中編5
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龍という男

霊が出ると噂の公衆便所がある。場所は六甲山の展望台付近だ。

乱暴された挙句に殺された女性の霊。もしくはコーナーを曲がり損ねた命知らずなバイカーの霊。もしくは不良の内輪揉めからリンチの末に命を失ったパンチパーマの霊。噂はまちまちだが、とにかく何かが出るらしい。

好奇心から生まれた俺たちはただそれだけの情報を元に真相を確かめるべく、夜中を待って出動した。

メンバーは舎弟の龍と、デブの猛。山を上がる車の中でビビりの龍がやけに強がっている。

「兄貴、この世に幽霊なんていないんですよ。なんだったら、俺一人で便所の中見てきてもいいっスよ?w」

「へーそうなん?じゃあ俺たちは車で待ってっからおまえ一人で行ってこいよ。約束な」

「じょ、冗談すよ兄貴!な、なに本気にしてんすかー」

一方、デブの猛はどこに隠し持っていたのか、人の車の後部座席でポテトチップスを取り出し、ボリボリやっている。

「おい猛!てめーこの車新車だぞ。いい加減にしろよブタ野郎」

「まあまあロビちゃん、気にしない、気にしないwぶひひひ」

とりあえず猛を殴るのは目的地に着いてからにしよう。

道中、夏とはいえ明日も平日とあってか夜景目当てのリア充たちの姿もほとんど見かける事なく、結果、お目当ての展望台辺りにも人影はなかった。

俺たちはすぐ近くで怪しい光を放つ公衆便所を発見すると、近くの駐車場に車を止めて近づいていった。

「おい龍、おまえ幽霊なんていないって言ってたよな?ほら一人で行ってこい」

「いやっす!幽霊も怖いけど猪も怖い。この辺りは猪とかも出るから危険なんすよ兄貴、知りませんでした?」

龍は護身用のつもりなのか金属バットを握りしめている。

公衆便所の中は一応電気がついているものの、切れかかっているものもあるようで、奥の方がチカチカと明滅を繰り返している。ちょっと怖い。

「なんだよ二人ともびびってんの?ぶひひw」

突如、デブの猛が俺たちを押しのけて便所の方へ歩きだした。ポテチをボリボリさせながら、のっしのっしと歩くその姿はまさに王者の貫禄。

「僕が見てきてやるから、二人ともそこで待ってなよw」

なんとも力強いお言葉。後ろ姿は漢の中の漢。これで後部座席の件もチャラにしてやろうか。

と、思ったその時だった。

ここから見えている個室の扉の一つがいきなり勢い良くバタン!!!と開いた。

余りもの勢いで扉は一旦閉まり、またゆっくりと開いていく。

開いた瞬間に中の様子が見えたが、明らかに誰の姿もなかった。

猛は右足を前に出したまま硬直し、龍はとなりで小さくフンガフンガ言っている。

気がついたら俺たちは猛スピードで山を降りていた。途中、走り屋なんかが集まる自動販売機の並んだ明るい休憩所のような場所に車を止めた。

「お、おい龍!てめー幽霊なんかいないって言ったよな?じゃあ、あれはどう説明すんだよこの野郎!」

「あ、兄貴!あれは多分…風っス!」

「なんだとコラ?」

「い、いや、じゃあ多分、猪の仕業っス!子供のうり坊とかが中で悪さしてたんじゃないすかね?幽霊なんて絶対にいません、全ては偶然。全ては科学で説明がつくんすよ兄貴」

「知ったような口ききやがってこの野郎」

猛は未だにポテチの袋を持ったまま後部座席で固まっている。おそらくコイツはもう使い物にならないだろう。

しばらく龍と話していると次第にさきほどまでの恐怖も薄れていき、あれはマジで風だったんじゃないか?という気持ちになってきた。

「兄貴、もう一回確かめに行きますか?俺がこれで猪どもの仕業だと暴いて、更に退治までしてやりますよw」

龍はどこに隠し持っていたのか大量のロケット花火を握りしめていた。

「ふむ、面白い。やってみろ」

俺はそう言ってしまった事を後に後悔する事となる。

俺たちはまた山道を引き返し、展望台付近の公衆便所の前で車を止めた。

今回は少し距離を取り、別にびびっている訳ではないが車から降りずに観察することにした。

阿保な龍が早速、ロケット花火の一本に点火し、助手席の窓から便所に向かって狙いを定めた。

「おらー!うり坊、出てこいや!」

ヒューーーン!!!

パン!!!

見事個室扉に命中。が、反応なし。

「おい龍、あの扉ってさっき俺たちが逃げたとき半分開いてたよな?なんでまた閉まってんだ?」

「うり坊の仕業っすよ。たぶん近くに親もいるだろうから、その親かもしれませんけどねw」

龍が新しいロケット花火に点火しながら答える。

ヒューーーン!!!

パン!!!

今度も見事に扉へ命中。素人とは思えない抜群のコントロール。

反応は…有り。

またもやドアかバン!と開き、今度は中から若い男が飛び出してきた。

「おっどれー!何さらしとんじゃボケえええ!!!」

和柄パーカーを羽織ったイカツイパンチパーマ男が叫ぶ。そしてめちゃくちゃ怒っている。

「で、出た!!!」

瞬時に俺と龍はこの男がただのDQNではない事に気付いた。なぜなら怒り狂うその男には在るべきはずの下半身がなかったからだ。

男が滑るように車に近づいてくる。

「あ、兄貴、おばけ!はやく車出して!はやく!」

龍が必死で窓を閉めようとボタンを連打するも、焦って着火してしまったロケット花火の一本が、車の中でジリジリと火花を上げている。

「おいてめー火いついてんじゃねぇか!これ新車だぞボケ!窓開けろこら!」

「兄貴!そんな事言ってる場合じゃないすよ!とりあえずはやく車出して!!うわー、こいつ車ん中覗きこんでる!」

次の瞬間、ロケット花火は自身の役目を果たすかのように白煙を撒き散らしながら車の中を飛び回ったのだった。

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気がつくと朝だった。

車の中はあちこちシートが焦げ、ダッシュボードも少し溶けていた。

朝から俺にボコボコにされた龍は、ぶつぶつ文句を言いながらもガソリンスタンドで車内の掃除をしてくれた。

ロケット花火の残骸はなぜか猛のポテトチップスの袋の中から見つかり、洗車しようと車体を見たら、ベタベタとお約束通りに窓という窓に手形が貼りついていた。

帰りの車中、俺はもう一度龍に尋ねてみた。

「おい龍、幽霊って本当にいないのか?」

龍はボコボコになった頬をさすりながら、遠い目をして言った。

「世の中にはまだまだ科学では解明されない事があるんすね。でも、実はそこが一番面白いとこだったりするんすけどねw 」

「あっそ」

こいつ、さてはガリ◯オでも見たな?

本気でこいつをもう一度殴ってやろうかと思った俺たちの夏は、まだ始まったばかりだ。

Concrete
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マミお姉様、ロボ斉藤様、コメントサンクスです。
龍に猛に翔吾に香織、彼らとのエピソードはほぼほぼクソですが、書いていて楽しいです。
これからも書いていくつもりですのでよろしくお願いいたします…ひひ…

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