中編3
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ストーカーの話

昔、俺をストーキングしていた女性がいた。

遠距離の恋人だったので探偵を雇うくらいはまだ許せるが、

探偵による(もしかしたら本人だが)尾行に盗撮、ハッキングと、プライバシーの侵害は度を極めた。

あとで調べて知ったが、あの時点で被害届を出せば裁判に持ち込めたようだ。

しかし俺は、薄々彼女が何をしているのか理解しながら、それを理解しないようにしていた。

ごく普通に生活して、ごく普通にストーカー行為を許していた。

俺なりの誠意だった。

まさか信じている彼女がそんなことをしているわけがないと信じたかったし、

いつか、すべて告白してやめてくれると思っていた。

告白は訪れた。

しかしそれは、

「○○で誰々と会ってたでしょ」

「PCで○○とか検索してたでしょ」

など、遠距離の彼女が知るはずの無いものであり、

決定的な瞬間としては、

ある掲示板でコメントをしたところ、

「でもそれは○○なんじゃないの」というような意見を、

いきなり直のメアドに送ってきたことなどだ。

帰宅したすぐ後に玄関で音がして、

見てみると、

その数分前に訪れたコンビニで女性店員と少し言葉を交わした際の、

ポラロイド写真が落ちていた。

これらのことはつまり、

「いつでもお前を見てるぞ」

というメッセージだった。

こういうことは何度もあった。

特にネットに関しては、

異性かどうかもわからない掲示板でのやりとりでさえ、

相手が女性らしいというだけでその瞬間に

「そういうのやめて」

とメールが来た。

リアルタイムのハッキングか、あるいは、

部屋にPC画面を捉える中継カメラが仕掛けられていた。

そんな馬鹿な、と思うだろう。

俺もまだ信じられないが、けれど他に考えられない。

有り難いことに今ではもう交渉は無いが、

どうしても不安が消えない。

一度プライバシーのすべてを盗撮・監視された経験がある人ならばわかるはずだが、

もう二度と、引っ越したってどこにいたって、もう地球上に、心が安まる場所は無い。

そしてそれがあのストーカーの狙いだったのだと思うと、

悔しい。

とても悔しい。

最初の頃はほんとうに愛し合っていたはずなのに、

人殺しのような方法で心を傷つけることに、

どうして躊躇が無くなってしまったのか?

対抗策としてこちらもネットで検索くらいはしてみる。

彼女は今は、どうやら○○あたりにいる。

復讐のために実名を晒してもいいが、

そんなことをすれば彼女と同様のストーカーになるのでやめておく。

これがギリギリの譲歩であり威嚇だ。

もうこちらに興味は無いであろう、幻の敵への、悲しい威嚇だ。

というのもどうやら彼女は、

俺の職場に電話して不当な風評を流していたのである。

信じられないことよりもおそろしいのは、

信じたくないことなのだ。

そこまで卑怯でそんなに卑劣なことをまさかするわけがない、という思い込み。

俺はつけこまれてしまった。

今でも見られている気がする……。

もうやめてくれ。

Concrete
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@珍味 様
若干の誤魔化しは入れましたがほぼ実際の通りです。
ある一面ではいわゆる痴情のもつれみたいな話でもあるのでこちら側の醜さまで描かないとズルいんですが、
そこまでやるにはまだまだ時間がかかりそうです。

今回は陰鬱なだけになってしまってw
でもコワバナでネタに出来たんだから良かったです。
次のお話はちゃんと楽しめるように努めますのでまた来てくださいw

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