中編5
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人喰いコタツ

今回のお話は就職二年目の春に起こった事件です。

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「だれかたすけて~」

どこからか助けを求める声が聞こえてきました。

「えっ、何かあったんでしょうか?」

私はそのとき取引先の事務所で先輩の黒川さんと一緒に打ち合わせをしていました。

「あっ、気にしなくていいですよ、いつものことですから」

私達と打ち合わせをしていた事務員の藍さんはこともなげに言い放ちましたが、さすがに気になった私達は声の聞こえてきた事務所二階の住居スペースに上がってみました。

すると、リビングに置かれているコタツから頭だけを出して女の人が寝ていました。

「どうかしたの、えっちゃん?」

コタツに潜って寝ていたのは、今は出産後で仕事を休んでいる事務員の絵梨花さんでした。

「あっ、瑞季さん、たすけてください、夕飯の買い物行かないといけないんですけど、コタツから出られないんです」

藍さんが気にしなくていいといった理由が分かりました。

「ちょっと絵梨花さん、確かに今日はちょっと寒いですけど、もう四月ですよ、何でまだコタツがあるんですか?」

「何言ってるのよ、五月ぐらいまでは寒い時があるの!」

なぜそんな自信たっぷりで反論されなければならないのか分かりませんでした。

「でも、コタツに入ったままじゃだめでしょう」

黒川さんもたしなめるように口を開きました。

「瑞季さん、私はコタツに食べられちゃったんです、だからもう自力では出られません」

人はここまで堕落することができるのかという恐怖の実例を目の前で実践されているようでした。

「そう言えば・・・コタツで一つ思いだしたお話があるんだけど・・・」

ため息をついた黒川さんは一つのお話を語り始めました。

それは彼女の高校時代のお話でした。

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私の高校では校舎の一番奥に開かずの宿直室と呼ばれる和室がありました。

私は高校で茶道部に入っていましたが、茶道部が使う和室は書道部などと共同で使用していました。

部活動に使用する和室は不足しているのに、くだんの和室はどこの部も部室などとして使っていないので、私は不思議に思っていました。

そこで茶道部の先輩に聞いてみると、あの部屋は『出る』という返答が返ってきました。

先輩はにんまり笑うと詳しく説明してあげると言ってその宿直室に向かって歩いて行ったので、私もそれに付いて行ってみました。

その宿直室に着くと入り口は古い掛金錠で閉じられていましたが、木製の扉からは錠の片側が外れていました。

「ふふ、この前、偶然鍵が壊れてるのを見つけたのよね、すぐに先生が直すみたいだけど、今ならまだ中を覗けるわよ」

先輩に導かれるままにそっとその和室に入ってみるとさすがに何年も使われていないせいか埃っぽかったですが一見して中は至って普通でした。

しかし、その時部屋の中のある部分に目が止まりました。

「・・・もしかして、あのコタツですか?」

私は恐る恐る先輩に囁きました。

「えっ、なんでわかったの?」

先輩は甲高い声をあげて取り乱しました。

私は世間でいうところのいわゆる霊感の強い人間でした。

そのため、幽霊と呼ばれる存在が私の目には視えていました。

「いえ、そのコタツから手が・・・出ています」

明らかに生きた人間のものとは思えない真っ白い手が蛇のようにコタツの中から伸びて私達に向かって手招きをしているのが見えました。

「ちょっともう黒川さん洒落になんないよ!」

おそらく私を怖がらせようと思っていたであろう先輩は逆に動揺しながら部屋を飛び出しました。

そして、茶道部の和室に戻るとようやく落ち着いてあの部屋のことを話してくれました。

先輩の話によると、昔冬休みにある女生徒が部活中行方不明になったそうです。

当初、同じ部活の部員たちは寒さからその女生徒が勝手に帰ったものと思っていたようなのですが、夜になって女生徒の家族から娘が戻ってこないと通報があり、警察も出動しての捜索となりましたが女生徒は見つからず、結局冬休みが終わった後、あの部屋の掘りコタツの中で死んでいる女生徒が発見されたようでした。

警察も事件と事故の両面で調べたのですが、最終的には部活をさぼってあの部屋のコタツの中で寝ていた際に心臓発作などで死んだのではないかと結論付けられました。

「けどね、コタツに入ったまま死んでいたから、冬休みが終わって発見された時には掘りゴタツの熱でとろけてほぼ白骨化してたそうよ」

先輩は声を潜めました。

事件のあと、あの和室の堀りゴタツは床板ごと取り替えられたようですが、私が見たのと同じ手招きする手がコタツから伸びているのが目撃されたり、コタツに入っている時に足を掴まれたりという事例が相次ぎ、最終的には開かずの間になってしまったということでした。

「もう私あの部屋には絶対入らないけど、いまだにあのコタツの中にいるのかと思うと、その死んだ女の子もかわいそうだね」

「・・・そうですね」

私は悲しそうな表情をする先輩に相槌を打ちましたが、私が見たあの白い手のことは怖がらせてもいけないので説明はしませんでした。

私が見たコタツから伸びる白い手は女性の手ではなく明らかに男のものでした。

あのコタツで死んだのが女生徒だったという情報が間違いなのか、それともその女生徒があの男の手で引きずりこまれたのか・・・

溶けて骨になる・・・まるであのコタツが女生徒を食べてしまったようにも思えました。

気にはなりましたが、あのコタツ布団の中をあえて確かめる勇気は私にはありませんでした。

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黒川さんが話を終えると絵梨花さんはそっとコタツ布団をめくって中を確認するとすごすごと出てきました。

「瑞季さん、なんでそんな怖い話するんですか、コタツに入れなくなるじゃないですか!」

目を見開いたまま、黒川さんの怪談に自失していた絵梨花さんはひび割れた声をあげました。

「どう、コタツで火照った頭はちょっとは冷えた?」

眉をしかめた黒川さんの優しい注意を受けて、絵梨花さんの顔は表情を失っていきました。

そして、ようやく自分の晒していた醜態に気づいたのか、身を縮めて小さくなりました。

「す、すいません、冷えました」

「そう、じゃあ、いい機会だからコタツ片付けよっか」

黒川さんはにっこり微笑みました。

絵梨花さんが申し訳なさそうに頷くと、私達は一緒にコタツ一式を片付けました。

片づけが終わって、コタツ布団をしまっている絵梨花さんを見つめながら私は呟きました。

「それにしても、絵梨花さんがコタツに食べられるなんて言ったところからうまく話を繋げましたね」

「うまく話を繋げた?」

絵梨花さんの様子に笑みを浮かべていた黒川さんでしたが、私の口からそのセリフが飛び出た瞬間、余裕の表情が消えました。

「ふふ、私は嘘なんて言ってないよ、コタツは人を食べるよ」

彼女の両眼に名状しがたい禍々しい光が灯ったように見えました。

「コタツは人の体だけを食べるんじゃないの」

氷の刃のような表情で私に告げました。

「コタツはね、最初に人の心を食べるのよ」

冗談なのか本気なのかも読み取れない彼女のその哀しげな声には多少の感傷の色が混じっていたのかもしれませんでした。

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はと様、インフルですか、大変でしたね。
うちも昨年末に子供が発症して実家に帰るわけにもいかないので家の中で隔離しました。
とはいえ、看病するので隔離はあまり意味がないかもしれませんが、幸運にも他の家族はうつらず、回復して新年を迎えることができました。

ああ、古典落語、なるほどですね。
あの系統のニュアンスは好きかもしれません。
先日スーパーでフグの肝臓を売って問題になったことがありましたが、本当に不謹慎だと思うのですが、スーパーの責任者が「今後はこのようなことを起こさないように肝に銘じます」とか言ったらおもしろそうだなあと妄想していました。

コタツ良いですよ、子供も学校に行く前に出てきません。
ですから反対側に回って足首をつかんで引っ張り出します。

さて、次話はといいながら・・・前回繭ちゃんのお話しと書いておいてこのお話になりました。
次は・・・う~ん、次はですねえ、次回も黒川さんのお話しを書きたいと思っています。
でも、そう言いながら藍さんのお話を投稿するかもしれません、やはり予定は予定です。

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