短編2
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命乞い

「お前さ、ズルしただろ。そういうの俺、許せないんだよね」

「た、助けて。そんなつもりなかったんだ」

「いや、ぜってー許さない。だって、お前、ズルしたんだから」

「た、確かにそれは認める。だけど、結局あんたの損にはならなかったじゃないか。だ、だから許してくれ」

「もう、結果とかじゃないんだよね。俺に対してズルをした。それだけで、万死に値する」

「うっあああ、やめて、やめてくれ。うああっ、い、痛い、や、やめて」

「汚いなあ、よだれ飛ばすなよ。ってか、すっげえこんなに長く糸ひくよだれ初めて見る。ははは」

「や、や、めて、くださ、い。たすけ、て、ください」

「やなこった。ははは、お前、尻尾おっ立てた犬みたいになってんぞ。ほんとは嬉しいんだろ。ほら尻尾振れよ。俺が振ってやろうか。ほれ、ほれ」

「うぎゃああ、痛いーーっ。やめ、やめ、う、動かさないで」

「なんだよ。弱っちいな。弱い犬はさ、尻尾下げとくもんだぜ、っと」

「うぎゃあああああ」

「マジ、すっげえよだれ。ほんとは、お前気持ちいいんじゃないの? ははは、キモイんだけど」

「も、う、や、やめてくだ、さい。すみま、せんでした。他のこと、何でも、しますから。これ、は、もうやめてくださ、い」

「やだね。やめるつもりない」

「う、うっうっううー」

「なに? 人間様みたいに泣いてんの? 犬はさ、クーンクーンって鳴くんだぜ。ほら、尻尾下げて鳴けよ。もっかい下げてやるからさ。ほら」

「うっがああっ。クーン、クーン。おねがい、やめ――」

「あーあ、情けないなあ。ズルしてさ、俺を出し抜こうって考えんならさ、もっと根性だせってーの。鉄パイプ、ケツの穴に突っ込まれてもひいひい喜ぶぐらいの見栄張れよ。どうしようもねえクソ野郎だな」

「はい、クソ、やろう、です。だから、もうやめて、ください。そ、それ、抜いて、ください」

「は? これ抜けって? お前、俺にクソ野郎のクソの臭い嗅がせようってーの? あーーーっもうマジで許せねえ。おらっ、おらっ、おらっっ」

「うぎゃあああああああっ――」

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 猛暑日が続いた夏の日、放置されたままのゴミコンテナの中で男の死体が発見された。

 死体の腐敗は進み、顔や身体的な特徴からの身元が判別しにくい状況にあった。もちろん、身元が分かるものも一切身に着けておらず、殺人死体遺棄事件として捜査本部が設置された。

 検死結果で、男の体内に一本の鉄パイプが埋め込まれているのが判明、猟奇的殺人として世間は騒いだが、これはちょっとズルをした結果であり、被害者が必死に命乞いをしたのは誰も知らない。

Concrete
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