ひとりぼっちは絵描きになる

中編2
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ひとりぼっちは絵描きになる

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あの夜に観た映画では、無法者の罪へ銃による正義の制裁が行われ、

いつか読んだコミックには、悪人への残虐な報復が描かれていた。

小説、絵画、音楽、彫刻、宗教、およそあらゆる表現に知るのは、

人間の“復讐欲”だ。

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けれど、いつも、不思議に思う。

誰もがああして多くの作品と同様にきちんと報復していれば、

この世界の悪人はもっと減っているはずだ。

なのに、誰も、何もしない。

そうしてよほどのことが無い限り公的抑止力は効果的に働かず、

法律は人道の味方というには程遠い。

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この日本でさえ、やったもん勝ち。

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通り魔事件が起こるたびに憤りを憶える。

「なぜ本当に消されるべき人間を殺さないのか?」

通り魔が殺すべきなのは、同類の人殺しだけであるべきだ。

この日本が嫌いだということは資本主義が嫌いであるということと同義である。

そして現状のシステムを産み出しているのが暴力である限りは、より優勢の暴力を潰すべきなのだ。

にも関わらず彼らは結局は、自分にとって関係の無い、自分が暴力的に優位に立てる相手しか殺さない。

通り魔は自身の愚劣さの言い訳に世界への反抗とのたまうが、実際には世界に犯されて恭順しているだけの敗北者である。

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誰か、いないのか。

ほんとうに国を変えられる人殺しを出来る者。

誰か……

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俺だ。

今ここで独り、決起するしかない。

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ベランダでビールの空き瓶へガソリンを注ぐ。

タオルを詰めた瓶をバッグに10本、作業着のポケットにライター。

玄関ドアのノブを握ると、明るい音楽が聞こえてきた。

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いつの間に起きたのか娘が、

テレビを点けて日曜朝のアニメを観ていた。

「また人手不足なの?」

妻も起きたらしく、慌てた様子で冷蔵庫を開けていた。

「いいよ、昼はどっかで食うから」

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冬空に指はかじかんだけれど、

今月分の小遣いをぜんぶ遣い油彩のセットを買って、

河原に10本の火炎瓶を並べ、キャンバスに向き合い、

高校の美術部以来の久々の静物画。

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誰が通報したのか巡査に職務質問されたけれど、

「絵描きなんです」と嘘をつき、アナーキズムの説明をして、

さらに説明しようとしたら面倒そうな顔をして去ってくれた。

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家族のためではなかった。

妻や娘は、ただ気づかせてくれただけだった。

ほんとうは殺したくなかったのだ。

ほんとうはこの世界を愛していたのだ。

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ほんとうは、絵を描きたかったのだ。

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@珍味 様
僕もシーレが好きです。
師のクリムトより数段苦しんでる感じがしますね。

カズキ曲名シリーズいいですねw
思いつき次第やってみます

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