中編4
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会いたくなかった同級生

異業種交流会という名の飲み会があった。

異業種交流会というだけあって、知らない人も多く、気を使い、二次会まで参加したのだが、お酒を飲んだという気にならなかった。

つまりは飲み足りず、知り合いのスナックで1人飲んでいた。

カランカラン

扉が開くと音がなる鈴の音がして、男が入って来る。

「あれ?◯◯じゃね?」

男の声に振り向くと、同級生だった。

会いたくないやつと会ってしまった…。というのが、正直な感想だった。

私は違う人のふりをすれば良かったと後から思ったが、咄嗟のことで、その時はそんなこと考える暇もなかった。私は"よっ"。という感じで右手を上げた。

来た途端帰る。という行動は嫌でも嫌悪感が伝わるであろう。また、知り合いのスナックで入ったばかりというのもあり、帰宅の途にはつけなかったのである。

「今、何してるの?」

彼は飲み物を注文した後、私に聞いた。

「フリーター」

私は答えた。"フリーター"というのは、私がよく使う嘘である。仕事を知られたくない時…特に酔っている時はこの嘘はよく使う。酔っぱらうと何をしでかすか分からないからだ。大概の人は"フリーター"というとそれ以上突っ込んで聞いてこない。

実はその知り合いのスナックのママが私に教えてくれたテクニックだった。私はこれを多様している。酔うと記憶がなくなることも多々あるからだ。だが、この時は酔って何かしたり言ったりした時のため、ではなく、知られたくない人だったから。というのが正直な感想だ。

「フリーター!?ダメだよ。そんなんじゃ。」

フリーターがダメ。というのも腹が立つが、何も言いたくなく、うなづいていた。彼が1人で語り出す。

「俺は株式会社◯◯で、課長やってるからさ、お前が入社出来るように頼んでやろうか?」

「あはは。お前が上司なんて死んでも嫌だよ。」

いかにも冗談っぽく言ったが、本気であった。

「俺の女は◯◯というんだけどさ、優しくて可愛くて、料理も上手いし、非の打ち所がないんだよ。」

「でも、俺にベタぼれで、いつでもイチャイチャしてくるんだ。」

「まぁ、そこが可愛くて、俺も仕事頑張ろうという気持ちになるんだけどな。」

「もうすぐ結婚しようって話してるんだ。結婚って、やっぱり正職に就いてないとダメだよ。」

「まぁ、仕事頑張ればいいこともあるよ。実力で昇進出来るしな。まぁ、課長っていうポストも単なる肩書きだけどな。」

もう彼の独壇場だった。

どんだけ彼の話を聞いたか、私はキリのよいところで、「勉強になったよ。ありがとう。また、今度一緒に飲もう。」と言い、お金を払おうとした。が、「おいおい。ここは俺がご馳走するよ。フリーターのお前に払わせる訳にはいかないだろう。」と彼が言った為、私は言葉に甘えることにした。

…何故、彼に会いたくなかったか。決して自慢ったらしいからじゃない。

男ってのは元々自分を大きく見せたい生き物だ。課長と言ってた人が実は係長だった。とか、奥さんが元モデルと言ってたが実は地元雑誌に載ったことがあるだけ。なんてのは、しょっちゅうだ。

私は自慢話を聞くのは好きだ。…いや、自慢話だけではない。人の話を聞くのが好きだ。人の話のスキルを盗んだり、この人の話の順序をこう変えれば、またはオチをこうすれば…とか考えるのが好きなのだ。

では、何故彼に会いたくなかったか。

もう、2~3年前になるだろうか。ある友人が私を訪ねてきた。

「いい弁護士を知らないか?というのだ。」

弁護士?と思ったが、私はすぐに察した。離婚であろう。離婚の協議を有利に進めたいのであろう。私は知っている弁護士を紹介した。

後日、その友人がやって来た。お礼のお菓子を持ってきたのであった。

「いやぁ、とてもよくしてもらえたよ。ありがとう。」

「いやいや。別に紹介しただけで、そんなわざわざ。」

「いや、実はな、妹がストーカーにあってな。ストーカーの男に話をつけたかったんだよ。」

弁護士が必要な理由は"離婚"ではなかった。

弁護士がストーカーに、今後子孫含め近づかないことや慰謝料を払うことなどで、ストーカー騒動に決着をつけたということであった。

そして、そのストーカーこそがスナックであった同級生だったのだ。同級生はこのことが会社に知れて、窓際に追いやられたはずだ。

なので、同級生に会いたくなかったのだ。

おそらく、課長になった。というのも嘘であろう。と思う。

しかし、その後も友人の妹と付き合っているという妄想にとりつかれているとは…。この先、何も事件が起きなければよいのだが…。

Concrete
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