黒い守護霊~寺の祓魔師②~

中編7
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黒い守護霊~寺の祓魔師②~

実家の寺に帰省した。

「ただいま~。」

返事は無い。みんな出掛けているのかな。

母の写真に目をやる。

母は俺が幼い頃に亡くなっている。

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「悠星(ゆうせい)来ていたのか。」

兄の昴(すばる)が帰って来た。

俺は三人兄弟の末っ子、昴兄は長男だ。

「父さんは?」

「本堂にいるはずだ」

「それにしても珍しいな、お前がゴールデンウィークに帰って来るなんて。」

俺は大学に通っているのだが、お盆と年末以外は帰る事は無かった。

本当は昨年の年末に帰る予定だったのだが、予期しない出来事で帰省出来ずにいた。

その時のお話は、また別の機会に。

「年末年始は帰れなかったから。ちょっと父さんと話したい事が有ったんだけど。」

「そうか。大学はどうだ?」

「楽しくやってるよ。」

「違う、心配しているのは成績の方だ。」

「大丈夫だよ。ちゃんとやってる。」

(相変わらずだな…昴兄は。)

「そう言えば、凛おばさんも来るらしいぞ。」

兄の後ろに人影が…。

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ボコッ!

「痛っ!」

後頭部を抑える兄。

「お姉さんって呼べって言ってんでしょ。」

噂をすればなんとやら、だ。

「こんにちは、凛姉さん。」

「悠くん、おひさ~。」

俺は悠星(ゆうせい)と言う名なのだが、未だ彼女にかかると『くん付け』だ…。

「続柄はおばさんなんだから、間違ってはいないでしょう。」

shake

バキッ。

「いたっ。」また殴られる兄。

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凛さんは母の妹だ、母とはだいぶ年が離れているが。

「そう言えば、義兄(にい)さんは?」

「おお、凛、来たていたか。悠星も。」

父がやって来た。

「こんにちは、義兄さん。」

二番目の兄、宙(そら)は、もう二年は海外を転々としている。最近はメールも来ない…生きているのか死んでいるのか。まあ、あの人なら大丈夫だろうけど…。

「何だ、みんな揃ってんじゃん。」

「え?」「は?」「ん?」「!?」

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突然の次兄の登場に流石の昴兄も驚いている。

「帰っていたのか?連絡くらいしろよ。」

「悪い悪い。」

「姐さん、お久さ。というか、みんな久しぶりだな~。」

(相変わらずだな、この人も。)

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この日は大宴会となった。

主に宙兄の旅先での話を中心に盛り上がった。

食べ物や文化風習、宗教から内戦、珍しい生物の話…兄は話上手なのもあり、皆聞き入っていた。

お酒も進み夜も更けて就寝。

宙兄と同じ部屋で寝る事になった。

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「宙兄…。」

「本当は父さんに聞こうと思っていたんだけど。」

「何だ?」

「指環の事。それと…変な力。」

指環は御守りとして身に付けるようにいわれていたもの。変な力と言うのは以前、心霊現象を消し去ったものだ。

「まだ聞いて無かったか?」

「ああ。」

「親父が話してないなら、オレも言えない。」

「そっか…。」

「なんてね~。多分、親父も秘密にするつもりは無いだろから教えてやるよ。」

「指環は、力を抑えるもんだ。オレも着けてる。オレとお前じゃ力は違うけどな。指環そのものというより、指環の内側にある石の力らしい。」

(昴兄や父は着けてないけど、どうしてるんだ?オレと宙兄だけ違うのか?)

「力は…アレだ、お前についてるものの影響だろうな。」

「アレ?」

「う~ん、見た目はアレに近いな」

目線の先を追う……一体の仏像。

「不動明王?」

「ああ、あんな感じ。ただ…なんつーか、黒い。」

「黒人?」

「違うわ!纏っている焔みたいのがな、黒いんだ。黒い焔ってのもおかしいんだけどな。」

「悪霊?」

「いや…守護霊。というより守護神に近いか…まあ、マトモじゃないっていうか尋常じゃない。」

「そうか…。ありがとう、教えてくれて。」

「後は親父に聞け。」そう言うと眠ってしまった。

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翌日…

「父さん…ちょっと。」

「力の事だろう?」質問する前から察していたようだ。

「それは守護霊によるものだが、生まれつきでは無い。お前は生まれた時は守護霊がついていなかった。珍しいケースだ。」

「いつから、どうして今の守護霊が?」

「母さんが亡くなる前だ。」

「!?」

「母さんが、お前に降ろした。」

「何の為に?」

「一番はお前を守る為だ。」

「守る?何から?」

「赤い眼の悪魔。」

「悪魔?」

「母さんの家系に続く呪いのようなものだと言っていた。」

「もしかして、母さんの死因は病気じゃなかった?」

「直接の死因は癌だったがな。通常の進行では無かった。手の施しようも無かった。手術も出来ず、薬も放射線も効果は無かった。」

記憶の中の母はいつも笑顔で優しかった。病気の苦しみや痛みなど、微塵も感じさせなかったのに…。

「お前が三歳になる頃、予兆が出たと言っていた。左胸にある刻印のようなアザだ。それが印だと言っていた、時間が無いとも。禁術を用いて今の守護霊を降ろした…その時は反対したんだがな。」

何となく分かったような…でもあまりに非現実的な、寺で悪魔とか意味不明だし…。

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その後…一人で庭を眺めていた。

「悠星、ちょっと良いか?」

宙兄が呼ぶ。

「何?」

「これを見てくれ。」

銀色の四角い箱。

縦横は名刺サイズ、高さは2㎝くらい。

表面は鏡面仕上げになっていて、水に濡れているかのようだ。

「持ってみな。」

軽い。

金属の塊ならもっとズッシリするはずだが。

「中は空洞?」

「振ってみろ。」

カラカラと音がする。中になにか入ってる。

箱を作って中にモノを入れて溶接して磨いた?

だけど溶接跡は無いな…。

しかも鏡面なのに触れた部分に指紋が残らない。

「何これ?」

「呪いの箱。」

「は!?、ていうか、なんでそんなもん持たせるんだよ。」

「いやあ、お前が持てば呪いとか消えるかな~、と思ってさ。」

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う~ん…ダメそうだなあ…周囲を見ながら兄が呟く。

「知らなかったんだよ、見た目は綺麗じゃん。思わず触ったらさ、呪われちゃってな。捨てても戻ってくんだよ。日本に帰れば大丈夫だと思ったんだけどなあ。」

まあ確かに、呪いの箱には見えない。

大抵は古びた木箱とか定番だろう。

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「どこで手に入れたんだ?」

「イタリアの蚤の市。」

「どんな呪い?」

「眠ると死ぬ。」

「生きてるじゃないか。昨日寝たろ?」

「正確には7日眠ると、だ。夢の中に女が出てくるんだよ。」

「今日で何日目?」

「触れてからは8日目だ。」

「何で生きてる?」

「その間、3日寝てないからな。もう限界だ。」

「で、どうすんの?俺も呪われるのか?」

「お前は大丈夫だろ、そういう体質だ。」

「壊しちゃえば、その箱。」

「いや、無理だ。色々試した。」

「父さんには?」

「言って無い、今は黙っといてくれ。いよいよとなれば言うさ。そのつもりで来たからな。」

宙兄は英語は分かるがイタリア語はダメで、市で売り主に触れるなと言われたのが分からなかったらしい。

店主が怒鳴りまくり、騒ぎを聞いた英語の話せる人が通訳に入って呪いの事を聞かされた、後の祭りだ。

箱はイギリスからイタリアに渡ったもので、直に触れたものは例外なく死に至った。

しかし、その箱の見た目の美しさから人から人へと流れてきた。

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眠ると夢の中に女が出てくるのだという。

最初、女は視界の遠くにいたが、眠る度に段々と距離が近くなり、今はすぐそばに居るらしい。

夢の中の女は、やがて目を覚ましても見えるようになってきて、夢と現実的の境が虚ろになりつつあるのだという。

「あ、そうだ。」

そう言うと、兄はおもむろに俺の手を掴んだ…

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「うわっ!」

兄の傍に女の姿が見える。

兄の力は伝染する。兄に見えているものは、触れている者にも見える、そういう能力だ。

「こいつだよ、ストーカー女。」

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手を離すと見えなくなった。

「宙兄、俺の力で触れたら消えるかな?」

「いやあ、無理かなあ。超警戒してるぜ彼女。ストーカーのクセに。」

捕まえれば何とかなりそうだが…。

「はあ…こんな時アイツが居たらな…」

(?…誰の事だろ?)

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解決策の見当たらないまま、夜になった。

夢の中で考えるわ…疲れた。

そう言うと宙兄は眠ってしまった。

箱と夢、力、伝染…。

もしかしたら…、いや、いけるはずだ。

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父さんや昴兄には頼みづらいな…。

「凛姉さん。」

「悠くん、どうした?」

「ちょっと頼みが有るんだけど…」

兄の置かれている状況と経緯を話した。不思議がっていたが、真剣に聞いてくれた。

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「で、わたしは何をすれば良いの?」

凛姉さんに作戦を伝えた。

兄の傍に行き、箱を手にする。

凛姉さんと左手を繋ぐ、眠っている宙兄と右手を繋ぐ、箱は宙兄との手の間に挟む。

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イギリスなのかな?

中世ヨーロッパの町並みだ。

(夢の中に入り込めたな。)

凛姉さんも夢に入りこめた。

夢の中で凛姉さんと手を離してみたが大丈夫だった、力は伝染したままだ。

兄と、あの女が見える。

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女の周りを三人で取り囲む形になった。

女が振り向き、凛姉さんに襲いかかる!

「凛姉!右手!」

女に向けて凛姉さんが右手を向ける。

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周囲の景色が巻き戻されるようになった後、早送りのように景色が進む…。

美しい女と男、幸せそうな姿。

無理やり連れて行かれる女。

激しい拷問を受けた末、火あぶりにされる。

生きたまま焼かれ、絶叫する女。

泣き崩れる男。

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全てが終わると、男は女の遺体の一部を切り出す。

指輪のはめられた左手の薬指。

男は、あの箱のような物を持っている。

箱に吸い込まれるように指が消えた。

泣きはらしたからか、男の眼が赤く見えた。

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それらの景色が、凛姉さんの右手の中に、まるでブラックホールに吸い込まれるように集まり…消えた。

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ハア、ハア…

運動もしてないのに息が切れる。

三人とも目が覚めた。

箱は、内部が真空になったように『くしゃり』と潰れ、ただの鉄板に変わった。

「はあ、しんどぃ」凛姉さんが溜め息混じりに言った。

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力が伝染するなら、俺の力も伝わると思ったが正解だった。

「やるじゃん、凛おばさん」宙兄が呟く。

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バシッ「お姉さんって呼びなさいよ。」

(それにしても、あの眼…姿形は違うけど…。)

「やっぱりツイてないわ、厄除けしてもらわなきゃね。」

「オレは憑いてたけどな」宙兄が笑えないジョークを放つ。

数年後…あの男と再開するとは、まだこの時は予想だにしていなかった…。

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ネタバレ注意
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話が壮大になってきましたね~…
国外にも話が飛び火してたので今後どうなるのか?
色々気になる部分も多いので次回作も期待しております。

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