無き亡骸に泣き、泣く亡骸は無く【前編】

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無き亡骸に泣き、泣く亡骸は無く【前編】

小学校の教員になることがその男の夢であった。

その男は経済的な理由で私と同じ大学に入った。一人暮らしなど出来ず地元の大学にしか通えない。地元の大学で行きたい学部がある大学が私と同じ大学だったという訳だ。

私の大学は言わずと知れた三流大学だ。一時期は名前を書けば受かるとさえ言われていた。ここにしか行けなかった私と彼とは「志」が違った。

中学校高校と遊び呆けていた私が、何故か彼と一番の親友になった。正反対なのが良かったのだろうか。

彼に影響されて、資格の1つくらい取ろうと思い、宅建を取れたのは良かった。それもあって、今おまんまが食べている。

彼は教職一本だった。彼が県の教員試験をパスした時には自分のことのように嬉しかった。就職氷河期時代で、公務員になるのはかなり難しい時代である。

こともあろうに私は卒業後にギャンブラーもどきになってしまったが、彼は未来輝く子供を教育する立場だ。背負っているものが違う。

しかし、これも若い公務員への至難・仕打ちの1つであろうか。彼は離島の小学校へ赴任となった。それが原因か…それとも私がギャンブルに夢中になったことが原因か…今ではどちらでもいいが、1番の親友だった彼とは連絡回数が減り、更には疎遠となった。

そんな彼からもう何年ぶりであろうか?連絡があった。一緒に飲みたいのだという。何でも転勤で私の住んでいる隣の市に引っ越しているとのことだった。

指定された居酒屋に入ると彼がもう座っており、片手を上げたので、そのテーブルに私も座った。何を飲む?の問い掛けに、ビールはあまり好きではなかったが合わせてビールにした。

昔話に花が咲いたが、卒業後の話はどうもしたがらなかった。私は事情があるのだろうと思い、深くは聞かなかった。

しばらくすると、「実は…」という感じで語り始めた。酔いがまわって来たのだろう。

彼が赴任した離島の小学校で、Aくんという子がいた。小学校の高学年。明るく活発な子。小学校で1番のムードメーカー。といっても全校生徒20名くらいだ。

Aくんはその活発がゆえ、色んなところにしょっちゅう怪我をしている。田舎の小学校はだいたいそんな子が多い。遊び場が山や川、海になるからだ。その離島はこの全てが存在している。

その日は色々な仕事を終わらせて、帰りが遅くなった。小さい小学校は暇かと思いきや、先生も少ないため、色んなことをしないといけないらしく、忙しい時期はかなり忙しいらしい。

帰る時に真っ暗であったが、何かが動く気配がした。夜目を凝らして見ると何か人のような物体が…。さすがに怖かったが、勇気を出して持っていた懐中電灯の光をそちらの方に。

そこにいたのは、Aくんだった。

「こんな時間に何してる?」

「忘れ物を取りに…。」

「忘れ物ってお前、今何時だと思ってる?それに俺が最後に学校出たからもう閉まってるぞ。」

そういうといつも明るいAくんが沈黙してしまった。

これには参ってしまって、「分かったよ。開けてやるよ。」とつい口走ってしまった。

二人で暗い校舎に向かい、学校の鍵を開けようとした時であった。

「ねぇ。先生…。」

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