中編6
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夢の中の家

私が中学生の頃、こんな話が急に流行りだした。

夢の中で、自分の家の前に居たら、そこが始まり。

ただし、自分の思い通りに身体を動かせないといけない。

その二点を満たしていたら、玄関から家に入り、家の中を隈無く、歩き回る。

順序は決まっておらず、好きに回っていいらしい。

そして、全て回り終えたら、玄関に戻り、家から出る。

それで終わり。

今思っても、なんとも不思議な話である。

家から出れたら、幸せになれるとか、そんな事はなく、ただ家から出るという、つまらないものだった。

「肝試しみたいなものじゃない?」

私の友人が言った。

「ほら、たしか家に入っている間は、誰かに見つかっちゃ駄目とか、度胸試しみたいな感じ」

「なるほど」

私はそう言いながら、その話の最後の決まりを思い出していた。

友人の言う通り、夢の中の家では、誰かに会ったり、話しかけたりしてはいけない事になっていた。

「なんで、そんな決まりがあるんだろ?」

私と友人は考えたが、結局答えは出なかった。

夢の中の家の話は、瞬く間に学校中に広がった。

「隣のクラスの子が、夢の中に家が出てきたんだって」

「私、夢に家が出てきたけど、身体が動かずに覚めちゃった」

「俺なんか、身体動いたのに、玄関開けたら妹居て、アウト」

夢の話が有名になり、周りで頻繁に話していたせいか、夢に家が出てくる人が増えてきた。

大体は身体が動かずに、目が覚める、又は、家族に会って目が覚めるなどが多かった。

だが、たまに、

「夢の家の中で、知らない人に追いかけられた」

という人もいた。

私の友人の中にも、そう言っていた人がいた。

「家を歩き回っていたら、後ろから、大声を上げた男の人が追いかけてきた」

驚いた事で、友人は目が覚め、逃れる事が出来たらしい。

「とても怖かった。セラも気をつけて」

友人はそう言っていたが、私は気楽に考えていた。

「周りで話を聞いたから、友人は夢を見たのだろう。最近は夢の話を、ほぼ毎日聞くから、印象に残ったに違いない」

「私も夢に出てくるかもしれないが、大体は途中で目が覚めて終わりだから、友人のような怖い思いはしないだろう」

そう考え、私は内心で安心していた。

数日後に恐怖が訪れる事を、その時の私は知らなかった。

「さて、寝るか」

明日の支度を終えた私は、眠ろうとベッドに入り込んだ。

ふかふかの布団に包まれ、寝入るまで、然程時間は掛からなかった。

「ドーーーン!」

という音で目を開けた。

曇天の空と、見慣れた我が家が視界に入った。

「ゴロゴロゴロ」

と空から雷鳴の音が聞こえていた。

「足が冷たい。それに砂っぽいな」

と思い、足元に目を向けると、自分が裸足である事と、寝間着姿である事が分かった。

「何これ」

そんな疑問を言った時、腕にポツリと何かがあたった。

数滴の雫が腕を伝い、落ちた。

「雨だ」

と思い、慌てて家の中に入った。

「ザァー」

と外はたちまち、どしゃ降りの雨となった。

「危なかった」

と言いながら、私は雨粒を払い落とし、いつもの癖で、玄関の戸を閉めた。

天気が良くない事も相まって、家の中は暗かった。

足に付いた砂を落とし、電気のスイッチに手を伸ばす。

「カチッ」

と音はしたが、電気が点く事はなかった。

「電球切れかな」

私は仕方なく、暗い家に入った。

目の前には二つの分かれ道がある。

一方の道は、親の部屋へと繋がっている。

もう一方は、キッチンや風呂場など、家族の生活空間へと繋がっていた。

取り敢えず、キッチンへと向かうべく、そっちの方の道へ向きを変え、歩いた。

廊下の途中で、私の部屋へと続く階段があるが、今はその前を通り、キッチンへと入った。

キッチンとそれに続くようにある、リビングも相変わらず暗かった。

電気を点けようとしたが、玄関同様、点く事はなかった。

薄暗い部屋を、たまに稲光が照す様は、不気味だった。

雷の音に若干怯えながら、ふと思う。

「私、寝たよね?これは夢なんだよね?夢にしては妙にリアルな気がする。手足の感覚とか、現実のように感じる」

そんな事を思いながら、部屋の中を歩いていく。

キッチン、リビング、風呂場、親の部屋と一階にある部屋は全て回り終えた。

人には会っていない。

残すは、二階のみ。

「夢の中の家」

ふと自らの口から漏れた言葉に、はっと驚いた。

今まで無心のように、部屋を回っており、「夢の中の家」の話をまったく思い出していなかった。

「今の自分は、夢を見ていて、そして家にいる」

その事に気づいてしまった時、私は怖くなった。

階段に向かっていた足を玄関に向け、走り出した。

玄関の戸に手をかけたが、戸は開かない。

鍵は掛かっていないのに、なぜか戸は少しも動かなかった。

部屋の窓も同様に開かなかった。

「二階へ行け」

と家に言われているような、そんな気がした。

二階に行く以外の退路を奪われた私は、階段を上った。

上がりきると、左右に分かれた、廊下があった。

左は兄の部屋、右は私の部屋へと繋がっている。

ガラス張りの窓から、外が見えた。

当然、開くことはなかった。

「外に出たい」

そう思いながら、兄の部屋へと向かった。

ドアを開け部屋に入るが、少し散らかった部屋に人はいなかった。

「あとは自分の部屋に行くだけ」

兄の部屋を出て、自分の部屋に向けて歩きだした。一階に降りる階段の前を通りすぎた頃、

「トンットンッ」

と誰かが階段を上る足音が聞こえた。

「誰だろう」

と思う間もなく、

「トトトトトトトンッ」

階段をかけ上がる音に変わった。

「怖い」

私は廊下の途中にある、押入れの中に逃げ込んだ。

押入れの戸を閉めるのと、誰かが階段を上りきったのは同時だった。

「ギシッギシ」

と床が軋み、何者かが歩く音が、私が入る押入れの前を通り、私の部屋の前で止まった。

すると、また押入れの前を通り、兄の部屋の前で止まる。

何度も往復する誰か。

「ギシッギシ」

という足音が押入れの前を通るたびに、私はひやひやした。

心臓が早鐘を打ち、冷たい汗が体を伝った。

いつまでも、押入れにいる事は出来そうになかった。

足音が兄の部屋に向かったのを聞き、私は押入れから飛び出した。

背中に視線を感じたが、振り向いている暇はない。

「ぅおおおおぉぉぉ」

男性の雄叫びのような声が家中に響いた。

私は部屋に飛び込み、窓に手をかけた。

「開かないかもしれない」

という心配を余所に、窓は呆気なく開いた。

窓によじ登り、屋根瓦の上を慎重に歩く。

只でさえ歩きにくい瓦だが、雨で濡れている事で、さらに滑りやすく、歩きにくかった。

「庭にある木に掴まりながらなら、降りられるかもしれない」

と考えた私は、屋根の縁を歩きながら、庭にある木を目指した。

だんだん木に近づいてきて、

「あと、もう少し」

と思ったとき、ズルッと片足が滑る感覚を感じた。

一瞬の事に為す術もなく、屋根の縁から滑り落ち、身体が浮遊感に包まれた。

「落ちる」

反射的に伸ばした手が、何かを掴んだ。

庭に植えられた木の枝だった。

「バキバキッ」

と木の枝が折れていく。

段々と、これから叩きつけられる地面が迫ってくる。

怖くなった私は、目を瞑った。

すると、木の枝を掴んでいた腕にピリッとした、鋭い痛みが走った。

木の枝が刺さったのか、引っ掛かったのか。

「痛い!」

私は叫ぶと共に、目を開けた。

すると、身体を包む浮遊感も、迫り来る地面もなく、かわりに、暖かな布団に包まれる感覚と、見慣れた部屋の天井が視界に入った。

ガバッと起き上がると、腕に鋭い痛みが走った。

痛みを覚えた腕に触れると、生暖かい液体のようなものが、手に付いた。

恐る恐る腕を見ると、何かが刺さったり引っ掻いたような傷、そして、血が溢れていた。

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@レサト 様

コメントありがとうございます!
怖楽しんでくれたなら、嬉しい限りですm(__)m

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いろいろと想像してしまい怖いです。
久々にドキドキしながら読みました。

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