華飯店「げんきいちばん」(一部改編)

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中華飯店「げんきいちばん」(一部改編)

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その店は僅か三カ月くらいで、閉店した、、、

その店というのは、僕の住むアパート近くの

中華飯店「げんきいちばん」

カウンター席八つとテーブル席が二つの

こじんまりとした店で、27、8のまだ若い店主と

奥さんと思われる同じ歳くらいの

小太りの女性二人で切り盛りしていた

味は絶品でどのメニューも素晴らしく、

特に豚骨ラーメンとチャーハンは一回食べると、

やみつきになるほどだった

店主が若いということもあり、店の名前のとおり

「げんきいちばん」で、カウンター向こう側の

厨房からは、溌剌とした陽気な声がいつも

飛び交っていた

そんな「げんき」で味も良い店が何で

閉店になったのか? 

もちろん、それにはそれなりの理由があった

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バイト仲間から近くに最高に美味しい中華料理屋ができた、と聞き、

休みの日にぶらっと行ってみた

それが「げんきいちばん」だった

暖簾をくぐると、まず

― はい!いらっしゃーい!

元気な声が厨房から聞こえくる

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その日はまだオープンして三日めだったようだ

お昼前なのに、カウンター席はほぼ満席

テーブル席も、あと一席しか残っていない

カウンター上側にある縦書きのメニュー表の

末尾には、

げんき¥0、おもいやり¥0と赤字で

並べられている

モットーなのだろう

僕は一つだけ空いていた

レジ横のカウンター席に座った 

レジ機の真横には、

―恵まれない子供たちに愛の手を―という

文字の書かれた募金箱が置いてある

すぐに小太りのエプロン姿の女性が水を持って

きた 笑顔はなく、何かオドオドしている

「豚骨ラーメン一つ、お願いします」

僕が注文すると、女性はか細い声で

― はい、豚骨一丁、、、

と厨房に向かい、言った

すると突然、

shake

ガッチャーンという、皿が割れる

物凄い音が聞こえてきた

僕は何事か?と厨房を見る

僕以外のカウンター席にいる人たちも、一斉に

厨房内を覗きこむ

コンクリートの床の上にはラーメン皿が砕け散り

ラーメンの麺やスープも、あちこちに散乱していた

その傍で、

白いエプロン姿の捻りはちまきをした若い店主が

長靴を片方、懸命に脱ごうとしている

― だからよう、何度も言っているだろう!

聞こえね、え、ん、だ、よ!!

店内に響き渡るような声で怒鳴ると、

脱いだ長靴を、

店の奥で頭を抱えてしゃがみ込んでいる女性に、

思い切り投げつけた 

テーブル席の人も何人か、立ち上がり、

厨房の方を見ていた

その日、入店してから噂のラーメンにありつくまで

三十分は経過していたと思う

そんなことがあれば、普通はもう二度と店には

行かないものなのだが、あの味が忘れられず、

僕は次の休みの日にまた、「げんきいちばん」に

行った

いつもとおり暖簾をくぐると、

― はい!いらっしゃーい!

というげんきな声

昼近かったのだが、店内の客は疎らだった

カウンター席に座ると、いつもの女性が

水を持って来たのだが、彼女の頭半分と

手首には白い包帯が巻かれている

「どうしたんですか?大丈夫ですか?」

女性に声をかけると、女性は震えながら

か細い声で言った

― い、いえ、大丈夫です、、それより、

ご注文を、、

「じゃあ、チャーハンセットを」

僕が注文すると、

女性は前よりもかなり大きな声で

― チャーハンセット一丁!

と振り向き様に叫んだ

― あいよー!チャーハンセット一丁ねー!

厨房から店主の威勢の良い声が返ってきた

食べ終えて支払いをしようと、レジ前に立っていると、

ちょっとの間があり店員の女性が来た

― え、えーっと、豚骨ラーメンでしたよね

焦った様子で女性が言った瞬間、

shake

― てめー!殺すぞー!チャーハンセットだろうがああ!

うちを潰す気かああ!

そう言いながら店主が、まだ油が煮えたぎる

中華鍋を片手に、こちらに向かってきた

― す、すみません!チャーハンセットでした

女性は慌てて言い直した

僕も慌てて財布からお金を出し、彼女に手渡した

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その後も何度となくその店に行ったのだが、

行く度に客の数は減っていき、

最後に行った先週の日曜日は

昼時だというのに、カウンターの

僕と、テーブル席の若いカップルだけだった

― はい、何にしましょ!

厨房から店主が顔を出す

「あれ?いつもの女性の方は?」

不思議に思い、店主に尋ねると、

― ああ、あのバカね、どっか行っちまったよ

困ったもんだよ、最近の女は こらえ性がないんだ

と、吐き捨てるように言った

それから、

いつもの豚骨ラーメンをすすっている時だった

shake

― きゃあああああ!

けたたましい女性の悲鳴が店内に響き渡る

何事か?と店内を見渡すと、テーブル席カップルの

女性である

― ちょ、、、何これ?、、

そう言って突然女性は立ち上がると、よろめき

ながら、後ずさりしている

― おい!何なんだよこれは!?

彼氏と思われるラガーシャツを着た体格の良い男が、

厨房に向かい叫ぶ

―はーい!何でしょう

いつもの威勢の良い明るい声で、

厨房から店主が出てきた 

なぜか、片手には中華用の包丁を握っている

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テーブルの上には、ラーメンが二つ

女性は、そのラーメンの一つを指さしていた

ラーメンの中には普通の麺と一緒に

真っ黒い髪の毛のようなのがどっさり入っている

さらに真ん中には、人の目玉らしきものが卵のように浮かんでいた

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間もなくして警察が来て、店主は連れていかれた

問題のラーメンを調べたところ、やはり、あれは

人の髪の毛と目玉だったようだ

さらに店内を捜索すると、冷凍庫の中に、

切り刻まれた女性の遺体が、ビニールに入れられ

保存されていたそうだ

身元は確認中ということなのだが、、、

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@shibro
ご感想ありがとうございます
日常の中の狂気がテーマでした

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