中編3
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海の落とし物

高校まで海の見える場所で暮らしてた。

回りには本当に海が広がるばかりで、反対方向を見れば豊かな自然が広がる山があるばかり。

いわゆる田舎というものだ。

自転車で幾らか走ればスーパーやら商店街のある町に出られるけど、何せ交通の安定してない道を通ったりするのですごく疲れる。

砂利道とかね。

電車もあるにはあるけど、一時間に何本もないような時刻表を見るたびガッカリする。

けれど、自然のなかなので食べられるものを得ようとすれば幾らでも手にはいる。

しっかり学校にいったあとは、海に行き魚釣りなどした。

いかだも自作してちょっと沖に出て大きい魚も釣って食べたりした。

そんなほぼサバイバルのような日常の中で、ある日夜の海を見たくて歩いてた。

深夜だった。辺りに光などほとんどなく、便りになるものは懐中電灯と星の光。

いつもはカメラをもった人たちが流れ星を取りに来てるのを見る。

でもその日は人はいなかった。

誰にも邪魔されずにのんびりできる所はここなのかなと一人思う。

なんせ、家に帰っても親だったり兄弟だったりに邪魔をされて静かどころか、毎日乱闘騒ぎ。

確かその日は喧嘩してる弟たちの仲裁にはいったら

「兄貴はでこぼこ!」とか訳の分からない悪口を言われて、果ては、手に持っていた溶けかけのポッキーを投げられて服がベトベトになったのを覚えてる。

そんな騒がしさの中で感じる疲れを全部海に流せたらいいなって、思いながら砂地を歩いてると、いつの間にか足元には大きなバッグがおいてあった。

見るからに流れ着きましたと言わんばかりのみためをしている。

水にぐっしょりと濡れて、ちょっとだけ海藻が乗っかってる。

おしゃれかって言われたら若干見えなくもない。

浜にはいろんなものが日々流れ着く。

瓶や、ペットボトル、大木だったり主にゴミが砂浜に横たわって、そのたびに町の人が清掃をする。

たまに浜から五百円だったり小銭の類いが掘り出されるから、子供たちからは「宝塚」とか言われてた。

この前みた珍しいものはマネキンの足だった。

だから、そんな驚くことじゃない。

「せっかくだったら夢のようなものでも流れてこないかな」とかいいながらバッグをつつく。

バッグの表面からしてわりと薄めの生地なのだが

触るとわかる、中になにか入ってることが。

少しだけ気になり、なかを確認しようとチャックを

開く。

中を明かりで照らすと紫色の風呂敷らしきものが丸まって入ってた。

何だか高そうなものだなと、手で引っ張り出す。

そしたら、いきなり風呂敷が暴れだして

「うぇうぇうぇっっ!」って叫びだしてバッグから

そのまま飛び出して二足歩行で海に走り、

海の中に消えた。

一瞬みたその姿は、小さい人のように見えた。

何だか頭のなかで整理しきれない。

静かな海は何だか怖く感じた。

そしたら沖の方で波が上がった。

あわててそちらの方に顔を向ける、同時に光を向ける。

離れていてあまり見えない。

けれど、さっきのバッグに入ってた何かに見えた。

それを見ていると、こちらに物を投げてきた。

勢いよく投げられたものは近くの地面に、ドンっと鈍い音を立てて落ちた。

「あぶねえよ!」って声を上げた。

けれど、声は全然響かず寂しく消えた。

その沖にいる何かは、ばんざいの状態で再び海に入っていってしまった。

なんだか無性に可笑しくなってきた。

込み上げる恐怖と笑いは同時に攻めてきて

「ふぇふぇふぇっ」ってサンタみたいな笑い声になって出てきた。

多分人生でもう二度と起きない体験が出来た。

さっきの投げられたものを見ようと地面を照らしてよく見ると大きなサザエだった。

なんだか捕らわれた宇宙人を助けた気分だ。

じきに朝が来るのを教えてくれる、海の地平線のわずかにオレンジ色をみて、家に帰って寝ようと思った。

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