中華飯店「げんきいちばん」

中編4
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中華飯店「げんきいちばん」

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 その店は僅か三カ月くらいで、閉店した。

その店というのは、僕の住むアパート近くの

中華飯店『げんきいちばん』

カウンター席八つとテーブル席が二つの

こじんまりとした店で、27、8のまだ若い店主と

奥さんと思われる同じ歳くらいの

小太りの女性二人で切り盛りしていた。

味は絶品でどのメニューも素晴らしく、

特に豚骨ラーメンとチャーハンは一回食べると、

やみつきになるほどだった。

店主が若いということもあり、店の名前のとおり

『げんきいちばん』で、カウンター向こう側の

厨房からは、溌剌とした陽気な声がいつも

飛び交っていた。

そんな「げんき」で味も良い店が何で

閉店になったのか? 

もちろん、それにはそれなりの理由があった。

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 バイト仲間から近くに最高に美味しい中華料理屋ができた、と聞き、

休みの日にぶらっと行ってみた。

それが『げんきいちばん』だった。

暖簾をくぐると、まず、

――はい!いらっしゃーい!

元気な声が厨房から聞こえくる。

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 その日はまだオープンして、

三日めだったようだ。

お昼前なのに、カウンター席はほぼ満席。

テーブル席も、あと一席しか残っていない。

カウンター上側にある縦書きのメニュー表の

末尾には、

げんき¥0、おもいやり¥0と赤字で

並べられている。モットーなのだろう。

僕は一つだけ空いていた、

レジ横のカウンター席に座った。 

レジ機の真横には、

―恵まれない子供たちに愛の手を―という

文字の書かれた募金箱が置いてある。

すぐに小太りのエプロン姿の女性が水を持って

きた。笑顔はなく、何かオドオドしている。

「豚骨ラーメン一つ、お願いします」

僕が注文すると、女性はか細い声で、

「はい、豚骨一丁」と厨房に向かい、言った。

すると突然、

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shake

ガッチャーン

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という、皿が割れる物凄い音が聞こえてきた。

何事か?と厨房を見る。

僕以外のカウンター席にいる人たちも、

一斉に厨房内を覗きこむ。

コンクリートの床の上には

ラーメン皿が砕け散り、

ラーメンの麺やスープも、

あちこちに散乱していた。

その傍で、

白いエプロン姿の捻りはちまきをした若い店主が

長靴を片方、懸命に脱ごうとしている。

「だからよう、何度も言っているだろう!

聞こえね、え、ん、だ、よ!!」

店内に響き渡るような声で怒鳴ると、

脱いだ長靴を、

店の奥で頭を抱えてしゃがみ込んでいる女性に、

思い切り投げつけた。

テーブル席の人も何人か、立ち上がり、

厨房の方を見ていた。

その日、入店してから噂のラーメンにありつくまで

三十分は経過していたと思う。

そんなことがあれば、普通はもう二度と店には

行かないものなのだが、あの味が忘れられず、

僕は次の休みの日にまた、『げんきいちばん』に

行った。

いつもとおり暖簾をくぐると、

「はい!いらっしゃーい!」

というげんきな声。

昼近かったのだが、店内の客は疎らだった。

カウンター席に座ると、いつもの女性が

水を持って来たのだが、彼女の頭半分と

手首には白い包帯が巻かれている。

「どうしたんですか?大丈夫ですか?」

女性に声をかけると、女性は震えながら

か細い声で言った。

「い、いえ、大丈夫です。それより、ご注文を……」

「じゃあ、チャーハンセットを」

僕が注文すると、

女性は前よりもかなり大きな声で、

「チャーハンセット一丁!」

と振り向き様に叫んだ。

「あいよー!チャーハンセット一丁ねー!」

厨房から店主の威勢の良い声が返ってきた

食べ終えて支払いをしようと、

レジ前に立っていると、

ちょっとの間があり店員の女性が来た。

「え、えーっと、豚骨ラーメンでしたよね」

焦った様子で女性が言った瞬間、

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shake

「てめー!殺すぞー!

チャーハンセットだろうがああ!

うちを潰す気かああ!」

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 そう言いながら店主が、まだ油が煮えたぎる

中華鍋を片手に、こちらに向かってきた。

「す、すみません!チャーハンセットでした!」

女性は慌てて言い直した。

僕も慌てて財布からお金を出し、

彼女に手渡した。

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 その後も何度となくその店に行ったのだが、

行く度に客の数は減っていき、

最後に行った先週の日曜日は、

昼時だというのに、カウンターの

僕と、テーブル席の若いカップルだけだった。

「はい、何にしましょ!」

厨房から店主が顔を出す。

「あれ?いつもの女性の方は?」

不思議に思い、店主に尋ねると、

「ああ、あのバカね、どっか行っちまったよ。

困ったもんだよ、最近の女は。

こらえ性がないんだ」

と、吐き捨てるように言った。

それから、

いつもの豚骨ラーメンをすすっている時だった。

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shake

― きゃあああああ!

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けたたましい女性の悲鳴が店内に響き渡る。

何事か?と店内を見渡すと、

テーブル席カップルの女性である。

「ちょ、何これ?……」

そう言って突然女性は立ち上がると、

よろめきながら、後ずさりしている。

「おい!何なんだよこれは!?」

彼氏と思われる

ラガーシャツを着た体格の良い男が、

厨房に向かい叫ぶ。

「はーい!何でしょう」

いつもの威勢の良い明るい声で、

厨房から店主が出てきた。 

なぜか、片手には中華用の包丁を握っている。

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テーブルの上には、ラーメンが二つ。

女性は、そのラーメンの一つを指さしていた。

ラーメンの中には普通の麺と一緒に

真っ黒い髪の毛のようなのが

どっさり入っており、さらに真ん中には、

人の目玉らしきものが

卵のように浮かんでいた。

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 間もなくして警察が来て、

店主は連れていかれた。

問題のラーメンを調べたところ、

やはり、あれは人の髪の毛と目玉だったようだ。

さらに店内を捜索すると、冷凍庫の中に、

切り刻まれた女性の遺体が、ビニールに入れられ

保存されていたそうだ。

身元は確認中ということなのだが……。

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@shibro
ご感想ありがとうございます
日常の中の狂気がテーマでした

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