中編6
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忌子~後日譚~

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この話は前作「忌子」の後日譚であり、今回は作者(セラ)がメインです。

前作から読んで頂ければ、より分かりやすくなるかと思います。

私は物心つく頃には、普通に霊が見えていました。

話したりできることもあれば、知らず知らずの内に一緒に遊んでいたこともあったり、幼いときはたまに、霊と生きてる人の区別が出来ずに困っていました。

私にとって区別がつきにくい霊は、比較的悪意が少ない霊だったので、母親に心配されたり、友達に興味を持たれる程度で、被害はありませんでした。

ですが、たまに見えてしまう悪霊だけは違います。

あれは完全に別次元の存在であり、会った瞬間に人の本能的なものが警鐘を鳴らすので、嫌でもわかります。

もしも会ってしまったら、幼い頃の私は恐怖に震えながら、目をつむり耳を塞いで、霊が消えるのを待つか、家族が帰るのを待っていました。

ある日、兄が風邪を引き母親が病院に連れていくことになりました。

風邪が移るかもしれないから、私は1人でお留守番をすることになりました。

これまでにも何度かお留守番はしたことがあったので、母親は安心して出掛けて行き、私も1人で遊んだりして、時間を潰していました。

遊び疲れて、段々と眠くなってきた頃、玄関で物音が聞こえました。

母親が帰ってきたのかと思い、玄関に行くと音は何も聞こえません。

郵便だったのかなとも思いましたが、何も届いてはいませんでした。

気のせいだったのかと、また眠りに入ろうとすると、さっきよりも大きな音が聞こえました。

トントンってドアを叩くような音が聞こえてきました。

ご近所さんは用がある時は、チャイムを鳴らすし、母親は鍵を持っているので、ドアを叩くことはしません。

もし鍵を無くしたとしても、チャイムを鳴らすか、家に私がいることがわかる以上、庭から声をかけるとか、ドアを永遠に叩く必要はありません。

「何かおかしい」

そう思った時、ドンドンっとドアを叩く音が大きくなりました。

怖くなった私は部屋のドアも閉め、耳を塞ぎました。

それでもドアを叩く音は止まず、まるで自分が直接叩かれているように錯覚するほど、大きく聞こえます。

「もう嫌、早く終わって」

と何度目かに思った時、あれほどうるさかった音が、ピタリと止みました。

終わったと思い顔を上げると、何かが部屋に向かって歩いてくる音が聞こえました。

もしかしたら母親が帰ってきたのかもしれない、恐怖から解放される喜びのままに、部屋のドアを開けようとしました。

ドアノブに手を触れた瞬間、真冬ではないのに氷のように冷たかったのと、ドアの向こうの嫌な気配に、思わず手を引っ込めてしまいました。

「お母さん」

問いかけに答える声はなく、かわりに今まで以上の大きな音で、部屋のドアが叩かれました。

「もうダメかもしれない」

恐怖に蹲り動けずにいると、ふっと自分の周りに暖かい空気のようなものが満ちるのを感じました。

私を守るように、暖かい空気が満ちていくと、うるさかった叩く音は遠ざかっていき、やがて聞こえなくなりました。

「もう大丈夫かな」

そう思い目を開けると、私は部屋ではなく、眩しい光の中にいました。

私の目の前に、周りよりもさらに眩しい何かがいました。

その何かは私を抱きしめるように包み込んでおり、安心させるように、頭を撫でている感じがしました。

恐怖から解放された安心と心地よさから、私はいつの間にか眠ってしまいました。

目が覚めた時には見知った部屋の中に居り、母親も帰って来ていました。

母親にその時の話をすると、きっとご先祖様が守ってくれたと言い、今度お礼も兼ねて曾祖母の家に行こうということになりました。

曾祖母の家には祖母と母親と私の3人で行くことになりました。

曾祖母の家は過疎化は進んではいるものの、今もなお存在する、のどかな村にあります。

村ではあるが市街地に割と近く、道の駅もあるので、活気はまだあります。

曾祖母は家の中でならまだ動けるが、外出となると何か補助がないと遠くまで歩けません。

たとえ家の中でも、必要な時以外は動かず、座って寛いでいます。

曾祖母の家に着き、まず私がする役目は曾祖母の側に座り、頭を撫でてもらうことでした。

「可愛いね、可愛いね」

そう言いながら曾祖母は私を撫で続ける。

撫でられながら、私はふっと思いました。

あの日助けてくれた、眩しい何かも頭を撫でてくれていたこと。

その何かと曾祖母の撫で方は、愛しそうにそっと撫でる感じや、ゆっくりと撫でる感覚が、とても似ていました。

そんな事を考えていると、祖母と母親も集まり、方言やら訛りやらが混じった会話が始まる。

ここまでくると、私の役目は終わりで、曾祖母の側を離れ、遊びにいく準備を始めます。

暫くは曾祖母の家に居ることになるので、今日は近くの公園を探索することにしました。

大人で片道15分ほどの道のりを、時折スキップしながら、公園に向かいました。

公園に到着し、寂れたブランコや滑り台で一通り遊び、公園周りの探索が始まりました。

綺麗な花を見つけたり、謎の木の実を拾ったり、探索は公園の隅々までする内に、かなり奥の方まで、来ていました。

すると柵に囲まれた沼を見つけました。

手前に看板があり、

「入るな、危険、底なし沼」

と書かれていました。

入るなと言う意味も、危険と言う意味も教わったから分かったが、当時、底なし沼は分かりませんでした。

柵越しに見ると、水はあるけど透き通っておらず、底の方は暗く濁っています。

何か珍しい生き物がいないか見てみるが、遠くてよく見えない。

近くで見たいと辺りを見回すと、一部が錆び付き、壊れかけている柵を見つけました。

少し狭いけど通れそうだなと、入るなの言葉を忘れ、好奇心に任せて潜ろうとした時、

「こら、だめでしょ」

と自分のすぐ後ろから、怒声が響きました。

公園には自分以外の人は居なかったはずなのに、すぐ後ろから声が聞こえたことに驚き、振り向き様尻餅をつく。そして声の方を見上げて、さらに驚きました。

「曾祖母ちゃん」

目の前には曾祖母がいました。

杖も使わずに立ち、私を見つめている。

公園まで車で送ってもらったのだろうか、それなら周りに祖母や母親がいるはずなのに、今はいない。

それに公園の入口から、この場所までかなりの距離があるから、杖なしでは曾祖母は来れないはずです。

なのに目の前にいる曾祖母は、杖を使うどころか、そもそも持っていませんでした。

「本当に曾祖母ちゃん?」

そう問いかけると、

「本当の曾祖母だから、どうして入ろうとしたの」

と言い、まだ怒っているようでした。

「何か珍しい生き物がいないかと思って、おもしろい話が出来れば、あまり動けない曾祖母ちゃんを喜ばせられるかなと思った。」

正直に話すと曾祖母は身を屈め、私をぎゅっと抱きしめました。

「たしかにおもしろい話を聞けば嬉しくなるけれど、何よりもかけがえのない存在はセラちゃんなのよ。だから、危ないことはしないでね。」

「うん、ごめんなさい。」

謝罪しながら、曾祖母に抱きつくと、曾祖母は愛しそうに頭を撫でてくれました。

あの日助けてくれた眩しい何かと一緒でした。

「ねぇ、曾祖母ちゃん、あのとき…」

助けてくれたのは曾祖母だよねと聞きたかったけれど、止めました。そのかわりに、

「ありがとう」

と言うと、

「どういたしまして。私はセラちゃんの曾祖母だからね。」

と言う曾祖母は、すごく幸せそうに笑っていました。

お互いに暫く笑い会い、空を見上げると夕方に近づいていました。

「ここの柵を直してから帰るから、セラちゃん先に家に帰りなさい。」

私は頷き、帰路を歩く。

少し歩いて、後ろを振り返ると、柵の脇に笑顔の曾祖母が立っている。

「また、会えるよね」

と問いかけると、

「ずっと見守ってるから」

と言ってくれた。

嬉しくなり、もう一度笑いかけてから、帰路へと向き直り、家に向かって走りました。

家に帰ると、いつもの場所に曾祖母は居ました。

そして本日三度目になるが、頭を撫でてもらいました。

〜〜〜

今から何十年も前に曾祖母は亡くなりました。

曾祖母が死に間際に言っていたことは、今でも覚えている。

「やっと会える」

曾祖母達は無事に会えたのだろうか。

生きている時には叶わなかったけれど、あの世ではいつまでも二人一緒で、仲良くしていてほしい。

そして私達家族を見守ってくれていたら、嬉しい。

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