中編3
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幽霊信じます?

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「お客さん、幽霊信じます?」

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 運転手の突然の言葉に、何と答えていいのか、

戸惑っていると、

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「ははは、すみませんね。

変なこと言っちゃって。

お客さんは若いし賢そうだから、

そんなのバカバカしいでしょうね。

実は私も先週までは、

全く信じてなかったんだけどね」

バックミラー越しに銀縁のメガネで、

チラリと僕を見て、続けた。

「でもね今は、間違いなく信じてるんですよ」

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 窓を煌びやかな繁華街の景色が

どんどん後ろに流れていく。

さっきまでは、飲み会の疲れもあり、

その手の話は胡散臭く思っていたのだが、

何となく面白そうなので、聞いてみた。

「それはどうしてなんですか?」

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「実はね、先週の今日これくらいの深夜に、

さっきお客さんを乗せた辺りで、

別のお客さんを乗せたんですよ。

お客さんのような

きちんとスーツ着たような方じゃなくて、

なんと、

ウエディングドレスの女性だったんです」

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「ウエディングドレス?」

そう言って僕は、運転手の浅黒い横顔を見た。 

結構年配のようにも見える。

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「そうなんです。深夜にあんな繁華街で、

純白のウエディングドレスの女性が。

変でしょ。

で、どこ行きましょう?と聞いたら、

静かに前の方を指差すんです。

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それでとりあえず私も、

そのとおり走ったんですよ」

……確かに変だ。

深夜にウエディングドレス姿の

女性が繁華街に一人。仮装パーティー?

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「でね、まあ、あり得ないことだけど、

今から結婚式ですか?と一応聞いてみると、

これがなんと、黙ってうなずいたんです。

年格好ですか?

う~ん、、それがね、ずっと俯いてたから、

ほとんど判らなかったんです。

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それから、あそこの角を左にとか、

右にとか、いろいろ言われてね。

かれこれ30分は走ったかな。

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いつの間にか、北の方にある山裾の

大きなカトリック教会の前まで来たんです。

ただ、この教会、数年前に大きな火事をだして

建物が全焼したんですが、その時、式の控室にいた

新婦が犠牲になったようなんです。

悲しい事故で

当時、新聞にも大きく扱われました。

今、敷地には廃墟が残っているだけです。

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街灯もなく、私もね、ちょっと不安になって、

ここで大丈夫なのかな?と

バックミラーを見たら、誰もいないんです」

「誰もいない?」

僕は以外な結末にドキリとした。

「そう、いないんですよ。私ね、車を停めて、

後ろの座席を隅から隅まで見ましたよ。 

でもやっぱり誰もいない。ゾッとしましたね」

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「そりゃあ、驚いたでしょう」

結末まで聞いた僕は視線を再び窓に移した。

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 いつの間にか、雨が降ってきたみたいで、

窓ガラスには無数の雨粒が付着している。

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「いや、それが、まだあるんです」

 運転手の話はまだ終わっていなかった。

「実はね、その翌日の深夜また、

さっきの繁華街走っていたんです。

そしたら、また立っているんですよ。

同じ場所に、あの恰好で」

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「え!?」

思わず僕は声を出した。

「私もね、さすがに気味悪いから、

無視して走り去ったんです。

そして、しばらくして、バックミラーを見たら、

……。

座ってるんですよ。後ろに。

恐る恐るもう一度見るんですが、

やっぱりいるんです。

何するわけでもなく、ただじっと俯いて、

座ってるんです。

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気になるんで、

チラチラとバックミラーを見てたら、

一回だけ、はっきり顔が見えたんです。

肌は酷いヤケドの後のケロイドのように

全体に浅黒く突っ張っていて、

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目だけがギョロギョロと動いていたんです。

鼻らしいものは見当たらず、口はただぽっかり

丸く穴が空いてるだけ。

もう、恐くて恐くて。

とにかく必死に祈りましたよ。

頼むから、消えてくれ!てね。

そしたら、いつの間にかいなくなってました。

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それからは、気味悪いから、 

深夜にさっきの繁華街は

走らないようにしていたんですよ。

ただ今日は無線があって、お客さんを乗せる前に、

他の方をあの辺りまで乗せたんです。

そしたら、お客さんが手を……」

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 そこまで言って、運転手は急に黙り込んだ。

僕は不信に思い、「どうしたの?」と聞くと、

「お客さん……びっくりしないでくださいね。

……今、お客さんの隣に座っています」

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shake

「うわああああ!」

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僕はタクシーに乗ると、たまに、何か怖い話ありませんか?と聞いたりします。ほとんどの運転手さんが、
「はあ?」と言って、笑いますが。

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