中編6
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章おじさんの体験②

はじめに。

このお話の前に、章おじさんの体験①と、祖父母の体験を読んでいただくとわかりやすいと思います。

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紫斑病も完治し、大きな病気にも罹らず、健康そのもの、日々の全てに精力的で仕事で赴いた外国の地で文化や出会いを楽しむ、そんな章おじさんの次の体験談。

これは章おじさんがまだ30代後半くらいの頃のお話。

章おじさんの出発が近づいたある日。

紫斑病の治療時にお世話になった軍医の息子にあたる外科医が訪ねて来ました。

「章さん、週明けには出発やね、気をつけて。」

「いつもありがとうな、葛城先生。また半年くらい帰って来えへんけど、無事帰って来たら連絡するわな。」

無事帰って来たら。

側で聞いていた祖母は、息子である章おじさんが普段こんな言葉を口にする人ではないので、ちょっと心配になりました。

親の心子知らず。

祖母の心配をよそに章おじさんは今回の行き先ネパールに向けて旅立ちました。

ネパールは多民族の文化が息づく面白い国であると同時に治安が悪い地域もあります。

『地元ならでは』を楽しむ、をモットーとする章おじさん、まだ若く体力もあったので目的地までの移動手段にネパールとインドの国境付近を走る地元バスを選びました。

この沿線はバスジャックに遭ったり、夜中に突然通行禁止になり、蒸し暑さや虫などの攻撃による劣悪な環境で夜明けまで待たされたり、悪路続きで地元民でも車酔いする等、悪名高い地元バス。

特にバスジャックは日本人が標的になりやすく、注意が必要でした。

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「めっちゃ道悪いなぁ・・・」

車酔とは無縁の章おじさん、しかし流石にこの悪路では頭が痛くなってきました。

「頭痛いなぁ、ちょっと目ぇ瞑ろかな。」

すると。

キキーーー‼︎‼︎‼︎

バスが急停止。

ざわざわしだし、英語圏からの旅行客が一際大きな声で「OMG‼︎」とシャウトしています。

「雨季やから崖崩れでもあったんか?」

章おじさんは夕闇の中、目を凝らしました。

運転手が降車し、外にいた数人と何やら話しています。

暗いので分かりにくいのですが、どうも相手は五人くらいはいるようです。

「なんや長い棒持っとるけど、なんやろ・・・えっ?まさか!」

そのまさかの長い棒を持った人のうち2人がバスの中に入ってきて、乗客に長い棒を突きつけ降車命令を出しました。

長い棒と思っていたのはライフルのような長銃。

不穏な空気が漂う中、章おじさんを含む乗客は命令に従いました。

棒ならぬ、長銃を持った盗賊は順に乗客の顔を見ていきますが章おじさんの前で止まり、長銃を構え、英語でまくしたてます。

『お前の国籍は?』

「日本だ。」

『ほぅ、聞いたか、今日の獲物は日本人だぜ‼︎よう、金置いてけよ!パスポートもな!お前が本当に日本人か確かめてやるよ!』

「・・・・・」

章おじさんは白人が勝ったハーフなので、にわかには信じ難かったのでしょうか。

顔を舐めるように見られたそうです。

いい加減嫌気が差していた章おじさん、お財布(もちろん捨金)を出し渡そうとしたその時、いきなり地面にたおされ、後ろ手に腕を捻り上げられた上、ブーツで頭を踏みつけられ、長銃をこめかみに突き付けられました。

絶体絶命、章おじさんは

「自分は見せしめみたいにここで殺されて、身ぐるみ持ってかれるんやろな。」

と思い、覚悟を決めました。

しかし、盗賊の仲間のうち一人が焦ってやってきて、章おじさんの顔を踏みつけている盗賊に

「◯◯が来た!逃げるぞ!」

と叫んだ途端。

盗賊グループは蜘蛛の子を散らしたように逃げ失せ、代わりに◯◯と呼ばれる自衛隊のような人々が章おじさんを抱き起こし、少しの旅費をくれたそうです。

◯◯は章おじさんには聞き取れませんでしたが、どうも「家畜の兵隊」のようなニュアンスに聞き取れたとか。

その◯◯のおかげで章おじさんは自由の身になりましたが、こめかみに長銃は生きた心地がしなかったそうです。

そして未だに◯◯は謎のままです。

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ちょうどその頃、時差が3時間ほどある日本は夜中の12時頃でした。

章おじさんが出発してからなんだか落ち着かず、浅い眠りを繰り返していた祖母。

ウトウトしていると夢か現か祖母の前に一人の女性が現れました。

どことなく自分の息子、章おじさんに雰囲気が似ている感じがして、すぐに神戸生田で祖父が赤ちゃんの命を受け取った女性だとわかったそうです。

「いつも章を守ってくれてありがとう。」

伝わるかどうか分からないけど祖母は思い切ってお礼を言ってみたそうです。

するとその女性は、

「こちらこそ感謝してます。息子を大切に育てて下さってありがとうございます。あの子も立派になりました。でも時に無茶をするから。」

と笑いました。

「そうやねんよ、章は飄々としててなんも心配要らんよ〜みたいに居るねんけどね・・・。」

「もう大丈夫。間に合ったようですよ。」

「間に合った?」

祖母が聞き返した途端、女性はスゥッと消えたそうです。

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ちょうど同じ頃。

章おじさんの出発前に訪ねてきた紫斑病治療軍医の息子にあたる葛城先生は自室のデスクに向かって書き物をしていました。

ふと。

葛城先生は背後に何かの気配を感じ、振り向きました。

当然、先生以外誰もいません。

「・・・・・。」

葛城先生は再びデスクに向かい、書き物を始めました。

「軍医さんですか?」

遠慮がちな女性の声が聞こえ、葛城先生が振り向こうとすると、

「多分私の姿は見えないでしょう。章がいつもお世話になっております。章の紫斑病を治してくださった軍医さんですよね。」

葛城先生はデスクに向かったまま

「父の事ですね。父は昭和50年に亡くなりましたよ、老衰で。」

と言うと

「・・・そうですか。あなたは息子さんですか?」

「はい、父の跡を継いでおりますが。」

「さようですか。今の章があるのはあなたのお父様である軍医さんのおかげでもあります。先ほど旅先で危ない目に遭っておりまして。でも間に合いました。少々怪我はしておりますがじき治るでしょう。また元気に帰ってきますから、その時はどうぞよろしくお願いします。」

「わかりました。父にもこの事は伝えておきます。」

するとその女性のものであろう気配はすっかり消えてしまいました。

「間に合ったって、一体何が間に合ったんやろ。」

葛城先生は疑問に思うも確かめようがないので、章おじさんが帰国したら聞こうと思い、今の出来事を日時から細かく正確に書き記しました。

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さて、当の本人章おじさんはと言うと、バスジャックから解放された頃には本当に真っ暗だったのでOMG!の人と共に目的地まで歩いたそうですが、ガタイが良く、世話好きで賑やかなOMG!は頼り甲斐があったので安心して国境を抜けられたそうです。

このOMG事件の半年後無事帰国した章おじさん。

紫斑病を治療した軍医の息子、葛城先生と祖母から一連の話を聞き、日時がピッタリ合っている事に驚いたそうです。

長銃を持ったバスジャックに遭って、◯◯という兵隊みたいな自衛隊チックな人達に助けてもらい、OMGの人が護衛をしてくれた時間帯に、丁度祖母と軍医の息子、葛城先生が上記の不思議体験をしていたのです。

間に合った、とは「家畜の兵隊」みたいなニュアンスの◯◯の到着だったようです。

多分◯◯は有志の近衛兵なのではないか、との事。

長銃を突きつけられ、ブーツで顔を踏みつけられた時の傷跡をつけた章おじさんは

「もぅ、頼むからあんまし心配ささんといてくれ。」

と、葛城先生に怒られたそうです。

この話を聞いた私にとって最も興味深かったのは、神戸大空襲の犠牲になったであろう本来の章おじさんの母になる人であった女性が、今もなお、章おじさんを見守ってくれているということです。

子を思う親の気持ち。

歳を重ねる毎に理解できるような気がします。

今日もまた、章おじさんは飄々と世界各国を飛び回っています。

そして章おじさんに寄り添うように、神戸空襲のお母さんも旅を楽しんでいると思います。

最後までご拝読いただき、ありがとうございました。

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