中編2
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赤い桜

会社の同僚たちと花見に来た。

場所は河川敷。ここいらでは有名なスポットだけあって周りはたくさんの花見客で賑わっている。

同僚の中には恋人や家族をつれている者もいて、結果、僕たらのグループは思ったよりも大所帯になった。

各々がクーラーボックスから缶ビールやジュースを取り出すと、恒例のお調子者の乾杯で宴会がスタートした。

空は良く晴れていて、緩やかな川の流れに心地よい風が吹いている。

川下に向かって続く満開の桜は実に見事で、観覧費無しでラッキーだなどとついそんな無粋な思いが頭を過ぎってしまう。

肉の焼ける良い匂いがしてくると、腹を空かせた子供たちがワイワイと網の周りに群がる。僕も然り。みなこの刻を目一杯謳歌しているようだ。

ブルーシートの上に並べられた色とりどりのお弁当の中からうまそうな出汁巻を一つ選び、口の中へ放り込んだ。

そして僕はここに来た時からずっと気になっていた場所へ目を向けた。

やはり見間違いなどではない、異質なモノはこんなのどかで幸せな空間にも紛れているのか。川向こうに沿うようにして並ぶ桜のうちの一本だけが、まるで血のように赤く染まっている。

赤い桜?あれは僕の知らない新しい品種の桜だろうか。もちろん他のものと同様に綺麗な事には変わりないが、明らかにそこだけが浮いてしまっている。

後に調べたら、沖縄に寒緋桜という品種があって冬に咲かせる赤い桜があるということを知ったのだが、なぜこの時期のこの場所に咲いたのかという疑問が残る。

そして、それよりも問題なのはその桜の下でジッと佇んでいる女の子だ。周りの花見客と会話をしている様子もないし、もうここへ来てから三十分はたつというのにそこから少しも動いた様子がない。

それとなく同僚に向こう岸の赤い桜の話を振ってみたが、どうも同僚にはあの桜が見えていないらしく、すぐに違う話題に切り替えられてしまった。

普通に考えてあれだけ赤々と目立っている桜を同僚が気づかないわけがないし、いや、それどころか他の花見客も全く気にかけている様子がないということは、僕の目がおかしいのか、さりとて、特定の人間にしか見えていないということなのだろうか。

僕は昔から変なものに遭遇する事が稀にあるので、これもおそらくその類いの一つだろうと結論づける事にした。

どうやら女の子も僕の視線に気づいてしまったようで、さっきからずっと僕の方を見ている。あれがこの世の人間ではないという確証はどこにもないが、あまり深く考えない方が良さそうだ。

赤い桜には少し興味が湧いたけれど、わざわざ対岸までいって確認するのも億劫だし、ここは気づいていないフリをしてこの場の空気を楽しむ事に徹しよう。

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