中編3
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ネカフェ

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 先日、友人たちと忘年会も兼ねて、

隣町の繁華街で久しぶりに飲んだ。

地下鉄の改札を出たところで待ち合わせし、

一軒目、二軒目と飲み明かし、

三軒目を出たとき、皆と分かれた。

飲み足らなかったから一人で、さらに

もう一軒行ったのだが、店を出たとき、

時計を見て焦った。

一二時を過ぎている、終電終わってるじゃん。

─やばいなあ……始発まであと五時間はあるぞ

財布に金もあまり入ってなかった。

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 途方に暮れて、

怪しげなネオン瞬く路地を歩いていると、

古びた雑居ビルが忽然と現れた。

ビル袖には飲み屋の看板が、

縦にズラリと並んでいる。

エントランスの辺りに、

「格安ネカフェ!」というのぼり旗を見つけた。

─そうだ!ここで

朝までゴロ寝したらいいんだ。

俺は少し足をもたつかせながら、

ビルの中に入って行った。

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 がたつくエレベーターで四階まで上がると、

目の前に受付カウンターがいきなり現れた。

顔色の悪いスタッフの兄ちゃんの

要領を得ない説明を聞き、登録を終えると、

受付票をもらった。

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人が一人通れるくらいの薄暗い廊下の両脇に、

ズラリと個室が並んでいる。

受付票に書いてある番号の部屋を見つけ、

扉を開けた。

身長ほどの壁に区切られたスペースは

畳一枚分くらいで、

黒いマットが敷かれている。

正面奥に机があり、その上に

デスクトップパソコンが乗っかっている。

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扉はスライド開閉式なのだが、

ほとんど目隠し程度で、上からも下からも

中が覗ける。上着をハンガーに掛け、

スリッパに履き替えると、

ドリンクバーのコーナーに行った。

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─カチ、カチ、カチ……

長そでトレーナーのオタクっぽい兄ちゃんが

舌打ちしながら、スープバーのボタンを

何度も押している。

銀縁メガネの奥からこちらを、チラリと見た。

俺はコーヒーを入れてから、カップを片手に、

また部屋に戻った。

しばらくマットに座り、

パソコンで映画を観ていたのだが、

途中つまらなくなり、

電源を落とし、ゴロリと横になった。

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 どこからか、微かにBGMが聞こえてくる。

両隣は誰もいないのか、音がしない。

とても静かである。

時間はもう、一時になろうとしていた。

俺は机の下に足を突っ込むと、

毛布にくるまり目を瞑った。

……

少しウトウトし出したときだった。

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shake

─ドン……ドン……

頭の上辺りから、扉を叩く音がする。

びっくりして目が覚めた。

─全く、誰だよ……

眠たい目を擦りながら半身を起こして、

後ろを振り返る。

……ドキリとした。

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 扉の隙間から、

季節外れの白いワンピース姿の女が

きちんと足を揃えて立っているのが見える。

扉で顔は見えないが、子供ではなさそうだ。

俺は少しビクつきながら、

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─部屋、間違えてないですか?

と、小声で言った。

すると女は無言で、

隙間の右端にスーッと消えていった。

俺は念のために、

机にある受付票の番号と

部屋の番号を確認する。33番。

─間違いない。

首を傾げながら、再び毛布を被り寝た。

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 しばらく寝付けなかったが、やっと微睡んで

きたときだ。

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shake

─ドン……ドン……

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 頭の上からまた、扉の音がした。

─……ったく、またかよ……

乱暴に半身を起こし、後ろを振り返った。

また、さっきの女が立っている。

「いいかげんにしろよ。部屋違うだろ!」

今度は少しキツメに言った。

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「……」

すると扉の向こうから、

微かに声が聞こえてくる。

「あの……そこに、娘はいませんか?」

扉の下の右端から青白い女の顔が覗いていた。

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「ヒ!!」

俺は上半身を起こし、机の方に倒れ込んだ。

すると腹の辺りに

何かモゾモゾとした違和感を感じる。

うつむくと、そこには、

つぶらな瞳で笑う女の子の白い顔が

あった。

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shake

「うわああああ!!」

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 俺は必死に足をばたつかせ立ち上がると、

無我夢中で上着を摑み扉を開け、

薄暗い廊下をドタバタ走る。

カウンターで会計を済ませ、

急いでエレベーターに乗った。

よろめきながらビルを飛び出すと、

まだ夜の明けきれない繁華街を、

ひたすら無心に走り続けた。

 

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