長編6
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逃げる:1

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去年の冬の頃だったと思います。この日は休みで特に予定もなく自宅で本棚の整理をしていました。本を読むのも集めるのも好きで、部屋には沢山本が置いてあるんです。一か月に一度位のペースでこうして整理をするんです。ジャンル毎に並べたり出版社で並べたり、表紙の色で並べたり本の大きさで並べたりとかね。

一通り整理が終わってやることがなくなったんで映画を観に行くことにしたんです。友人を誘おうかとも考えたんですが、平日だしきっと仕事があるだろうと思って一人で行くことにしました。

ベランダからみえる外は曇り空でどんよりしていました。雪が降りそうだなと思いましたね。

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家を出てエレベーターのボタンを押すと、隣の部屋の人が後ろからやってきました。

ドアの開閉の音や鍵をかける音が聞こえず、突然後ろに現れる感じになったのでかなりびっくりしました。

その人はいつも夜中か早朝しか見かけなくて、どんな仕事をしているのか分からないんです。全身黒ずくめで背が高くて顔の表情も怖いんです。

shake

「びっくりした...あ、すいま..すみません。こんにちは」

「...こんにちは」

エレベーターに乗るとき、その人から独特な匂いがしました。嗅いだことのない香水のような高級な煙草のような匂い、決して厭な匂いや臭い匂いではないんですよ。

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一階に到着したんで<開>ボタンを押して待っていたら、後ろで腕組して立ってたその人が横を通りました。

「ありがとうございます」

その人、一瞬微笑んだんです。人形をじっと見つめていると、人形が笑ったような気がするときってありませんか?あの現象が起こったんです。相手は人形ではなく人間なんですけどね。

何故かそれをみて寒気がしたんです、後ろ首から氷を突然入れられた時の様でした。金縛りみたく動けなくなりましたね。目はその人から離せないんです、全然動かせない。

いやあ怖かったです。

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映画のチケットを買って開演時間まで30分位あったので映画館周辺で時間を潰しました。

本屋を見つけて、そこで本を漁っているうちに時間はあっという間に過ぎました。

何かに没頭している時って時間が過ぎるのが早く感じますよね。

映画館まで歩いていると妙な匂いがしたんです。匂いをたどってみると、自分のコートから匂っていたのが分かりました。一緒にエレベーターに乗ったあの人の匂いが付いてたんです。ぶつかったりしていないのに、コートに匂いが付くことってあります?あの人香水どんだけつけてるんでしょうね。

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music:7

映画を観終わった頃、外は真っ暗でパラパラと雨が降っていました。雨といっても小雨の中の小雨だったので傘を買わなかったんです。道行く人達も傘をさしていませんでしたし、まあ大丈夫だろうと思っていました。

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さっきまで小雨だったのがだんだん小粒位の大きさになっていって、少しずつ寒さがこたえてきました。マフラーを巻きなおして手をポケットに入れて歩いていました。

いつも使う近道ではなく別の道を歩きたくなって、帰りのルートを変えて行きました。すると、だんだんと暗い道になっていったんです。全く知らない道ではないんですが、夜は歩いたことがなかったので少し不気味でした。左右に店が並んでいるんですけど、殆ど閉まっていたり怪しい店ばかりでした。

数メートル先に曲がる道が見えて、そこを目指して歩いていると急に横から人が現れたんです。

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shake

ざざざっ

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ゲームに出てくる敵の様に横からスライドして出てきたんです。そいつは道の真ん中に仁王立ちして両手を広げて立っていました。その横を通ろうとすると目の前に立ちはだかるんです。右に動けば右に、左に動けば左に動く。だんだん頭にきて、そいつに言ったんです。

「すみません、通りたいのでどいてくれませんか?」

そう言って横を通ろうとしました。

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「おっとっと...おっとっと...」

また目の前にやって来る。通らせない気なんだなと思いまして、反対の道に行こうと後ろへ振り返ったんです。

「おっとっと...おっとっと...」

また両手を広げて立っていたんです、同じ人物が。服装は今時の若者風でラッパーが好きそうな帽子の横に変な紙が幾つもついていて、変な帽子だなと思いました。顔は良く覚えていません、老けていたような若者だったような。

フェイントをかけて横を通ろうとしても無駄でした。バスケのディフェンスとオフェンス状態、何度も同じことを繰り返すだけで現状を突破できません。

「いい加減にしてくれませんか?どうして邪魔するんですか?大声出しますよ」

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music:2

「むふふ..むふふ...ゆびくれや」

「はい?」

始めはそいつがなんと言っているのか分かりませんでした。

「ゆびくれや...ゆびくれや...」

「ゆび?ゆびって何ですか」

「ゆび...ゆび...ゆび」

そいつは左右に広げている指をばらばらに動かしだしました。見た目に反して細かくて滑らかに動く指が気持ち悪かったです。そこだけ違う生き物の様な。

そいつは指の事を言っているんだろうなと、ぼんやり考えていました。

雨は強くなってきてコートも髪もびしょ濡れ、そいつだけが何故だか濡れていませんでした。

小さい街灯の明かりが寂しくてこっちも寂しい気持ちになってきて、自分が今どこに居るのか分からなくなりそうでした。

その時、またあの妙な匂いがしてきて、頭が現実に戻ってきたんです。

頭が冴えてきて、視界がクリアになった気がしました。

「ゆびって、この指ですか?指は渡せません」

「ゆび...ゆび...おめーのゆびくれ...ゆび...」

「他ので勘弁してください」

左ポケットに入っていた千円札3枚を取り出し、そいつに手渡そうと顔の前に見せたんです。

金を渡せば通してもらえると思ったんです。金が欲しいから変な事を言ってるんだと、そう思ったんですよ。

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shake

ガシッ!

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music:6

「ゆび!ゆびいいいいいいいい!」

そいつは札を握った左手をぐっと掴んでそいつの顔に近づけたんです。そして...その指を...口に入れたんです。

shake

「馬鹿野郎!触るんじゃねえ!」

反射的にそいつの腹を思いっきり蹴って間を取りました。

自分の指をみるとうっすら歯型が付いていました。噛まれる前に指を引き抜いたつもりなんですけど、噛まれてました。そいつの唾液みたいなのが指について、ヌラヌラ光ってて気持ち悪い。目の前の相手は再び両手を広げてぶつぶつ言ってました。

腹を蹴られたのに、けろっとしてました。

「ゆび...ゆび...ゆびくれ...」

逃げようとしたのを察したのか、じりじりと近づいてきました。大股で後ろに下がると、大きくジャンプしてやってくる。後ろを振り向くとまたそいつが立っている。

体が芯まで冷えてきて身体が震えだしました。これが寒さの為なのか怖さのせいなのか、どれなのかは分かりません。

そいつに指を見せないようにポケットに入れました。

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ゴソゴソ...ギギ...ジャリ...

右ポケットに小銭があるのに気が付きました。それを右手で掴んで握りしめました。

ギリィ..

立ったまま動かないでいると、そいつはこっちに向かって大きくジャンプしてきました。

この時、右手に握りしめた小銭をそいつに向かって渾身の力と恨みを込めて投げつけたんです。

shake

「ぶっ!ぶふあああ!」

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music:7

小銭は相手の顔に命中し、奴は一瞬怯んだんです。その隙に奴の横をすり抜けて猛ダッシュ。

息が切れそうになりながら必死に走りました。顔に雨が突き刺さり、空いた口に雨粒が入ってくるのも無視して必死に走りました。学生の頃陸上部で走っていて良かったと初めて思いました。

もしこのとき体が鈍っていたら確実に捕まっていたと思います。

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どれ位走ったかわかりませんが、やっとの思いで人通りのある通りに着いて、コンビニに入って缶コーヒーとライターを買いました。

煙草止めたのに、何故だかライターを買っていました。

コンビニの中を少し歩いて息を落ち着かせ、外に出ました。

見覚えのある景色や建物をみてホッとしました。ああ、帰ってきたんだなって。

缶コーヒーを飲みながら自宅に帰りました。明るて人がたくさんいる道を選んで帰りました。

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次の日の朝になって奴に噛まれた左指をみたんですけど、噛み痕がくっきり残っていました。昨晩よりも、その痕が濃くなっている様にみえたんです。本当、気持ち悪いです。

もう二度とあんな道通りたくありませんね。

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まだ、他にも話があるんですけど...聞いていきますか?

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ピエロは危険な人が多くいます。
暗い夜道も危険な場所だな、

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