その人は私の過去を追ってきた(後)

短編2
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その人は私の過去を追ってきた(後)

転載です。(ちょっと創作)

夢の中で従姉妹は中学生になっていた。

記憶にある通り、吹奏楽部の練習に参加していた。

顧問のピアノに合わせて、トロンボーンを構えた。

深く息を吸い込んだまま、従姉妹は凍り付いた。

ピアノの前に座っていたのはあの女だった。

狂ったように鍵盤を叩き、顔だけは従姉妹を凝視していた。

女の顔ははっきり見て取れた。

異様に白い肌、細い目、高い鼻筋、真っ赤な口紅が塗られた唇を大きく広げニタニタ笑っていた。

そこから覗くのは八重歯で、口紅だろうか赤く染まっている。

不揃いな黒いロングヘアが女の動きに合わせ激しく揺れた。

汗だくで目覚め、従姉妹はあることに気づいた。

私は夢の中で成長過程を辿っている。

始めは幼い頃、次は小学生、今は中学生だった。

もしかして、女は私の記憶を追ってきているのではないか。

その仮説は正しかった。

眠るごとに夢の従姉妹は成長し、女は必ずどこかに現れた。

あるときは見上げた階段の上から、あるときは電車の向かいの席で、あるときは教室の隣りの席から。

従姉妹はここに至ってもうひとつの法則に気がついた。

女との距離がどんどん縮まっている。

いまではもう女の三白眼も、歯と歯の間で糸を引く唾液もはっきりと見えるようになった。

従姉妹はなるべく眠らないように、コーヒーを何杯も飲み徹夜した。

しかしすぐ限界がくる。

女は、昼に見る一瞬の白昼夢にも現れた。

そしてとうとう現実に追いついた。

そこまで話すと、従姉妹はうなだれるように俯き黙った。

黒い髪がぱさりと顔を覆い隠す。

すっかり聞き入っていた俺は、早く続きを知りたくて急かした。

催促する俺を上目遣いで見て、従姉妹はゆっくりと笑った。

「だから現実に追いついたって言ったでしょう」

そう言ってにやりとした従姉妹の口元は、八重歯が生えていた。

もともと八重歯は生えていた。

怖い話投稿:ホラーテラー ミスターXさん  

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