中編4
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特殊体質

私には人に言えない力がある。

力といっても実は腕っぷしが強いとかそういう事ではなくて、怪我を自然治癒する力が人よりも断然強いのだ。

この力に気づいたのは今でもはっきりと覚えている、七歳の時だ。

田舎に帰郷した際に、従兄弟と遊びまわっていたところ、大きな大木の前に出た。

後から分かった事だが、その大木は何百年も前からここに生えている御神木で、何人も絶対に触れてはいけないと言われている神聖なものだった。

そうとは知らない私たちは柵を乗り越えて、木の周りの土を掘り返したり、あろう事か、木肌に石で自分の名前を彫ったりして遊んだ。

夕暮れが迫り、そろそろ帰ろうかと思った時、私は木の根につまづいて盛大に転んでしまった。

その時に、先ほど木肌を傷つけていた石で膝を打ち、パックリと肉が割れて骨が見えるくらいの大怪我を負った。

泣き叫ぶ私を見ておろおろとする従兄弟。

しかし私は泣きながらも不思議に思った。血はダラダラと流れているのに、患部からの痛みを全く感じないのだ。痺れもなく、全くの無痛。

泣き止んだ私をみて従兄弟も駆け寄ってきた。そして私の膝を見て大声を上げた。

パックリ開いた傷口がみるみるうちにくっ付いていく。そしてあっという間に傷口は元どおり綺麗に塞がってしまったのだ。

私たちは子供ながらに、神様が直してくれたんだなどと勝手な解釈をして、今日ここへ来た事は誰にも言わずに内緒にしておこうと決めた。

あれから十年が過ぎて、私ももう十七歳になったけど、あの日以来、どんな傷も一瞬で治る身体は継続中だ。

さすがにこの歳になると隠すのにも限界があって、友達の何人かは私の身体の秘密を知っている人間もいる。

皆んなはいいなーって私のある種、この特殊体質を羨ましがる人もいる。実際、私自身もこの不思議な能力に日々感謝し、神様がいつも私のそばで守ってくれているんだという解釈の元にこれまで生きてきた。

これまでは…

昨日、私たち家族は祖母の調子が悪いとの報せを受けて、まさにあれ以来、十年ぶりに両親の故郷を訪れた。

祖母はもうかなりの高齢なので、自宅介護サービスを受けながらの寝たきりになっていたが、まだ頭の方はしっかりしていて、私の事もはっきりと覚えていてくれた。

そして今日、ふと祖母と二人きりになった時、祖母が私をベッドのそばまで呼んで、話しておきたい事があると言ってきた。

「今から大事な話をする。おまえは昔からここにおる猫を知っておるじゃろ?いまあいつはどこにおる?」

「大福の事?今は縁側で日向ぼっこ中だよお婆ちゃん、それがどうしたの?」

「おまえはあいつが何歳だか知っとるかい?」

「んー」

考えた事もなかったが、そういえば私が小さい頃からこの猫はここにいる。その頃からもう子猫ではなくて今くらいの大きさだったから、おそらくこの猫も祖母と同じように、だいぶ高齢だろう。

「分かんないけど、十八歳とかそんな感じ?」

「いやいや、あの猫は推定、百二十歳じゃ。ワシが生まれる前からずっとこの家におる」

「えっ?またまたお婆ちゃん冗談言って。猫がそんなに長生き出来るわけないじゃん?」

「ワシは冗談なんぞ言っとらんよ。なんなら写真もたくさんあるぞい?まあ、信じられんのはしょうがない事じゃが、おまえにだけは、この話をしとかなならんのじゃ」

「私だけには?」

「ああ、この猫はの。百二十年前に、お寺さんの御神木に引っ掻き傷をつけおったんじゃ。

神様は身体を傷つけられて大層怒りなさってな。この猫は皆の見せしめに罰を受ける事になったんじゃ」

「罰?」

祖母の次の言葉を待つ間、私の心臓が早鐘を打つようにドンドンと鳴り響いた。

「死ねない身体じゃ」

私は思わず言葉を失った。

「思い当たる事があるかい?そう、おまえと同じじゃ。

おまえはあの時、御神木に傷をつけてしもうた。おまえの母親にはあれほどあそこには近寄らせるなと言うておいたのに。

残念じゃが、おまえは破ってはならないルールを破ってしもうたんじゃ」

「そんな…」

「おまえの傷の治りが早いのも、成長が人より遅いのも、それは全て神様から受けた罰のせいじゃ。

おまえもあの猫と同じ。どんなに年老いても永遠に死ぬ事ができん。これがどういう意味かわかるか?」

祖母の話は続き、私はこれから先の大変な自分の未来を知る事となった。

もちろん過去に猫を救うため試行錯誤を繰り返しながら、御神木を崇め誂えたり色々と手は打ってきたらしいのだが、今のところ効果は全くないとの事。

祖母の言った事は現実離れした内容だけど、それなら、七歳から私の身体に起こり続けている事も現実ではまずあり得ない事だ。信じるなと言われても信じざるを得ない。浮かれていた自分が情けない。

私は死ねない。

知っている人が全員この世からいなくなっても私は死ねないのだ。

それがどれ程恐ろしいことか、今の自分では漠然としか考えられないけれど、おそらくこの先、それをいやと言うほど思い知る事になるだろう。

永遠に。

死にたくても死ねない。

縁側で日向ぼっこをしていた黒猫の大福が、こっちを見て私と目が合うなり、にゃんと欠伸をするように鳴いた。

「ああそうか、そうだったね。おまえはこれから先も、ずーっと私と一緒だね」

絶望に駆られた胸の中の霧が、少しだけ晴れた気がした。

Concrete
コメント怖い
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作品を読ませて頂きました。
終わらせ方がいいと思いました。

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