長編10
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俺にだけ見えない彼女

sound:1

ある時からアラームをかけた時間に起きられなくなった。

正確にはアラームをかけた筈なのに、そのアラームが切られているのだ。

最初は、まぁアラームかけ忘れたんだろう。

とかどうせ寝惚けて自分で止めたんだろう。

なんて呑気に思っていた。

それに飼っている猫のみゃーちゃんの餌をくれ

と言いたげな鳴き声が鬱陶しくてアラーム設定を

している時刻から30分以内くらいには

起きているので、なんとか今の所は

会社に遅刻しなくて済んでいるのだが

流石にこのままだとヤバいな……ケータイの設定

かケータイ自体がおかしくなってるのかなと

思いケータイショップに行ってみたが

とくにそう言った事ではないみたいだった。

仕事で必要な物を買いに行く機会があって

忘れないようにメモを取ろうと思いケータイに

元から入っているアプリを開いたら見覚えのないメモを見付けた。

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4月16日

今日も優介君(俺の名前仮名)はお寝坊さん♥︎

まぁ私が起こしてあげたいからアラーム勝手に止めてるんだけどね♥︎

優介君は寝顔もイケメンだなぁ〜♥︎

こんなにイケメンな彼氏が居る私って幸せ者♥︎

4月17日

今日も優介君を起こそうと思ったら優介君が私と付き合う前から飼ってる猫のみーちゃんが激しく鳴いて優介君の事起こしちゃった。

みーちゃんは可愛いけど優介君を起こすのは私の仕事だから取らないで。

4月18日

優介君は、またまたお寝坊さん♥︎

またみーちゃんが優介君を起こしちゃった

でもみーちゃんは私みたいに優介君の為に何か出来る事なんて少ないし許してあげよう

4月19日

今日はみーちゃんが起こす前に優介君を起こしてあげた♥︎

だって今日は日曜日!デートの日だもん♥︎

今日は仕事で使う物を買いたいから付き合ってって珍しく優介君から誘ってくれたし仕事で使う物とは言え付き合ってから初めて2人で出掛けられるからデートだよね♥︎

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music:3

何だ……?コレ気持ち悪い。

仕事で使う物を買いに行くのなんて会社の人間に世間話として少し話したくらいだしおかしくないか……?

そもそも残念ながら俺に彼女は居ない。

疲れが溜まって自分で変なメモでも残したのか……?

あまり深く考える事も得意ではないし早く買い物を済ませて、たまには実家にでも帰るか。

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次の日の朝またメモを見てみると日記のような物が増えていた。

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4月20日

昨日は優介君が突然実家に連れていってくれた!嬉しい!

でも、あまりにも突然だったから

お義母さんにもお義父さんにも、ちゃんと

挨拶が出来なかった……改めて挨拶に行きたいな

みーちゃんが、また優介君を起こそうとしたから私の仕事を奪われるのが嫌で黙らせた。

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そう言えば今日はみーちゃんの声が聴こえない……

それに確かに昨日母親に俺が誰かと一緒に居るような反応をされて不思議に思った。

でも、みーちゃんは外にも遊びに行くし家に居なくても何ら不思議ではない。

夜になっても帰って来なかったら探しに行こう。

色々考えながらも準備をしていつも通り通勤し会社に着くと上司がいきなり

「お前、昨日誰と歩いてたんだよ〜」と

ニヤニヤしながら話しかけてきた。驚いた俺は

「え?俺、昨日はずっと1人でしたよ?」

と咄嗟に答えたが上司は

「嘘つかなくったって良いんだぞ〜?

遠目からだったけどお前って事はわかるんだからな?女の子の方はハッキリ見てないからわからないけど」等と言ってきた。

意味が分からない。昨日はずっと1人だった筈だ……何を言っているんだこの上司は。

自分のデスクに行くと可愛い文字で「昨日は楽しかったね♥︎」と書いてある女の子が好むような付箋が貼ってあった。

上司の意味のわからない話もあったが誰かが社内恋愛でもしていて俺のデスクとソイツのデスクを間違えてるんだなくらいにしか、その時は思っていなかった。

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家に帰るとみーちゃんがまだ帰ってきていないようだ。

家の中に居るかもと思い普段使っていない納戸まで開けてくまなく探しているとそこには

music:2

みーちゃんの亡骸があった。

どう言う事だ。まさか、あの日記の様なメモの主が本当にみーちゃんを…………?

あの時しっかり探してやれば良かった……

動揺を隠しきれないまま俺はみーちゃんの葬式の手配等をした。

俺が一人暮らしを始めた頃に飼い始めた

みーちゃん……今では家族同様に大事にしていた

なのに……まさか本当に……

あの日記女はもしかして俺の家に上がり込んでるのか……?どうやって……?

そう言えば買い物の話をしたのは事務の大人しめの女の子だけだ。

ならばあの子が……?しかしそんな事をする子には見えなかったが……

確証が無いとは言え流石に不信感でいっぱいの

俺は誰かが俺の家に侵入していないか

確かめる為にしまい込んでいたビデオカメラを

引っ張り出し出来る限りの時間を録画出来るようにした。

次の日は例の如く鳴らないアラームに鳴き声も

聞こえず危うく寝坊しかけてカメラを見られ

なかったがみーちゃんが、もう居ないという

事実の方が辛かっくて既に忘れかけていた。

それからもいろんな人間から自分が女の子と歩いている家に一緒に入るのを見たと言われ続けていた。

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相変わらずメモには日記が増え続けていて

内容もどんどん過激になっていく一方だった。

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4月21日

優介君。私の大好きな優介君。

私の初めての彼氏。誰にも渡さない。

今日も寝顔にキスをして優介君を起こした。

4月22日

あの女……気安く私の優介君に話しかけ

やがって……絶対に許さない。

私だって全然話しかけられないのに。

でも家に帰ると独り占め出来る私の優介君。

4月23日

最近、優介君が悲しそうにしている。

やっぱり私がみゃーちゃんを殺しちゃったからかな。でも悲しそうな優介君も好き。

弱ってるなら私が支えてあげなくちゃね。

4月24日

あの女……優介君には私が居るのに

「今度2人で呑みに行きましょう」なんて

下心見え見えの誘い……腹が立つ。

優介君は優しいから断れないのに……

4月25日

あの女が明日、優介君と出掛けるらしい。

許せない。絶対に行かせない。

あんな女、死ねばいいのに。

4月26日

そうだ。あの時みたいに、あの女も消してしまえば良いんだ。

そう思うと気持ちが楽になって今日はいつもより早めに優介君を起こしちゃった。

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俺の会社の女の子が1人行方不明になってしまった。多分、日記女のせいだろう。

その子は俺の2つ下の従姉妹で偶然、俺の

働いている会社に四月から新しく入った。

先日、久しぶりにと言う事で今度呑みに行く

約束をしたばかりだったのに……それが日記女の

地雷を踏んでしまったらしい……従姉妹には

きっともう謝る事も出来ないだろう。

悔しい気持ちでいっぱいだ……みーちゃんに

従姉妹に…………俺はどうしたら……

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従姉妹は未だ見つからないものの

みーちゃんの葬式等が終わり少し落ち着いた頃

セットしっぱなしのカメラを見てみようと思った。

だが1人で確認するのも怖くて会社のある日に

会社のパソコンで見させてもらう事にした。

会社で例の録画した家の様子を見ていたが特に何も映っている様子はない……

良かった……誰かが侵入してた訳じゃないんだな……

そう安心した時、母からメールが届いた

sound:20

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アンタまた彼女連れてくるなら今度はちゃんと連絡してからにしてね。

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彼女……?彼女なんて居ないし誰かと一緒に実家に帰った記憶もない……1人で実家に行った事しか俺の記憶にはない……おかしい……

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通りかかった上司に

「すみません。この間 俺が女の子を連れて歩いてたって言ってましたよね?どんな感じの子でどんな服装でしたか?」

「小柄な感じで花柄のスカートに黄色いカーディガンみたいの着てるように見えたぞ?それがどうかしたか?白状する気になったのか?」

茶化されるのも面倒なので礼を言って足早に自分のデスクから立ち上がり母に電話をかけた

「母さん。俺の彼女って、その時どんな服装してたっけ?」

「は?なにその変な質問」

「良いから答えてくれ」

「はぁ?えーっと……花柄のスカートに白いシャツに黄色いカーディガン着てたわよ?それが何?」

「どんな感じの子?」

「小柄な感じで髪の毛が茶色かな?」

「……わかった……ありがとう」

母がまだ電話口で何か喚いていたが俺は無視して電話を切った。

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俺に女を連れていたと言ってきた会社の人間数人にも同じ事を聞いて回ったが、どうやら彼女は

花柄のスカート 白いシャツ 黄色いカーディガン を着ていて小柄で髪の毛が茶色らしい。

俺には見えなくて周りには見える俺の彼女が居るって事なのか……?ますます意味が分からないし

もし普通の彼女なら立て続けに同じ服を着るのは有り得ない事だ。

落ち着こうと給湯室横にある喫煙所でタバコに火をつけようと目線を下げた時花柄のスカートが見えた。

反射的に顔をあげると事務の女の子が俺に見えない彼女とピッタリハマる服装をしているではないか。

まさか……あの子が……?

デスクに戻ると 「もしかしてこの間連れてたのって事務の花織ちゃん(仮名)?この間の時と同じ服装だよな?デキてんなら俺に教えてくれよ〜」と同期が茶化してきた。

まさか……やっぱり……

「なっ……!どうしたんだよ顔面真っ青だぞ?」

と同僚が驚いていた

「いや、ココ最近変な事があって……」

「あっ僕、そう言う事解決出来るかもしれない人知ってますよ」

近くを通った俺の部下がそう声をかけてきた

なにやら部下は時々そう言う物が見える人間らしく、その相談やらでお世話になった人が居るらしい

早速、部下にその人に連絡してもらいアポを取ってもらった。

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怖くて最近はメモを開いていない。

でも、どうやらケータイを見ないと気が付いたのか家にあるメモに何か書かれている物を視界の端に捉えた。

フローリングの床やお風呂の床そしてベッドにまで茶髪の髪の毛が落ちているのにも気がついた。

だが怖くて早く忘れたい一心で知らないふりをしていた。

部下の師匠みたいな人と会う日がやってきた。

顔を合わせるなり

「……!?」と驚き

「貴方……女性に何か酷い事をしましたか?」

一切そう言った事は無いしメモについては恨みではなく俺に対する独占欲だった事もあり

全力で否定をした。

すると「ある一人の女性が生霊として憑いています……その人に影響を受け他のあまり良くないモノまで背負ってしまっています……」

そんな話をされて何とか頼んでお祓いをして貰った。

俺にだけ視えない彼女は、やはり特徴から

合わせると会社の事務の女の子 花織ちゃん

が私に憑いてる生霊の正体らしい。

俺は本当に普通の会話しかした事が無いし

そもそも向こうは口数も少なく数える程度しか

話した事が無い筈なので全く心当たりが無かった。

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当分会社の行くのが怖く貴重ではあるが有休を使って少し休む事にした。

その間にみーちゃんとの思い出が詰まったこの家に1人で居るのも辛く感じ引っ越す事を決意した。

業者への連絡等や荷造りも終わり時間を持て余しているし少し実家に帰ろうか……

そう思い母に連絡を入れて実家に行き

事の顛末を両親に話すと母が

「えっ……じゃあ今ここに居るのは……?」

と言った……その瞬間俺は気が遠くなった。

気が付くと実家の布団で寝ており側に置いて

あったケータイを見ると物凄い数の非通知

からの不在着信と同僚からのらメールが

入っていた。

何事かと思い同僚からのメールを開いてみると

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事務の花織ちゃんが自殺したらしい。

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自殺……それじゃあ俺はやっと日記女……

花織ちゃんから解放されるのか……!

本来喜んではいけないのに、もうまとわりつく者が居ないんだと思うと清々した……

一応、雰囲気を合わせて

そうか……気の毒にな……と同僚に返信すると

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いや、それがな……お前の部下がお前のその後が心配で、お前の家に行ったらしいんだ

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おう。アイツが心配してくれてたのか連絡入れておかなきゃな。

アイツのおかげで花織ちゃんの生霊も取れたわけだし……って言っても、もう死んでるから生霊も飛ばせないし心配する事も無いのにな。

そうだったのか。アイツに連絡入れとく。

と同僚に返信した。

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いやアイツは今ケータイ見られないんじゃないかな

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俺の部下は何かしでかしたのか?

それとも俺の仕事の穴埋めがキツいのか?

それなら、こんな事でまとめて有休取っちまって悪いな早く立ち直らないと……

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どうしてだ? と同僚に返信するとすぐに

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だってお前の部下は、お前の部屋で花織ちゃんの死体を見つけたんだよ。

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どう言う訳か何とか後日連絡が着いた部下から話を聞いてみると

心配して俺の家を尋ねた部下が鍵が開けっ放し

なのに気が付き不審に思い部屋に上がり込むと

そこには 花織ちゃん が俺の部屋で

首を吊っていて足元には 合鍵 そして遺書と

捉えて良いのかもわからないが

「これで、ずっと一緒に居られるね」と

言うメモ書きが置いてあったらしい。

俺は合鍵なんて作った事も無いし親にすら

預けていないので俺が鍵を手放さない限り

合鍵なんて作れる筈もないのだが

同じ社内に居ればそんな隙も出来るのか……

生霊として一緒に居られなくなり恐らく

生身の身体で侵入していたであろう俺の家にも

警戒を強めていた俺の引越しにより、このままでは一緒に居られないと思ったのか最悪な

手段を選びやがったんだ……母さんが見たのは

あの時のような生霊ではなく生身でもない

死んでまで俺に憑いてきた俺には視えない

彼女の姿だったんだ……

死ぬまで俺にだけ視えない彼女に怯えながら

生活していかなくてはならなくなったのだ。

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