中編3
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美菜子とエレベーター1

――あれ?こんな時間に誰なんだろう?

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 深夜二時過ぎ。

赤いドレスの上から革のハーフコートを

羽織った美菜子は『9』で灯っている

階数ランプを見ながら『🔼』ボタンを押した。

――ゴトン……鈍い金属の衝撃音の後、

軋むようなモーター音が続く。

――うぃぃぃぃぃぃん……

……8……

7……

6……

5……

4……

階数ランプが徐々に下ってくる。

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 頭上にある剥き出しの蛍光灯に

狂ったようにぶつかっている黒い蛾を

見ながら、彼女は考えていた。

――確か9階は管理人夫婦しか住んでなかった

はずだけど、こんな時間にどうしたんだろう。

美菜子は小太りで人の良さそうな管理人の

おばさんと、頭の禿げ上がったご主人の

濃い顔を、ふと思い出した。

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 モーター音が間近に迫り、やがて、

エレベーターホールに明かりが差し込み、

金属の箱は到着して、物々しく扉が開く。

誰もいない。美菜子は乗り込んだ。

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 家賃が格安の賃貸マンションに、

美菜子が住みだし、

1カ月が経とうとしていた。

夜の仕事オンリーの彼女は、

日曜以外の日は全て深夜まで、

ラウンジで働いている。

必然的にマンションにたどり着くのは、

二時を過ぎる。

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 その翌日、美菜子が昼過ぎから、

部屋の掃除をしていると、呼び鈴が鳴った。

「はい!」

玄関のドアを開けると、そこには、

ピンクのトレーナーの管理人のおばさんが、

いつもの優しげな顔で立っていた。

「すみませんねえ、お忙しいところ……

実はですねえ、燃えるゴミを入れる袋が

変わりましてねえ。

黒の半透明になったんですよ。それで、これ、

とりあえず、お渡ししておこう、と思って」

と言って美菜子に、ゴミ袋の束を渡した。

「あら、すみません」

彼女が頭を下げると、おばさんは

「いえいえ。本当はこういうことは主人の

仕事なんですけど、あの人また昨日の夜から

どこか遊びに行ってしまって、

帰ってこないんですよ。本当、困った人ですよ」

と言って困ったように微笑むと、

そそくさと行ってしまった。

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 その日の深夜二時過ぎ。仕事を終えて

美菜子は郵便物片手に少々千鳥足で、

エレベーター前に立った。

――え!また?

階数ランプは『9』で灯っている。

彼女は舌打ちしながら少し乱暴に、

『🔼』ボタンを押した。

――ゴトン……

いつもの鈍い金属の衝撃音の後、

軋むようなモーター音が続く。

――うぃぃぃぃぃぃん……

……8……

7……

6……

5……

4……

階数ランプが徐々に下ってくる。

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 彼女はイラつきながら俯いて、

コンクリートの床の上に落ちている

タバコの吸い殻の数を数えだす。

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 やっとモーター音は間近に近付いてきた。

そして、暗いエレベーターホールに明かりが

差し込み、扉が物々しく開いた。

「ゴトン!……ガーーー……」

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 足元から正面に目線を移した瞬間、

彼女はドキリとした。

そこには管理人のおばさんが、

ゴミでパンパンの黒の半透明のゴミ袋を

床に置いて、いつものピンクの

トレーナー姿で立っていた。

「あら」

おばさんは少し驚いた顔をしたが、

すぐにいつもの優しい顔になり、

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「こんばんは。いえね、ゴミを前の

晩に出しておこうと思ってねえ。

朝出すのも大変ですものね……」

と言いながら、

ゴミ袋を引きずるようにしながら、

エレベーターから出ようとしていた。

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「あ、手伝いましょうか」

美菜子が手を貸そうと、

ゴミ袋に近づこうとしたときだった。

彼女の背中に冷たいものが走った。

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 美菜子は見た……

ゴミ袋の中にある生ゴミに紛れて、

スキンヘッドの男の横顔が見え隠れするのを!

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 凍り付いて立ち尽くす彼女の横を、

「それじゃあ、また」

と言って、おばさんはゴミ袋を

必死に引きずりながら、

エントランスの方に向かって行った。

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 上がっていくエレベーターの中で、

美菜子は考えていた。

――確か、

ゴミ捨ての日は明日ではなかったはず。

もし昨日の9階で止まっていたエレベーターも

管理人のおばさんだったとしたら……

おばさんは、ご主人が昨日からいない、と

言っていた。

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 美菜子は管理人のおじさんの顔を、必死に

思い出そう、としていた。

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@blue_east 様
コメントありがとうございます。
この後ですか……う~ん……ご想像にお任せします(笑)

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