中編4
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兄妹

つい最近、友人から聞いた話です。

「一昨年のいつぐらいだったかは忘れたけど」

と前置きしてからポツポツ話し始めました。

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その日の仕事が遅出だった友人は、久しぶりにゆっくり寝たあと、いつもはヨーグルトだけで済ませる朝ごはんをきちんと食べ、9時に自宅を出たそうです。

自宅から最寄りのバス停までは徒歩5分ほど。

そこからバスに乗って最寄り駅まで出て、今度は電車に揺られて出勤します。

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そのバス停までの道の途中、2人の兄妹が手を繋いで歩いていたとのこと。

兄は小学2、3年生くらい、妹の方は幼稚園年長、といった感じだったそうです。

でもランドセルも幼稚園バックも背負ったりしておらず、短パンやスカートの裾はパッと見ただけでも分かるような酷い汚れや、縫い目が解れて糸や繊維が裾やウエスト辺りからダラりと垂れていたり、小さなツギハギのあるシャツやトレーナーも泥汚れや食べこぼし等のシミでいっぱい。

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友人は「親がネグレクトなのかな?」と思うくらい、酷い身なりだったそう。

さすがに心配になったので、2人に声をかけました。

「おはよう。これから、どこかへお出かけするの?お父さんや、お母さんは?」

声をかけてすぐ、2人の異常な格好に気付きました。

髪も顔も手も足も、泥水を被ってそのまま乾かしたかのように汚れていたのです。

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「…お父さんって何?」

お兄ちゃんの方から小さい声でそう問われて、「あぁ、なら母子家庭かな?」と思った友人は、

「お家には、お母さんだけ?」と聞き直したそうです。

すると妹の方が、

「ママはねぇ、知らない人とお家にいる」

と答えました。

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「知らない人?」

友人が眉根をひそめて尋ね返します。

「…うん、男の人。知らない人。来るとボク達は、その人が帰る時間まで、お家には帰れない」

妹の代わりに、お兄ちゃんの方が答えました。

それを聞いた友人は、ひどく腹が立ったとのことです。

学校や幼稚園に行かせないばかりか、育児放棄して男を家に呼んでいるのか、と。

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「お家どこ?お姉ちゃんが一緒に行って、ママに注意してあげる。ちゃんと学校や幼稚園に行かせなきゃダメですよ、って」

友人がそう言うと、お兄ちゃんの方が首を横に振って「やめて」と言いました。

前も近所のおばさんが注意してくれたけど、その後ママと男の人にすごく叩かれた、とのことでした。

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なら、と、友人はスマホをバッグから取り出して警察に連絡しました。

警察は10分もしないうちにパトカーで来て、2人の兄妹を保護して行ったそうです。

その日は「やれやれ」といった感じで急いで仕事に向かい、何事もなく一日が過ぎました。

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その日から一週間は何事もなく平和に日々が過ぎていき、2人の兄妹の母親も警察にこってり絞られただろう、と思っていた頃のこと。

たまたま会社の先輩が体調を崩して早退きをした関係で残業となり、自宅の最寄りバス停に着いたのは、あと何分もしないうちに日付が変更するだろう、といった時間でした。

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バス停から自宅へ急ぐ途中、あの兄妹にバッタリ会ったそうです。

友人は「警察に怒られただろうに、性懲りもなくー!まったく、もー!」と憤ったとのこと。

兄妹も友人に気付いて、立ち止まりました。

「また、ママのところに知らない人が来てて追い出されたの?」

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二人に歩み寄ってそう尋ねた友人に、妹の方は俯いたままでしたが、お兄ちゃんの方は、ほのかな街灯の明かりでも判る青白い顔を友人に向けて「違うよ」と小さく告げたそうです。

「だったら、どうしてこんな遅い時間に2人で夜道を歩いてるの?」

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友人の問いかけに、お兄ちゃんは、

「お姉ちゃんがお巡りさんを呼んでくれた次の日、[保護施設]って場所に行くことになったの。その保護施設の人がお迎えに来てくれる、って話を、お巡りさんがママに話したの。ママは怒ってお巡りさんから2人を返して!ってお巡りさんとボク達を離したら、そのままお家に一緒に入って鍵を閉めちゃったの。そしたら夜にまた知らない人が来て、ボク達を車に乗せるとドライブだよって連れ出してくれたの。それからね、夜の森に妖精さんを探しに行ってね、そのまま埋められたの」

そう話してくれました。

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ふん、ふん、と話を聞いていた友人は、最後の言葉を聞いて、「…ん?」と首を傾げました。

…埋められた?

…どういうこと?

もう少しよく話を聞こうとした時、もうそこに2人の姿はありませんでした。

狐につままれたような気分になり、辺りを探しましたが2人は見つからなかったそうです。

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「あの日の夜はバスでつい寝落ちしそうになったのもあって眠かったし、夢かもしんないんだけど、もし2人の兄妹が死んじゃったりしてたらニュースになるよね!?でも、今のところそういうニュースも見ないし聞かないし、そもそもどこに住んでた子なのかも知らんし、…っていうか、埋められたって何!?未だに気になるんだけど!」

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友人は時折、2人の幼い兄妹が手を繋いで歩いている夢を見るそうです。

私が友人を視た時は、友人に2人の幼い兄妹の姿はなかったので、その2人がどうなったのかは解りませんが、ネグレクトって本当に身近にあるんだな、と改めて思い知りました。

[終わり]

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