中編2
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美菜子とエレベーター2

――あれ?こんな時間に誰なんだろう?

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wallpaper:928

 深夜二時過ぎ。

赤いドレスの上から革のハーフコートを

羽織った美菜子は『9』で灯っている

階数ランプを見ながら『🔼』ボタンを押した。

――ゴトン……鈍い金属の衝撃音の後、

軋むようなモーター音が続く。

――うぃぃぃぃぃぃん……

8……

7……

6……

5……

4……

階数ランプが徐々に下ってくる。

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 頭上にある剥き出しの蛍光灯に

狂ったようにぶつかっている黒い蛾を

見ながら、彼女は考えていた。

――確か9階は管理人夫婦しか住んでなかった

はずだけど、こんな時間にどうしたんだろう。

美菜子は小太りで人の良さそうな管理人の

おばさんと、頭の禿げ上がったご主人の

濃い顔を、ふと思い出した。

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 モーター音が間近に迫り、やがて、

エレベーターホールに明かりが差し込み、

金属の箱は到着する。

物々しい音とともに、ドアが開いた。

美菜子が視線を、天井から正面に移したとき

だった。

彼女の背中に、何か冷たいものが走った。

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 エレベーター内正面の姿見の前に、

ピッタリくっつくようにして、

ピンクのトレーナー姿の小太りの女が

背中を向けて立っている。しかも、

右手に重そうなハンマーを、

ダラリとぶら下げて……。ハンマーの先端には、

血がベットリと付いており、床には、小さな

血だまりが出来ていた。

それは、管理人のおばさんだった。

おばさんは目の前の姿見に向かって、

ひたすら低い声で、同じ言葉を繰り返している。

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「許さない……許さない……許さない……許さない……許さない……許さない……許さない……許さない……許さない……許さない……許さない……許さない……許さない……許さない……許さない……許さない……許さない……許さない……許さない……許さない……許さない……許さない……許さない……許さない……許さない……許さない……許さない……許さない……許さない……許さない……許さない……許さない……許さない……許さない……許さない……許さない……許さない……許さない……許さない……許さない……許さない……許さない……許さない……許さない……許さない……」

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 そしてゆっくり振り返ると、サンダルを

履いた足を床に擦りながら、歩き出した。

「ヒッ!!……」

美菜子は思わず後ろ側に、尻もちをついた。

焦点の定まらない眼で微笑みながら、

おばさんは、床に座り込む美菜子の横を、

ゾンビのように通り過ぎていった。

ポタポタとハンマーの先端から血を落とし、

先ほどの言葉を呪文のように繰り返しながら。

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