拾いモノ【Uレイらいふ】

中編5
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拾いモノ【Uレイらいふ】

私はとあるデパートのテナントの売り子をしている。

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毎朝、朝早くに開店の準備をし、商品の服の陳列や在庫チェックをして、重役出勤の店長に報告、それから開店と同時に店内通路でお客の呼び込みをする。

ハードだ……。

かなりハードである。

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うちの店は、お陰様でそこそこ評判がいい。

特にJKから若い女性のウケが良く、何度か雑誌に載ったこともある。

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私もアルバイトから昇格し、晴れて正社員になってから半年、馬車馬のようにこき使われるのにも慣れてきた頃だった。

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閉店時間になり、さっさと店じまいを終えると、売り上げをチェックしている店長に挨拶をして裏口へと回る。

薄暗い関係者通路を歩いていると、見知らぬ女性がフラフラと歩いていた。

「どうかされましたか?」

私が仕事モードで声をかけると、女性は力なく笑って答えた。

「道に迷ってしまって……」

どうやら関係者ではないらしく、迷いに迷った挙げ句にこんな所に入ってしまったようだ。

「こちらは関係者通路ですので、ご案内しますね」

私は女性を先導し、関係者通路からデパート内へ出る通用口の扉を開けた。

「どうぞ」

私が促すと、女性は長い髪をバサッと垂らしながら深々とお辞儀をし、フラフラとデパート内へ戻って行った。

変な人だなぁ……。

そんな風に呑気なことを思いながら、その日は牛丼をテイクアウトして帰った。

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翌日、いつものように開店してからお客の呼び込みに励んでいると、遠くの方で昨日の女性が歩いているのが見えた。

歩いているというより、彷徨っているといった感じ。

しかも、よく見ると昨日の服のまんまだった。

まさか、帰ってないのか?

そんなバカな考えが、ふと頭を過ったが、私には関係ない。

私は視線を戻し、仕事に精を出した。

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閉店の時間になり、私が店じまいをしていると、あの女性が店の前に立っていた。

明らかに私を見ている……いや、ガン見しているといっても過言ではなかった。

「何かお探しですか?」

お客を無視するわけにもいかず声をかけると、レジ前にいた店長が私に言った。

「誰に話しかけてんの?」

その一言で、私は悟った。

客じゃねぇのかよ!クソッタレ!!

ピキピキしそうなこめかみをなだめつつ、女性にこっそり言う。

「そんなトコに立ってられたら目障りだから、端に寄っとけ!」

女性は昨日と態度が違う私にビビったのか、雨の中で震える子犬のような顔で頷いた。

そそくさと片付けを済ませると、店長に挨拶をして店の前に出た。

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いやがった……。

律儀に待っていたようだ。

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「行くよ」

私はひとり言を呟いて、颯爽と歩いた。

女性は申し訳なさそうに俯いて、後をついてくる。

デパートを出る道中で、女性に話を聞いた。

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自分がいつ死んだのか分からないけれど、死んでいることは自覚していること。

外を歩いていたら、野良猫にめちゃめちゃ威嚇されて、猫が嫌いになったこと。

何となく誰かについていったけれど、その人を見失い、さらに道に迷ってしまって出られなくなっていたこと。

要するに、バカだということが分かった。

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「ほら、外だよ」

「ありがとうございます……三日ぶりに外に出られました」

壁でも抜けりゃ、すぐに出られただろうに。

「じゃあね。お元気で」

死んでいる人間に「お元気で」なんて、私もバカなことを言ってしまったけれど、もう関係ない。

私はコンビニで弁当を買い、家に帰った。

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さらに翌朝、けたたましい目覚ましの音で目が覚めると、何だか肌寒い。

ブルッと身震いして体を起こすと、あの女性が目の前にいた。

「ちょっと!何でいんの?!」

つい大きな声を出してしまうと、女性は無気力な笑顔で言う。

「おはようございます」

「おはよう……じゃねぇよ!ちゃんと外に案内したじゃん!何でついて来てんの?」

「行く宛がなくて……」

いや、知らんし!

女性の一方的な言い分に、急激に脳が覚醒した。

「何か何処かお寺的なトコに行けば?」

「わたし、お線香の匂いが苦手で……」

「鼻でもつまめよ!」

「それが、鼻をつまんでも匂うんですよ……何だか体全体が鼻みたいになってしまって……」

「そうなんだ……知らなかった……って、そんなん私に関係ねぇじゃん!」

気弱そうなのに意外と粘る女性に苛立ちが募った。

「私も困るよ!今まで何にもなかったのに、半年経ってから瑕疵物件にバージョンダウンするなんて絶対イヤだ!」

「エサも散歩もいらない番犬を飼ったと思えば……ほら、一応言葉も通じますし」

「だったら出てけよ!」

私の痛烈な一言が効いたのか、女性はヨヨと泣き崩れて叫んだ。

「そんな……それでもあなたは血の通った人間ですか?!」

「あんたに血が通ってないからだよ!」

私の光速のレスポンスに、女性はハッとした顔で私を見た。

そして、そのまま静かに立ち上がり、窓辺に立つと、窓ガラスに爪を立ててギリギリと擦り始めた。

耳をつんざく高周波に、たまらず私は耳をふさいだ。

「呪う!呪ってやる!孫の代まで薄情さを語り継いでやるぅ~」

勝手なことを言いながら、耳障りな音を奏で続ける女性に根負けした私は、ついに観念してしまった。

「分かった!分かったからやめて!」

「え?置いてくれるんですか?」

死人とは思えない明るい笑顔で振り返る女性に、私は未だかつてない殺意を覚えた。

「条件を飲むなら置いてあげる!」

「何ですか?何でも言ってください!」

ベッドにいる私に駆け寄ってニコニコしている女性に、私は言った。

「一つ、誰にも迷惑はかけないこと!」

「はい!」

「二つ、私は何にもしてあげられないから、自分で成仏する努力をして、速やかに天へ召されること!」

「努力はします!」

「三つ、家賃の分として、私の留守中に部屋の掃除をやること!」

「確かに、掃除はした方がいいですね……」

散らかり放題の部屋を見回して呟く女性に、殺意が強まる。

「あんたのテリトリーは押し入れね!」

「構いません!」

何だか嬉しそうな幽霊に、私の怒りが削がれてしまった。

「あ、あなたを何て呼べばいいんですか?」

幽霊からの一言で、お互いに素性を知らないことに気づき、私は居候に名乗った。

「私はU子だよ」

「いい名前ですね。わたしは……覚えてません」

名前すら忘れてんのかよ!

「じゃあ、テキトーにつけるよ?」

「えぇ、良さげなのをお願いします」

私は少し考えたものの、やっぱりめんどくさくなったので、本当にテキトーにした。

「レイコ!霊だからレイコでいいよね?」

「U子さんにレイコですか……何だか死んじゃってるみたいですね」

「死んでんのはあんただけだよ!」

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こうして、ひょんなことから妙な拾い物をしてしまったばっかりに、生きている私と死んでいるレイコの奇妙な同居生活が始まってしまったのだった。

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面白い❗ゆっくり続きを読ませてもらいます。

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