短編1
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足跡

珍しく仕事が昼すぎに片づいたので、暖かい日差しの中、愛犬を抱きながら近くを散歩した。すると俺と同じように愛犬と散歩中の町会長さんに出くわした。

町会長さんが言うには最近この近くに猪が出るらしい。夜に町会長さんの愛犬があらぬ方向に向かって吠えたくるので朝になり裏の林を見に行ったら、猪らしき足跡が見つかったのだという。

「そんなモノが近所を彷徨いていてはおちおち犬の散歩も出来ませんね。小型犬が襲われたという話も聞きますし」二人で件の林まで歩いていくと、確かに猪らしき蹄跡が山の方へ続いていた。

少し気分の悪くなってきた俺は、町会長さんに適当な区切りをつけていそいそと家に戻ってきた。

町会長さんは気づいてないようだったけど、猪の跡を追うようにして小さな人間らしき足跡が、ぬかるみを山に向かって続いていたのを見てしまったのだ。

ただそれだけなら近所の子供の足跡で片付くんだろうけど、すぐ近くのお墓に通づる道に並ぶ、いつもは六体あるお地蔵さんの内の一体が消えてしまっていたのだから悪い方の予感しかしない。

それは全くの無関係かも知れないし、別に危険なモノだと確定した訳でもないけれど、見た瞬間、気持ちが悪くなった事には変わりはないから俺は自分の直感を信じて、金輪際、どんな理由があってもあの林に近づくのはやめておこうと思う。

Concrete
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