短編2
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蛇口

勤務先が変わったので、前よりかなり田舎町にある中古の一戸建て住宅に引っ越してきた。

不動産屋のお兄ちゃんが言った通り、この集落の住民たちはみな親切で、よそ者の俺を快く迎えてくれているようだ。

いつもニコニコしながら犬の散歩をしている町会長さん。右隣りに住む吉田さんはいつも果物をくれる。

向かいのおばさんはといえば、ゴミ出しのルールや、この辺りの風習などをとても丁寧に教えてくれたりして、とにかく皆んなニコやかで優しい人たちばかりだ。

少したって仕事にもずいぶんと慣れた頃、久しぶりにゆったりとした気持ちで目が覚めたので、俺は庭の掃除をする事にした。

玄関前、庭を一通り綺麗にして、せっかくだから裏にもまわって落ち葉なんかを拾おうかと、ほうき片手に狭い通路を歩いていく。

すると、エアコンの室外機のすぐ隣りに、壁から一本の蛇口が生えているのに気づいた。こんな変な場所に蛇口があっても使い勝手が悪いだろうなんて思いながら、狭い場所で中腰になり蛇口をひねってみる。

最初、こーーっと空気の抜けるような音がして、そのすぐ後にゴポゴポと黒い液体が流れ出てきた。

思わずその場を飛び退き、改めてその液体を凝視する。今いる場所は昼間とはいえど陰になっていて暗いため、それのはっきりとした色や成分なんかは分からないけれど、まず一目で水ではないし、余りにもドロドロしていて汚水という感じでもない。しいて言うなれば、血…?

そう直感が走った時、背筋に強烈な視線を感じて俺は考える間もなく後ろを振り返った。

すると、ここから一段上がった道路にご近所さん達が並んで立っていた。そのどの顔にも表情はなくて、いつもの笑顔はなんとやら、感情のない冷めた目でジッと俺を見つめている。

俺は一瞬の間を置いてからこんにちはと小さく声をかけたが、それを聞いた瞬間、町会長さん以外の人たちは皆、無言で視界から消えてしまった。

残った町会長さんが神妙な顔で「何か見ましたか?」と聞いてきたので、思わず足元の蛇口を指差すと、なぜかそこに蛇口はなく、鉄製の錆びついた蓋が壁に嵌め込まれているだけだった。

町会長さんは「あなたは何も見ちゃいない、気のせいですよ。ほら、今は◯◯の時期ですから」

そう言うといつもの笑顔に戻り、帰ってしまった。肝心の部分が聞こえなかったのが腑に落ちなくて残念だが、俺はさっき見た血を吐きだす蛇口は、言われた通り何かの幻だったと思う事にして、そうそうに掃除を切り上げた。

あれ以来、家の裏手には一度も足を踏み入れた事はないが、屡々、寝静まった家外からこーーっと、空気の抜けるような音が響くことがある。しかしこれといった実害はないため、気にせず眠るようにしている。

しかしそれがあまりにも頻繁に続くようならご近所さんの迷惑もあるし、一度、町会長さんに詳しく聞いてみるのも良いかもしれない。

Concrete
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珍味お兄様、知らぬが仏、可愛い娘に喉仏。ぼ、僕もそう思います!…ひ…

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