中編3
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悔恨

これは祖父の遺言…

燃やして欲しいと託された過去の日記…

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1944年6月…

大日本帝国陸軍…第3大隊所属木村小隊は戦線を大きく後退させていた。

南方の米軍を相手に圧倒的な物量に連敗を重ねている…

本隊は既に壊滅し生き残った小隊のみでゲリラ戦を行う…

食料を最後に食べたのは3日前…

手のひらの半分にも満たない大きさの握り飯…

それ以降は草や木の皮はもちろん土も口にいれ飢えをしのぐ日々…

更に一週間過ぎた頃には6人いた小隊は…

2人は高熱から錯乱し自決し4人となる。

傷ついた身体は蛆がわき身体を引きずって歩く日々…

「おい…佐藤…生きてるか…?」

「はい…生きております。」

「加藤…田中…お前たちはどうだ?」

「…………………………」

「少尉殿…加藤…田中…両名は…」

「そうか…」

………

……

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「佐藤…腹減ったなー…」

「少尉?」

「お前にお袋の飯食わせてやりたいな…お袋は料理が上手くてな…」

「少尉…私の母も料理は上手いですよ…」

「そうか……そうか……」

「少尉…?少尉…?」

「返事してください…少尉!」

「大丈夫だ…聞こえてる…」

「腹減ったな…」

「上手いもん食いたいな…」

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原田…菊池…加藤…田中…

木村少尉も…私も…もうすぐお前たちの側に行けそうだ…

ただ、近くに行く前に大恩ある少尉に美味い物を食わせてやりたい…

だから…加藤…田中…許してほしい…

許してほしい…

許してほしい…

許してほしい…

許してほしい…

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木村少尉は亡くなった。

亡くなる前に食べた『肉のスープ』は喜んで食べてくれた…

米兵から奪った肉で作ったスープ…

少尉は喜んで食べながら亡くなった。

加藤…田中…お前たちのおかげだ…

少尉が笑って亡くなったのは…

お前たちのおかげだ…

もうすぐ…

私もお前たちの側に…

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あれから、5年がたった。

木村少尉…原田…菊池…加藤…田中…それぞの故郷に遺骨を皆の最後を伝える…

皆の最後を生き残った者の最後の仕事を果たすのに5年もかかってしまった。

あの時、疲労と空腹…高熱から気絶した私は死ぬ前に原住民に保護された。

果物や野菜…栄養価の高い肉も食わせてもらい、1年近くかけて回復する。

侵略者と変わらない私に対して家族のようなもてなしをしてくれた原住民の皆…

別れる時には私は涙で前が見れなかった。

原住民たちは最後まで笑顔でいてくれた…

私が日本に帰れたのは仲間と原住民のおかげだ…

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昭和64年…

あれから私は家族をもち…子をなして…孫もできた。

皆の為にも生き残った者の責任として精一杯生きた。

天皇陛下が崩御され私達…第3大隊の生き残りは皆の慰霊碑に集まり悲しみを共有する事に…

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慰霊碑の前で思い出す…

苦しみ…

悲しみ…

仲間との日々を思い出す…

喜び…

懐かしさ…

そして…慰霊碑に刻まれた…

木村少尉…

原田…

菊池…

そして…

田中…加藤…

私は涙がとまらない…

あの時の罪を思い出す…

しかし、後悔はしていない…

後悔はしない…

生き残った時に決めたのだから…

死んだ時に2人には謝ろう…

木村少尉にも謝ろう…

許してくれるかはわからないが…

………

……

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そして…大隊の皆にも謝らないといけない…

この場に訪れた時に…

皆の血を引く幼子が…

私を指差し…

「爺~爺~」

私を見た幼子が「爺ちゃ」「じいじ」「じいちゃん」皆が私をじいちゃんと呼ぶ…

大人は子供をあやしながら頭をさげて通り過ぎて行く…

自分の子供を不思議に思いながらも通り過ぎていく…

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日記は不思議な終わり方をしている。

子供達の不思議な行動…

そして…日記の最後のページに書いた爺さんの独白…

それは…このような短文だった…

『家畜もいない…鳥もいない…余所者に荒らされた土地…しかし…肉は大量にあった…私も…原住民も…食べた肉…あの時は解らなかった…今は解る』

『皆は私を許してくれるだろうか?私は初めて死ぬのが怖いと思う…皆の側にいくのが怖いと思う』

Concrete
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