中編5
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母の話=天井の女=

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2015年の暮れ。

以前からの持病の治療の為、母を、入所している施設併設ではない病院に入院させた。

父が施設併設の病院で亡くなったと言う事もあり、その時の治療方法、医師の対応に不信感を持っていた私達は、もっと早くに以前から父が受診していた病院へ転院させていたら…との後悔と、母まで死なせたくなかったからの選択。

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簡単に手術と言うけれど、高齢の母が身体にメスを入れる事への抵抗もあり、少しでもリスクを最小にする事に重点を置いて考えた末での選択だった。

転院先の病院は、元から母が通っていた病院でもあり、薬の副作用で胃潰瘍になった母の治療を行って下さった女医さんが担当医になって下さり、その病院は我家からも近く、又、身体を切るのではなく、内視鏡を使っての手術で身体の負担を最小にとの事から、迷う事なくそちらの病院に母をお任せした。

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ただ、高度認知症の母。

元々暴言や暴力もなく、ニコニコ微笑み穏やかにボケてくれてはいたが、話して通じる訳ではなく、言い聞かせるなんて無理。

なので、点滴を抜いてしまったらいけないと言う事で、家族のいない時間は、両手にはミトン。

腰、腕もベッドに固定される様に拘束になると言う説明を受け、母の命を守る為にもと、苦渋の選択を迫られ、仕方なく承諾をし、署名と捺印をした。

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だが、お見舞いに行くと、腕すらあげる事の出来ない母。

シーツと一体化したかの様に、ベッドに磔になっている姿が痛々しく、胸が痛んで、堪らない気持ちになる。

そんな状態なのにニッコリ笑顔を見せるから余計に…。

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看護師さんにお見舞いに来たと告げると拘束を解いてくれる。

だから、少しでも長い時間母の側にいてあげたくて、毎日早目に家の掃除や洗濯を終わらせると面会時間なんて関係なく、母の元へ飛んで行っては側に付いていた。

家族なら誰が居ても良いからと、姉にもお見舞いを頼んだが、「病院に居れば安心でしょう?」と、入院時に行ったきり行く気がない様だし、強引に行かせるものでもないし、私だけでも行ければ母は少しでも自由に動ける時間があるのだから…と、兎に角、母がベッドに磔になる時間を少しでも減らしたい思いから、時間の許す限り、母の元に付いていた。

それに、私の子供達や、姉のところの子供達もなんやかんやとお見舞いには行ってくれていたから。

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ただ、それも毎日。

仕事もあり、子供の食事の支度やらの家事もあり。

しかも年末…。

私も少し疲れていた。

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そんなある夜。

部屋の明かりを全て消し、私は自室でぐっすりと眠っていた。

何時頃か…

ふと、目を覚ました。

その頃は未だ夜中にトイレで起きる事も稀だった為、一度眠ると朝まで熟睡していたのに…。

仰向けで寝ていた私は、何気なく眼を開けると自分の目線の先を天井に向けた。

そして、天井を凝視してしまった。

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そこには…ボンヤリと何かが浮かんでいる。

真っ暗な中、僅かにカーテンの隙間から入り込む外の明かり。

私は目を凝らして天井に浮かぶものを見詰めた。

そして、言葉を失くす。

………

上を見上げた私の身体と平行になる様に、重なる様に、天井に女が浮いていたからだ。

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白っぽい服を着た女は何も言わずに、どうなっているのか?

布団に横になっている私とほぼ同じ姿勢で天井に背を貼り付け、髪の毛を女からみたら下に居る私へ向かって垂らし、黙って私を見詰めていた。

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ギョッとなった私は、恐ろしさで何も出来ずに、ただ女と見詰め合って居たが…

ふと、女の左横に視線をやると、そこには入院している筈の母の姿が。

いつもはニコニコしている母が無表情のまま、女に手を繋がれ私を見ていた。

(夢?)と、思ったが、夢なら自分の意識で身体を動かせる筈はないだろうと、腕を動かしてみる。

すると、普通に身体を動かす事が出来る。

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と、同時にメラメラと怒りが込み上げて来る。

(私の母をどうしようってんだよ!?)

私は天井に浮かぶ女を睨み付けた。

女は私の気持ちを察した様にフッと口元に薄ら笑いを浮かべ、私を上から見下ろす。

私は余計に腹が立ち、ゆっくりと上半身を起こし、(コイツは許せん!ぶん殴ってやる!)と思い、女から視線を逸らさずに睨み付けながら立ち上がると、部屋の明かりを点けた。

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すると、一瞬で女が…母が…

消えた。

……

今迄睨み付けていた女は母と共に、部屋に明かりが点いたと同時に消えてしまった。

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暫くはポカーンと、口が半開きになってしまったが、病院にいる母が心配になって来たので、その日は少し早めに会いに行こうと決めた。

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外は未だ真っ暗な夜中。起きるには時間も未だ早い。もう少し横になろうと布団に潜り込んだ瞬間、グキッと…

「ゔッ…!ぐぅおぉぉぉぉぉ…!!」

起き上がる事も、身体の向きを変える事も出来ない程の腰の激痛…。

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仕方がないので、早朝、仕事に出る前の姉に電話をして、ギックリ腰になっちゃったみたいだと。

動けないから母のお見舞いにも行けないと伝えた。

そして、その後の母の入院中は姉がお見舞いに行く羽目になってしまった。(笑)

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いつだったかNくんにこの話しをしたら、「電気を点けて正解だったな。

下手したらお袋さん、そいつに連れて行かれたかもしんねぇよなぁ」と。

まぁ、あの時の私は戦闘民族だったので、訳のわからない女をぶん殴って、どうにか母を奪還する事しか頭になかったんですけどねぇ(笑)

結果的には良かったのかな?(笑)

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そして、今年8月半ばから入院していた母。

今度は施設併設の病院だったけれど、今度の担当医が良い先生で、その場その場で適切な処置をして下さったお陰で、一度目は9月の初めに無事に退院する事が出来ました。

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父が亡くなった病室の斜め前の病室にいた母。

やっと表情が戻って来た頃、ベッドのリクライニングを上げ、30度程の傾斜で頭を上げた状態で、自分の足元を見て笑っている。

「お母さん。楽しそうだね!」そう笑顔で話しかけると

「楽しいのよぅ。お父さんがね?」と…。

「お…お父さんがいるの?」と聞くと、ウンと頷き

「お父さんがねぇ。ウフフ(笑)」と。

どこを見ても、私には父の姿は見えませんでした。

そんな話を姉にすると

「そうなのよ。私が行った時もね?

ずーっと病室の外の通路を見て、ウフウフ笑ってるから、『お母さん、嬉しそうだね(笑)』って言ったら、『そうなのよぅ。お父さんがね?』って、誰もいない通路に向かって笑いかけてるのよ。」と。

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亡くなるまで、父は母が大好きだと恥ずかしがりながらも正直に言う人でしたから、きっと、母が心配で、母の側で見守ってくれてたんじゃないかな…。

今頃

「恥ずかしい事、書くんじゃねぇ」と、耳まで真っ赤にして照れながら、この話を読んでいるかもしれません。(笑)

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なんて言いましたが、退院から僅か半月足らずでまたまた母、入院…。

「親父!どうなってのよ?」と、今は亡き父に文句を言いましたが(笑)

結局、手術となりました。

高齢での手術でしたので、術後の経過は…。

退院の目途も未だ立っておりませんが、やはり父は母を見守ってくれているのかな?

この度、やっと普通病棟に戻ることが出来ました(*^^*)

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では、又母に纏わる何か不思議な事が起こりましたら、投稿させて頂きます。

お付き合い下さった皆様、有難うございました♡

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